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留学のメリットは、多様な背景をもった人との出会いや触れ合う情報の量と層の厚さ ~留学の経験を国際協力に活かす~

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上智大学新聞学科卒。1994年国際協力事業団(JICA)(現・独立行政法人国際協力機構)入団。研修事業部、外務省出向(在パリOECD日本政府代表部にて開発援助委員会(DAC)担当)、地域部、秘書室勤務を経て、029月よりロンドン大学大学院(LSE)留学。NGOマネジメント修士課程修了。現在、国際協力NGOセンター(JANICで広報グループと能力強化グループのマネージャーを務める。


 国際協力分野で活躍する人の中にイギリスの大学院留学経験者が多い。1年で修士号が取得できる(が故に比較的費用が安くすむ)、イギリスの大学は世界的に評価が高い、といった理由からだ。今回は国際協力NGOセンター(JANIC)で広報グループ・能力強化グループマネージャーを務める松尾沢子さんにご登場いただく。松尾さんはJICAに入団後、外務省に出向。ロンドン大学院留学後、バングラデシュのBRACなどのNGOでのインターンを経て、JICAに復職。その後転職を果たし、現職に就いた。イギリス留学のメリットとデメリット、キャリア形成についてうかがった。
 
JICAに入団後、留学を考えたきっかけとは?
 1994年に大学を卒業後、JICAに入団。職務を経験する中で、漠然と「このままでいいのか」と考えるようになりました。
 留学を考えはじめたのは、外務省に出向中の97年頃です。その頃参加したDACでの会議ではNGOや企業関係者も参加して議論する機会があり、国際協力の分野でのアクターの多様性を実感しました。また帰国後、99年にJICA地域部で担当した業務は、NGOJICAのプロジェクトを外部委託する事業の制度化と実施で、この仕事でより直接的にNGO関係者と関わった影響が大きいと思います。国際協力のアクターとして存在感を持ち始めたNGOとの関わり方をJICAはもっと考えなくてはいけないと思うようになったのです。
 その頃、ちょうどロンドン大学の大学院教授が来日し、NGOの活動面だけでなく組織としてのマネジメントについてのセミナーが開催されました。その話を通じ、NGOとマネジメントという一見、相いれない概念を重ねていくことについて興味を抱くようになりました。
 そこでJICAの海外長期研修制度 を活用し、留学することを決めました。2年間の機会を得た時、アメリカの大学院も検討しましたが、セミナーで聴いたNGOのマネジメントという発想にとても魅せられたことと、2年目をNGOでのインターンに充てることができると考えたため、教授が教鞭をとるロンドン大学を選びました。応募に際しては大学時代の教授からの推薦状取り付けに苦労しました。久しくコンタクトをとっていなかったゼミの担当教授に私の意向を説明しご協力いただくのには苦労しましたし、時間的にも綱渡りの状況でした。というのは、その教授の退官が間近に迫っていてご多忙だったからです。留学というのは一人の力でできるのではないのだと実感した一例でした。
現在、同研修については制度の見直し中)
 
実際の講義はどのように進められましたか?
 NGOとマネジメントという考え方はまだ新しく、教授自身も確定した答えをもっているわけではなく、「このような考え方をしたほうがいいのではないか」という問いかけを軸に、学生自らが実体験を踏まえつつ、自由に模索するスタイルで進められました。
 学生は途上国のNGOの現役スタッフが大半だったため、講義内容もマネジメントをミッション達成のための活動と、組織体の運営やそこで働く人とのバランスで考えるといった、現場で培った知見を俯瞰するものでした。
 学生の経歴や講義の内容は、政府系機関の職員という経験のみ持つ私にとっては、国際協力にかかわる組織や人材の多様性を知る良い機会でした。それだけでなくこれまで私が行なってきた仕事も異なった観点で捉えることができるようになりました。
 外務省出向の際、OECD代表部の開発援助委員会を担当し、国際会議における政策議論では、政府だけでなくNGOやシンクタンク、企業など異なる立場の人たちが関わっていました。
 当時の体験からある程度NGOの考え方は理解していると思っていました。
 しかし、留学し、主に途上国のNGOの状況を知ったことで、各国によってNGOの置かれた状況や期待されていることは違うことを知り、これまで「NGO」とひとくくりにしていたNGOの背景や外部環境との関係性、その結果としてのミッションや役割の多様性について気づかされました。
 それだけに国際協力のアクターが多様化する中、特定の側面しか知らないでいると気づかないことが多く、立場を変えること、異なった環境に身を置くことの意味を知ったと思います。
 
留学中にどのような変化が自身に訪れたと思いますか?
 問題解決の際に、複数の観点から問題を考えるための想像力を働かせられるようになったと思います。その変化が自らのキャリアについて検討を迫ることになり、留学後はまずJICANGOをつなぐ役割を、ゆくゆくは国際協力の多様なアクター間のつなぎ役を担う仕事をしたいと思うようになりました。
 同時に、国際協力に限らず、私たちの社会の改善についても言えますが、政府をはじめ、既存の権力や制度が住民を守り、その延長上に国際社会の秩序をつくるというやり方には限界があるのではないかと考えるようにもなりました。
 というのも、イギリスでの留学後、残りの1年をインターンとしてバングラデシュのBRACなどで過ごした経験を通じ、社会問題は既存の組織や制度だけではなく、様々な民間のアクターによって解決されている局面を知ったからです。
 比べて日本はまだまだ民間の立場が弱い。それを活性化させるためにはどうすればいいかと考えた結果、私自身が当事者として動かないといけない。その方向で自身のキャリアの展望を考えるようになりました。
 このような発想ができるようになったのは、留学中に出会った教授や学生、NGOの経営者およびスタッフによる刺激が大きいと思います。
 
留学のメリットとデメリットとは?
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留学のメリットは、多様な背景をもった人との出会いや触れ合う情報の量と層の厚さにあると思います。日本にいるよりも、図書館機能が充実しているので知りたい内容が書かれた文献と出会う機会も多いですし、関心事のテーマを掲げたセミナーの開催も多いため、情報源に近くなります。
 これから留学を考えている人に向けてアドバイスをするなら、まず自分が受講したいと思っている講座以外にも注意を向けたほうがいいでしょう。
 たとえば「NGOのマネジメント」というタイトルはついていなくても、自分の関心に合致する講座がある場合も多いので、シラバスを詳細に読むこと。
 さらに教授の経歴や研究テーマを詳細に見たほうがいいでしょう。教授の専門領域が書いてあっても、1020年前の論文で扱った内容で、いまは違うテーマに関心を注いでいる場合もあります。教授や研究テーマについての最新情報を入手し、可能ならば卒業生から話を聴くと尚いいでしょう。
 私が感じたデメリットがあるとすれば、留学そのものよりもイギリスの大学院の特色かもしれません。少なくとも10年前の段階では、アメリカの大学が学生に対するケアが厚かったことに比べて、イギリスはよく言えば自立を重んじているため、教授が自身の研究に関連した調査活動を優先し、修士論文執筆時の指導時間が限定的になる等、期待していたケアが得られないという傾向もありました。
 
キャリアの形成をどのように考えればいいでしょうか?
 留学後のキャリアについては、事前にいくつかのパターンを想定しておく必要はあると思います。 つまり、「絶対にこうする」と決めてかかる計画は立てない。なぜなら1年や2年の間、学ぶ中で考えは変化するからです。ひとつに決めるとそこに縛られて選択が不自由になるので、「どれを選んでもベストだ」くらいの気持ちで留学中にパターンを点検し、修正するほうがいいと思います。
 私の場合は、JICAに残るか辞めるか。残る場合はどのような部署を希望するのか。辞めるとすれば、時期はいつなのか。辞めた後、民間企業でNGOと関わる仕事を選ぶのか。それともNGOなのか。いくつも選択肢を想定し、私が尊敬する同僚たちやJICAの業務の中で知り合ったNGOの方々に相談する中で幸いにも決めていくことができました。
 留学中に経験したこと、知ったことがいまの業務の上で役立っているのは間違いありません。ただし、留学することが目的化してはもったいないとも思います。大学院が与えてくれる学びの環境を超えて、人や事象に積極的に出会っていく時間を自分なりに考え、実行していくことが後々のキャリアの強みになる知識や人脈の形成に大いに役立つと思います。(201111月インタビュー実施)


本インタビューは、「見えキャリ 先輩のキャリアマップ」で公開していた内容と同一です。