PARTNER 国際協力キャリア総合情報サイト PARTNERニュース・コラム(第456号)

第456号  余剰労働力を活用するために必要な政策とは?

一般財団法人 国際開発機構(FASID)では、国内外の国際開発関連分野の大学院で学ぶ日本人人材に必要な経費を支援することにより、国際開発分野における高度なレベルの人材育成の促進に資することを目的として、奨学金プログラムを実施しておりただいま奨学生を募集しています。
本稿では現在、海外の大学院で学んでいる奨学生の寄稿をご紹介します。

2015年度(2016年度支給開始)募集についてはこちらをご覧下さい。
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2015年度FASID奨学金プログラム採用(3期生)
松田 宜彦
University of Wisconsin, Department of Agricultural and Applied Economics(米国)博士課程3年在籍
研究課題:「発展途上国における都市部フォーマルセクターの雇用」

「工業・サービス業の雇用を増やすには何が必要なのか。農村部の余剰労働力を都市部の産業で吸収するには何が必要なのか。」この問題意識は、私が途上国での仕事を通じて抱いてきたもので、今も博士課程の研究を進めていくうえで大きな原動力の一つとなっています。カンボジアの農村で暇を持て余す若者がいた一方、都市部近郊で多くの女性がトラックの荷台に乗って工場に通っていた光景を今も鮮明に覚えています。非農業分野の雇用の重要性は、途上国の開発政策においても脚光を浴びつつあり、例えば世界銀行の2013年世界開発報告は「JOB」がメインテーマでした。私は、途上国の雇用問題とそれに付随する産業育成・都市政策に関する知見を深めたいと考え、2013年に博士課程に留学し、現在3年目を迎えています。

【ウィスコンシン大学マディソン校のキャンパス】
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博士課程では、これまでコースワークを通じて経済学・計量経済学の理論と手法について、最先端のものを含めて多くのことを効率的に学ぶことができたと思います。また、頻繁に開かれているセミナーやカンファレンスでは最新の研究に触れられ良い刺激を受けており、恵まれた研究環境に身を置くことができたと感じています。

研究面でも、自分の問題意識に合致した複数の研究を行うことができています。労働政策を評価する研究として、「解雇規制などの労働規制は労働者を保護する一方で、全体の雇用量や企業の生産性に負の影響を及ぼすのではないか。労働規制は、政府の監督・取り締まり(エンフォースメント)があって初めて効果が現れるはずだから、エンフォースメントの有無によって労働規制の影響は変わるのではないか」という仮説のもとで、バングラデシュとエジプトのマイクロデータを用いて、エンフォースメントが企業の雇用と生産性に与える影響を分析し、ワーキングペーパーとしてまとめました。分析上の課題は残されていますが、バングラデシュの事例では相対的に強いエンフォースメントにさらされている企業は、そうでない企業に比べて1年後の従業員数が統計的に有意に少ないという結果が得られました。また、農村部から都市部への出稼ぎに関する研究として、農地不足や農地の収益性低下が深刻な問題となりつつあるエチオピアの農村部で現地調査を行い、出稼ぎが最も重要な生計手段の一つとなっているものの、都市部での職探しは簡単ではなく、出稼ぎに伴う費用も大きな負担となっているといった出稼ぎの難しさを把握することができました。

今後は、FASID奨学金をいただきながら、研究に本格的に取り組んでいく予定です。上述の研究をまとめると同時に、さらに、南アフリカとインドネシアに関する論文を執筆したいと考えています。

【土壌侵食と劣化が進むエチオピアの農地】
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南アフリカは20%を超える高い失業率を1990年代から慢性的に抱えていますが、その原因は今もはっきり分かっていません。他方、経済社会的弱者に対する支援策が、アパルトヘイト撤廃後から特に拡充され、手厚い社会保障が存在しています。私は、この手厚い社会保障が労働市場や失業率に影響を与えているのではないかと考え、年金と子供手当に着目した研究を始めています。例えば、年金については、過去の年金保険料の納付実績にかかわらず、60歳以上の人々に所得中央値の2倍近い金額が給付されるという寛容なものとなっています。この手厚い給付が、受給者本人に加えて、受給者と同居する働き世代の子供や孫の就労意欲を引き下げているのではないかという仮説の下で、標本サイズが400万を超える大規模なミクロデータを用いて分析を今後進める予定です。これまでの予備分析では、年金が受給者の労働市場参加率を統計的に有意に引き下げているものの、働き世代の同居者に対する影響は見られない、という結果が得られています。
インドネシアの研究では、農村部から都市部への移住・出稼ぎを促進、阻害する要因として教育に着目した研究を始めています。インドネシアでは1970年代に国家プログラムとして多くの学校が建設されたのですが、この事例を取り上げて、「農村部の若者の中では、教育を受けた者ほど都市部に移住する傾向にあるが、都市部の若者に関してはこの傾向はない」という仮説を検証しており、これまでの分析では、この仮説を支持する結果が得られています。私はこのメカニズムとして、高い教育を受けた人材に対するニーズは都市部で高いため、教育を受けた農村の若者は都市部に移住して就労するのではないか、と考えています。

博士課程を通じて、アカデミックな世界だけでなく実際の現場でも通用するような、途上国の労働問題や都市・産業政策に関する知識と、マクロとミクロの両面から政策を評価する技術を身に付け、将来は、途上国の労働・産業政策に関わる仕事に従事したいと考えています。
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