PARTNER 国際協力キャリア総合情報サイト PARTNERニュース・コラム(第288号)

第288号  新人海外研修で学んだこと-現場主義について

 デスクの上に一枚のポストカード。差出人は昨年、お世話になったミャンマーの専門家と相手国政府スタッフ。ポストカードに描かれたエンジ色の袈裟に身を包む僧侶の姿は首都ヤンゴンでも、地方でもよく目にしたものです。そして、ポストカードを見るたびにタイとの国境沿いにあるカレン州で出会った人々の姿が思い出されます。

 新人海外研修(*)では、ミャンマーの小規模養殖により住民の生計を向上させる案件に配属されました。そこでは、専門家とカウンターパートと一緒に進捗のモニタリングと家計調査を行いました。タイと国境を接するカレン州を含む3地域の36名の住民に対して、養殖した魚の使用方法、現金収入の使途に関する調査を行いました。雨期で冠水した道を通って、丸太をくりぬいた船に乗り、住民に会いに行くこともありました。
 調査対象者のほとんどはカレン族の人々です。人口約5000万人のミャンマーでは人口の2/3はビルマ族で1/3が少数民族。カレン人は人口約400万人の少数民族であり、カレン人が多く住む山岳地帯、タイ国境に近い辺境地域では、様々な人権侵害の実態が報告されています。しかし、プロジェクトサイトの一つである州都パーン付近には、稲作、畜産、養殖の複合的農業を行い、民族衣装のロンジー(伝統的な巻きスカート)に身を包み、頭に籠を乗せ、コミュニティ内で収穫物を売り買いしながら「功徳を積む」人々の、穏やかで精神的にも平和な生活がありました。

 調査を通じて自分なりに得られたこともありました。一つは、ミャンマー社会のセーフティーネットについてです。家計調査の結果では、住民は収穫した魚と現金収入のうち20%を寄付に充てていました。寄付を行う先は僧院や教会、コミュニティ内の年輩者やリーダーです。寄付された食物や現金はコミュニティ内で再配分されるしくみになっており、社会的弱者に対しても食料や現金が届くような仕組みがありました。「もしかすると、ミャンマーの経済統計の表には、この20%が隠れているのではないだろうか。収入の金額は低くても飢える人は居ないのでは」と一つの仮説が浮かび上がりました。統計の数字の裏にある背景を見つめることを学びました。

 もう一つは、ミャンマーと近隣諸国とのつながりです。あらゆる意味で孤立している国と思っていましたが、住民の話を聞くと国境付近では人、モノ、金、情報が往来している様子が伺えました。真面目で働き者と言われるカレン族の村の人々。その多くの働き世代が近隣諸国に出稼ぎに行っている現状もありました。民主化への希望を語る人が多い中、出稼ぎによって得た収入で建てた立派な家の中で、隣国で感染症を患い病床に伏せる住民が居る、これもミャンマーの一つの側面でした。一辺倒な先入観が現場の情報とのずれを起こすことを学びました。

 今後の抱負は、自ら問題設定を行い、暗黙知を可視化する努力を行う職員として、現場でのニーズに応える開発を模索していくことです。数か月の間でも外と中からめきめきと音を立てて国が変わっていくミャンマーにおいて、歩み始めたJICA人生に置ける原点となる今回の海外研修を忘れず、日々精進していくことを目標にします。「目に見えることだけが全てではない。現場における無数の暗黙知の中のヒントに目を向ける」ことを忘れずに。 (A.M.)

(*)入構1年目の新人職員は3か月半の間、各国に派遣され、事務所内とプロジェクト内の研修を受けます。

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