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自分の“興味”をビジネスというアプローチで社会貢献へとつなげていく ~社会貢献活動におけるキャリア(途上国ビジネス編)⑥~

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自称「ソーシャルクリエーター」として、さまざまなアプローチで世界に貢献できるビジネスを展開している北澤 肯さん。自転車に広告を出稿するアド・バイク事業や海外の社会派映画の日本での普及など、ゼロから事業を作り出していくクリエーターである一方、JICAのプロジェクトに専門家として参加する。よい意味で、ソーシャル・ビジネス業界の異端児である北澤さんに、ご自身のキャリア形成や、社会貢献とビジネスのバランスについて伺った。
 
 まずは「こっち」が変わらなければ
 大学卒業後、アメリカ留学、英会話スクールの講師、カンボジアでの保健プロジェクト現地代表、フェアトレードNPOなどを経て、2006年にエコビジネスの会社を立ち上げた。留学当時はNPOという言葉すら知らなかった北澤氏が、既存の国際協力の枠を超えて様々なソーシャル・ビジネスを生み続けている。その機動力はどこからくるのだろうか。
僕は基本的に子どもで、わがままなんです。だから、好きなことしかやりたくないんですね。学生時代の就職活動でも、そのまま企業に勤めるということに違和感を持ち、それまでに学校から学んだことが大きかったこともあり、大学4年から教師を目指すことにしました。教師になる前に、いろいろな世界を知りたいと思ってアメリカ留学とカンボジアでのNPO活動を経験しました。

アメリカでは、HIVデイケアセンターで働いたり、フードバンクのボランティアや学生新聞のライターをやったり、1年間のうちにできるだけアメリカ社会のことを知りたいと思って、勉強以外のさまざまな活動に挑戦していました。

 アメリカはまさに人種のるつぼ、文化のるつぼ。それぞれの人が、それぞれのアイデンティティで生きているのを目にして「何でもあり」なんだって、妙に自信がついたというか、「日本人枠」の中で生きなくてはいけないという縛りが、ふっきれたというか。HIVデイケアセンターでは感染者の人に配るお弁当を作る仕事だったんですが、仕事帰りのお母さんが託児所で子どもを引き取った後に、近所の感染者の人に届けるためのお弁当を取りに来ていました。普通の生活の中で社会と関わっていて、これは「今の日本にはないことだな、スゲーな」と感動しましたね。

カンボジアでは、JOCSという医療系NPOの母子保健のプロジェクトのポストがたまたま空いていて、いきなり現地代表として入ったのですが、当然、経験不足、実力不足で、それはそれは苦労しました。周りの現地人スタッフ、日本人スタッフは、使えない代表のせいで、もっと苦労したと思いますが(笑)。

 ここでの大きな「気付き」は、貧困は構造的な問題だということですね。先進国の援助政策もそうですし、企業の途上国での事業活動にしてもそうです。たとえばWHOコード(WHOとユニセフによる母乳代用品の販売流通に関する国際規準)では、医療機関での粉ミルクの宣伝活動は禁止されています。これは、途上国では清潔な水が手に入らないために汚い水で作られたミルクでたくさんの赤ちゃんが感染症で亡くなったり、粉ミルクを買う経済力の問題やお母さんが字が読めないためにミルクを薄く作ってしまい、それが栄養失調を引き起こしたりしたからです。でも、カンボジアではヘルスセンターで、白衣を着たスタッフによって堂々と粉ミルクが宣伝されていたんです。しかもそのスタッフは世界的な大手食品メーカーの人でした。

 このような先進国の企業活動(先進国の途上国社会への介入)は、途上国の不衛生や教育機会の不足といった根本的な問題を無視するばかりか、それらの問題によって引き起こされる貧困を助長させているのです。

 カンボジアに行く前は、おこがましくも、カンボジアを少しでも良い方向に変えられたらと思っていたのですが、変わらなくてはいけないのは、逆に「こっち(日本を含めた先進国側)」だなと思いました。

挫折感のようなものを持って帰国した後、消費者としての日本人や日本企業の責任を問うフェアトレードに出会いました。これなら「こっち」が変わる!と、フェアトレードの国際認証機関であるフェアトレード・ラベル・ジャパンで働き、フェアトレードの全体像を学びました。2005年に退職し、フェアトレード・リソースセンターを立ち上げ、世界のフェアトレード情報を日本に発信したり、関連書籍を執筆・翻訳したり、海外の社会派映画* を日本に持ってきたりしています。

 2006年に設立した合同会社グリーンソースでは、「ソーシャル(=社会貢献)」をキーワードに、自転車やフェアトレード関連のビジネスをやっていますが、社員は自分一人なので基本的にはフリーランスです。

 最近思うのは、フリーランスとして生きるためには、「3つのワーク」が大事だということ。1つはネットワーク、2つはフットワーク、3つめはワックワーク。1人では何もできないからネットワークは重要です。それからスピードと実行力も大事ですから、フットワーク。そして自分が楽しくないと立ち上げられませんし、続きませんから、ワックワーク(笑)。
 
* 2008年に北澤氏がイギリスから日本に持ち込んだフェアトレードを題材とした映画「おいしいコーヒーの真実」は、ドキュメンタリー映画としては異例の大ヒットとなった。北海道から沖縄まで全国の劇場や大学、フェアトレードショップなどで上映され、2年経った現在も上映依頼がくるという。次は海産資源に関する映画を持ち込もうと奔走中。

 ビジネスを通して、社会に問題を提起する
 自身が興味を持ったことをビジネスにつなげてしまう北澤さん。そのアイディアと実行力には目を見張るものがある。
フリーランスは企業勤めをされている人より自由な時間が確保しやすく、平日の昼間も動きやすいし、いろんなことにアンテナが張れているのかもしれませんね。実行力ということでは、動かないと誰もお金をくれないので、「動くしかない!」んです。「自分」の市場価値を上げるために、ニッチな分野を狙って勝負することは常に考えています。誰もやっていないことなら自分が一番になれますし、そこである程度の規模まで活動を膨らませることができれば、何らかの収入になります。

 社会貢献とビジネスは相反するものと捉えられがちですが、やはりお金がついてこないと何も始まりません。たとえ始められても続かないですね。たくさんのお金は必要ないのですが、ある程度は必要です。でも、ほんと、数万円の初期投資で動き出して、大化けするものって、多いですよ。イベントとか。

 現在収入の多くは、マウンテンバイクや部品の輸入・ネットショップの方で得ています。このようなベースとなる収入があるので、たくさんの時間をフェアトレードなどのイベントの開催や翻訳業務、更には新しいプロジェクトの発掘に使えます。

 マウンテンバイクというのは「里山」と言われる町と山の境界線をフィールドにしているスポーツで、人と自然の付き合い方みたいなものを凄く教えてくれます。環境教育にもいいですし、トレイル(舗装されていない山道)保護なんていう社会的な課題も多く、今、非常に深く関わっています。自転車ひとつにもエネルギー問題、都市問題、温暖化などの環境問題などが絡んできますし、もう1つの事業であるフェアトレードも、南北問題、貧困問題、貿易問題などにつながっているので、ビジネスを通して、こうした問題に興味のない人たちにも知ってもらえればと思っています。身近なところで消費者として意識づけされれば、政治や国際問題にも関心を持つようになり、世界も変わっていくと思うんです。

昔は自分のミッションやテーマをフルタイムの仕事にしなければと思っていました。もちろんそれはそれで良いのですが、最近は、何か得意の分野で稼ぎつつ自分の時間を作り、その時間でお金に拘らず自分がテーマとしている活動をするのも良いかと思っています。そこからまた新たなビジネスが生まれたりしますし。またいろいろなことに携わっていれば、いろいろな分野の人との出会いもあり、各々の仕事やプロジェクトがうまくいったりもしますね。

 とはいえ、僕のようなビジネススタイルが成立するのは時代のおかげだと思います。インターネットの発達は、新たなビジネスチャンスと人間関係を構築してくれると常に感じています。まさに個としての人をエンパワーしていると思います。今まで企業にしかできなかったことが、個人でもやれるようになったのですから。

数年前から、開発のアカデミックな世界でもフェアトレードへの関心が高まり始めました。僕もアジア経済研究所のフェアトレード研究会メンバーになり、そこから研究費が出たり、本の出版につながったり、更には、開発コンサルタント会社からの要請で、現在のJICA専門家の仕事のお話を頂きました。

 僕に声がかかったのは、援助の世界でもフェアトレードなどのマーケットメカニズムと貧困削減をつなげたスキームが注目されるようになり、僕のフェアトレードの経験を評価してもらえたからだと思います。僕のような変なキャリアでJICAのプロジェクトに関わることは珍しいことだと思うし、ODAという新しい世界を見られるので嬉しいオファーでした。

現在ベトナムの「農村地域における社会経済開発のための地場産業振興にかかる能力向上計画」というプロジェクトで伝統的な織物や有機茶などの製造、マーケティング支援をしています。プロジェクト地は、住民の8割以上が少数民族からなる北西部の山岳地帯です。車の侵入が禁止されている自然保護区のエコツーリズムに関する調査ではマウンテンバイクで村を回ったこともありました。JICAの調査を自転車でやった人はあまりいないのではないかと思います。

 ODAの仕事はなかなか難しいですね。相手政府の意向もありますし、僕は自由に一人で仕事をするのに慣れているので、なかなかペースが掴めないということもあります。しかし、やはり政府間の援助は規模も大きく、知見や経験の集積もあるので、国際協力においては重要なセクターだと思います。

フリーランスになって5年。今までのことを振り返ってみると、初めの3年で撒いた種が、ようやくここ1~2年で芽を出してきたのかなと思います。

 若い人たちへ
 独自のキャリアを積み、様々なソーシャル・ビジネスの成功事例をつくっている北澤さん。これからソーシャル・キャリアを積んでいきたい人に伝えたいことと、自身がこれから目指すことは?
若い人たちにキャリア相談をされたとき、必ずアドバイスするのが「まずは一般企業に入ってみること」。最近では官民連携のODAプロジェクトも増えてきましたし、企業から協賛金を出してもらってイベントを開催したり、国際協力であっても一般企業と付き合うことが多くなります。特に僕のようなビジネスとしての国際協力をしている人間は尚の事です。そのためにも、利益を生み出すメカニズムや企業人のメンタリティなどを知る必要があります。それらを、お給料をもらって勉強させてもらう機会は若いうちに得ておいて損はないし、今後の社会貢献活動に必ず役に立つはず。僕自身、その経験がないために苦労したことが多いです。企業からNGOやフリーへの転職はできますが、逆はなかなか難しいですからね。でも、僕に相談にくるような、ちょっと変わった若い人たちには、なかなかわかってもらえなくて、結局、企業に就職せずに、NGOや起業、独立に突き進んじゃう人が多いですけどね

 また、若いうちは行動力とアイディアが勝負ですが、その後は実績に基づくキャリアと人脈が要になります。僕もアイディアが枯渇する前に、しっかりとした実績をつくり、キャリアと人脈を確立すること、を今後の目標にしています。
 前述したベトナムでの自然保護区のエコツーリズムは、このプロジェクト内では実現できなかったので、現在、別の形で実現できないか計画中だという。エコツーリズムによって、雇用が生まれ、自然保護区内に住む少数民族の人たちへの収入向上、それによる森林保護を目的としたCBTCommunity Based Tourism)である。

 北澤さんの興味と経験と人脈、それに大切にしている「3つのワーク」すべての要素がうまくつながり、また新たなビジネスが生まれそうである。

  これまで6回にわたり、途上国ビジネスの分野でご活躍されている方々をご紹介してきました。フェアトレードやBOP、社会的投資といったアプローチで、途上国の人々と共にビジネスを展開されている方々にお話しをお聞きしてきましたが、少しでも皆さまの今後のキャリアパスにおいて参考にしていただければと思います。

本インタビューは、「ソーシャルキャリアはどうつくる」で公開していた内容と同一です。