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第499号  地球上どこでも誰でもが基礎的な救急医療を享受できる世界を夢見て

一般財団法人 国際開発機構(FASID)では、国内外の国際開発関連分野の大学院で学ぶ日本人人材に必要な経費を支援することにより、国際開発分野における高度なレベルの人材育成の促進に資することを目的として、FASID奨学金プログラムを実施しています。

FASID奨学金プログラムの詳細は、コラムの末尾、及び、こちらをご覧下さい。

本稿では、国内の大学院で修学中のFASID奨学生(5期生)による寄稿をご紹します。
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地球上どこでも誰でもが
基礎的な救急医療を享受できる世界を夢見て


鈴木 貴明
2017年度採用(5期生)
修学機関: 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 ヒューマン・ケア科学専攻
博士(公衆衛生学)プログラム 1年次
研究課題 「開発途上国における救急医療体制の構築」


略 歴 :医師、救急科専門医。 2011年筑波大学医学専門学群卒。卒後6年間は国立国際医療研究センター救命救急センターにて救急診療、教育、研究に従事。同センターにおいては、東南アジア、アフリカ諸国における救急医療人材の育成、救急医療体制の構築支援を中心とした開発業務にも参画した。2017年から筑波大学大学院の博士(公衆衛生学)プログラムに所属、アジア圏の後発開発途上国における救急医療体制構築に関する研究に取り組む。筑波大学附属病院国際医療センター、救急・集中治療部のスタッフとして国際医療、救急診療にも従事している。

救急医療と国際開発
 救急医療の道を志したのは中学3年時。病気や死とは「無縁」と感じていた中で遭遇したテニス仲間の練習中の急死がきっかけだった。直後、日赤の救命講習会や救命に関わる本を読み漁り、不慮の死、突然の予期せぬ死の予防をライフワークとして取り組みたい、と筑波大学に進学した。突発不測の危機に対してヒトは何が出来るのか、その答えに近づく為に救急医療の道を選択、卒後、医師としての第一歩は国立国際医療研究センター(以下、NCGM)を選択した。救命救急センターでは6年間、月一千台を超える救急要請を受け入れ、救急医療が持つ多様性、社会との接点、救急医療の幅広さ、奥深さを学び、多角的な視点を得た。
 一方、医学部時代に救急医を志し、実際に救急医療の現場で救急医としての日々を過ごすに至るまで、国際開発は常に身近な存在であった。家族は当時みな開発の世界に身を置き、貧困と経済、貧困と教育をテーマに家族内で活発な議論を広げる機会も多かった。在学中は、ミャンマー無医村地区で医療ボランティア活動を実施、貧困と医療、開発と救急医療、将来はその接点に近い場所で働きたいとの想いが芽生え、迷いは生じなかった。卒後、国際医療研究センターで働く中で、同センターが有する国際医療協力局にも幾度も足を運び、国際開発が実務上、医療、保健の分野でどのようになされているか学ぶ機会も頂戴した。
 開発への道を歩みたいと真剣に向き合い始めたのは卒後5年目、救急科専門医となった年であった。本邦の外傷に関する大規模データを用いて研究を実施、成果をアジア最大規模の学会で発表した。世界保健機関西太平洋事務局(以下、WHO-WPRO)では外傷予防に関する地域行動計画立案を目指した会議に専門家として参画、開発と救急医療の接点に大きく近付いた時間であった。ただ何よりも心に深く響いた時間は、ケニア第3の都市キスム、ラオスの首都ビエンチャンという2つの地域において現地救急医療人材の育成、救急医療体制の構築に取り組んだ3カ月であった。現地の医療スタッフと日夜どのような人材、体制が社会、市民のニーズに応えうるか頭を悩ます中で、突然にして大切な人を失う悲しみは先進国、途上国、どの国問わず世界共通、という真実を肌で感じた。そして、地球上どこでも誰でもが基礎的な救急医療を享受できる世界を目指して、日々その一助となれるよう成長していきたいと考えた。
 
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 (NCGM救命救急センター、筆者右下、2014)               (WHO-WPROにおける会議参加時、2015)

大学院への進学
 卒後6年目には、南アフリカで開催された世界最大の救急医学の学会において、ラオスをフィールドとして行った交通事故予防に関する研究を発表、世界各国の研究者と意見を交わす中で地球規模での救急医療のニーズ増大を痛感した。また、これまで数多くの困難を乗り越え、広く公共性に富む救急医療をいつ何時も全国民に提供してきた本邦は、救急の国際舞台においても広くリーダーシップを発揮していく事が求められていると強く感じた。中長期的にASEAN諸国はじめとした開発途上国における救急医療体制構築に専念したい、そう強く思う反面、夜も眠らぬ街の救命救急センターで臨床と並行して国際開発活動を行う事には限界を感じた。何年か描き続けてきた夢への挑戦、そして時、場所を問わず救急医療へのアクセスが確保される社会の構築に向けて貢献するんだという強い決意の中、まずは自分自身に不足していた国際保健、公衆衛生学に関する見識を深めるべく大学院進学を決意した。
 大学院への進学を考えた時、まず迫られた選択は国内進学か海外留学かであった。最終的に国内進学と決めた理由は、救急医として積み重ねてきた経験を強みに今後開発を目指す上で、救急医学のアカデミックな場を離れ、臨床からも完全に身を引く事は中長期的に得策でないと判断したからである。救急医学から適度な距離を保ち、公衆衛生学の見識も高められ、開発途上国における救急医療体制構築支援に十分力を注げる場はどこか、そう考えた時に浮かび上がってきたのが、母校の筑波大学であった。そして幸運にも小生が入学予定の2017年4月から、筑波大学に国立大学初となる博士(公衆衛生学)取得可能なコースが開設される事を知った。
 現在は筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻の博士課程1年次に籍を置き、国際社会医学研究室にて研究活動を行っている。同時に、筑波大学附属病院の国際医療センター(救急集中治療部併任)のスタッフとして国際開発、救急医療の実務にも関わり、厚労省管轄の医療技術等国際展開推進事業の案件をリードしたり、ラオスやカンボジア等から来日した研修生への指導を行ったりしている。何より職場からは大学院優先への配慮を数多く頂き、開発に関わる様々な専門家の方々から研究活動内容へのフィードバックを頂ける事は大いに助かっている。
 
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(世界救急医学会、南アフリカにおける発表、2016)     (医療技術等国際展開推進事業での研修、筆者一番左、2017)

FASID奨学金プログラムへの応募
 国際開発機構(FASID)への応募を考えたのはすでに大学院から合否を頂き、進学先を決めてからの事であった。研究テーマは、開発途上国における救急医療体制の構築、これまで様々なご縁を頂いてきたラオス、カンボジアを拠点に、現場フィールドにて知り得た市民のニーズを最大限に配慮し、研究活動を行おうと考えた。一方、現地に長期に滞在、研究活動を行う場合、経済的な懸念も当然あり、何とか経済力に左右されず、研究成果、その研究意義に最大の重きを置き、質の高い研究を行いたい、そう考えた時に奨学生としての進学が頭に浮かんだ。その中で出会う事の叶ったFASIDの奨学金プログラムは非常に魅力的であり、地球規模の課題解決を目指す、その活動理念にも深く感銘を受けた。今こうしてFASID奨学生(5期生)としての進学叶った事はこれ以上ない喜びであり、多くの方々の支援に感謝、地球規模の課題を解決していく事への責任感、初志を常に忘れず活動に励む力へと繋がっている。
 研究活動は比較的順調に進んでおり、現時点においては、現地の救急医療に関する基礎的な調査を終え、さらなるデータ集積、解析を行おうとしている状況である。ただ何よりも嬉しい事は、まとまった時間を現地で送り、現地の救急医療従事者との信頼関係が構築された事である。それはまさにかけがえのない財産だ。開発に関わる研究を始めてまだ日浅いが、同領域に関する研究を行う上で一番大切な事は、相手への尊敬、自分の解釈や価値観を過信せず、現地スタッフと十分にコミュニケーションを図り、現地が置かれた処遇、環境、文化、価値観など、全てにおいて高い関心を持って「よく知る(努力をする)」事だと感じている。相手、相手国を良く知る事は、自分、また日本を良く知る事にも繋がり、学びもより一層深まる。研究の新規性、独自性を生むきっかけにもなると考えている。
 今後も、FASID奨学生として地球規模課題への想いを胸に、現地へと積極的に足を運び、現場のニーズを五感を使って吸収し、実りある研究活動、研究成果に向けて日々努力を続けていきたい。
 
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(ラオスの救急医療をリードする医師との交流、筆者一番右、2017)         (第1回ラオス集中治療医学会における招待講演、筆者右、2017)

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FASID奨学金プログラムの特徴(2017年度募集)
・日本国内および海外における修学を支援。
・新規・既入学者いずれも支援の対象(含5年一貫制博士課程)。
・国際開発分野はフィールドや実務との密接な関係があるため、就業中の方も支援の対象。
・支援期間は最長3年間(学年暦)。給付制の奨学金。
(1年間を超える支援については、申請に基づく審査があります。)

2018年度募集(2018年度夏頃、FASIDウェブサイトにてご案内します)

 
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