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第403号  伝書鳩とブロードバンド

「南アの通信会社、データ伝送の速度で伝書鳩に敗北」

これは数年前にロイターが配信したニュースの見出しですが、ご記憶にある方もおられるのではないでしょうか。

 南アフリカで、生後11カ月の鳩「ウィンストン」の脚に4GBのデータカードをつけて飛ばしたところ、80キロを1時間8分で飛び、データを取り込む時間を含めても2時間6分57秒でデータ「伝送」を完了した。一方で大手通信会社のネットワークを使った伝送では、この間にデータの4%しか送ることができなかった・・・というものです。

 このニュースが配信されてから少し後、ある国のプロジェクトの遠隔施工管理の方法について相談を受けました。治安上の理由から日本人専門家が現場に常駐することが難しいので、現場の状況を遠隔でモニターしながら工事の進捗管理を行うことはできないかというもので、それ以来この伝書鳩のニュースは単なるトピック以上のインパクトを持つことになりました。

 そのプロジェクトでは、日本人が常駐する拠点と工事現場の間に高い山があって既存の通信インフラでは交信ができない、山頂に中継点を設けるのも迂回ルートをつくるのも正攻法ではコストがかかるので、なにかよい方法はないか? というのが解決すべき課題でした。

 最近では、スノーボードやマウンテンバイク競技などで選手が装着したり、バラエティ番組で芸人のリアクションを撮影するのに使われたりするカメラも小型化、高性能化が進んでおり、これらのツールも活用しながら、後はそのデータをどのようにして伝送するか、その仕組みを考えることになります。

 残念ながら途中で部署を異動してしまったので、その案件については最後までフォローすることはできませんでしたが、数多くの民間企業の方々にこの課題をお話し、実に様々なアイディアをいただくことができました。ポータブルの無線通信技術の提案はもちろんのこと、ユニークなものでは、ある地方の市民マラソン中継のために地元企業が製作した三輪自転車をつかった「中継システム」をご紹介くださった方もおられました。

 普段ODAに関わっておられない方々に、このような目的をもってお話をお伺いすることはとても新鮮で、楽しい経験でした。その過程で実感したのは、大企業、中小企業を問わず、日本にはいろいろなノウハウがあり、解決すべき課題さえ広く共有することができれば、何らかの答え(技術)が見つかりそうだということでした。

 国際協力に携わるうえで必要となるバックグランド、素質は何かと聞かれることがありますが、このような現場の「課題」「ニーズ」を分析して、日本のどこかに存在する「解決策」「技術」とマッチングさせることも、重要な役割だと思います。もしかすると皆さんがお持ちのネットワークを通じて、社会そのものや援助の手法にイノベーションを起こすことができるかもしれません。

 さて、冒頭の伝書鳩「ウィンストン」君の件ですが、残念ながらこのプロジェクトでは(映像を見ながらその場ですぐに指示を出したいという)リアルタイムの双方向通信が前提となっていましたので、最初の段階から選択肢からははずれていました。もしその前提条件がなかったならば、今ごろは暗号化や帰還率などの対策をクリアしたうえで、脚に専用のmicroSD防水ケースを装着した鳩たちが彼の地の山脈を越えて行き来していたかもしれません。 (H.M.)
 
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