PARTNER 国際協力キャリア総合情報サイト PARTNERニュース・コラム(第424号)

第424号  ベトナム工業化のための技能形成
技能者に関する需要と供給のミスマッチ
一般財団法人 国際開発機構(FASID)では、国内外の国際開発関連分野の大学院で学ぶ日本人人材に必要な経費を支援することにより、国際開発分野における高度なレベルの人材育成の促進に資することを目的として、奨学金プログラムを実施しています。
本稿では、海外大学院で学んでいる2014年度FASID奨学生による寄稿をご紹介します。
前号(第423号)では、国内大学院で学んでいる奨学生の寄稿を紹介していますのであわせてご覧下さい。

一般財団法人 国際開発機構(FASID)
現在、FASIDでは2014年度(2015年度支給開始)の奨学生(3期生)を募集しています。
募集情報はこちら
プレスリリースはこちらをご覧下さい。
-----------------------------------------------------------------------------------

2014年度FASID奨学金プログラム採用(2期生)
森 純一
 Cardiff University, School of Social Sciences (英国)博士課程1年在籍
研究課題: 「ベトナムにおける動的な技能形成: 『需要主導型』パラダイムを超えて」
 
 1990年初頭からの開放政策以降、ベトナムの経済は順調に成長しています。外国直接投資(Foreign Direct Investment: FDI)が増加した結果、工業化も進み、繊維・縫製などの軽工業、さらには二輪・四輪・電気電子など機械産業の発展も徐々に進んでいます。
 しかし、工業化がこれまでと同じように順調に進展するという保証はありません。近年多くの専門家は、ベトナムが「中所得国の罠」に陥ることを危惧しており、工業化の進展を阻害する要因の一つとして人材の不足をあげています。ベトナムの工業化をけん引している製造業においては、優秀な生産技術者と技能者の需要がさらに高まっているものの、残念ながら供給は需要に追い付いていません。とりわけ、比較的付加価値の低い労働集約型産業から、より付加価値の高い技能・技術集約型産業へのスムーズな移行を実現するためには、優秀な技能者の育成が急務です。世界銀行の調査によると、80%以上の企業が、技能職への応募者の技能不足を訴えています。

ユーザが追加した画像
日系金型メーカーで勤務する技能者

 また、技能者不足は、その供給源である技術職業教育訓練(Technical and Vocational Education and Training: TVET)機関が役割を十分に果たしていないことを示唆しています。ベトナムでは、TVET機関に対する企業の信頼は低く、また若年層の間でも進学先としての人気が落ちていることがしばしば指摘されています。ベトナム政府は、技能者不足の拡大とTVET機関の能力不足を認識しており、国際機関や二国間援助機関さらには外資系企業などの意見にも耳を傾けつつ、産業界のニーズに合った訓練プログラム、つまり需要主導型の訓練の実施を政策目標として打ち出しているものの、なかなか有効な策を実施できずにいます。

ユーザが追加した画像
ハノイ工業大学における旋盤加工の実習

 私は、研究者および国連機関の職員としてベトナムの工業化、特に付加価値の高い工業化を実現するための裾野産業発展戦略に関わるうち、その施策としての人材育成に興味を持ち始めました。企業と教育訓練機関の連携の重要性について研究などを通じて提唱してきましたが、その後、JICAが支援する「ハノイ工業大学技能者育成支援プロジェクト」の専門家となり、自分のアイディアを実践する機会に恵まれました。
 教育訓練の現場において産学連携しての技能者育成に携わるうちに、ベトナムにおける技能者育成を阻む様々な課題が見えてきました。第1に、技能者の需要については客観的なデータも少なく、TVET機関職員・政府を含めた多くの関係者が実のところその需要に確信を持てずにいます。第2に、需要主導型訓練の根幹をなす「企業の技能需要」は多様で変化も激しく、把握するのが難しい。最後に、若年層を含めた供給側は、例え十分な情報があっても、常に産業界の需要通りに行動するとは限りません。需要主導型訓練のコンセプトは新古典派の経済学理論に大きく影響されており、企業出身であり修士課程で主に経済学を履修した私も自然とその考えに同調していましたが、こうした理論だけでは現実は測りきれないことを、現場の経験を通じて改めて認識しました。

ユーザが追加した画像
ハノイ工業大学における就職フェアに参加する学生

 上記のようなベトナムにおける技能形成の阻む事象をさらに詳しく分析するため、私は英国において博士課程に進学しました。経済学・社会学の面から技能形成に関する幅広い知見を持つ指導教官を得たことが修学先を選んだ一番の理由ですが、援助業界において大きな影響力をもつ欧州の理論的潮流を把握することも重要だと考えました。1年目は、リサーチ手法などのコースを履修しつつ、主に技能の需要と供給のミスマッチに関する経済学と社会学の理論的枠組みと最近の潮流について研究してきましたが、途上国において紹介される欧州先進国の仕組みの裏にある歴史・文化的背景とさまざまな課題を当地にて知りました。 FASID奨学金を頂くこととなった来年は、ベトナムにおいて現地調査を行い、企業内部の技能および訓練需要把握の実情、現役技能者と技術者の教育訓練およびキャリアパス、さらには若年層の教育訓練およびキャリアの決定要因などについてのデータを収集・分析する予定です。
 まだまだ道のりは長いですが、博士課程においてベトナムの技能形成に関する理論的な知識を深めたのち、将来的にはベトナムもしくは他の途上国における最適な技能形成戦略の作成に、何らかの形で関わりたいと考えています。
先月 来月