【濱田さんプロフィール】

濵田 直美(はまだ・なおみ)さん
大学卒業後、民間企業勤務を経て、国際協力事業団(現国際協力機構(以下JICA))のジュニア専門員となる。
1999年、保健医療分野の企画調査員としてザンビアに赴任(2年4か月)。その後、ロンドン大学(LSHTM)に留学して公衆衛生博士号を修得。同大学院にて研究コンサルタントとして勤務し、DFID、Sidaの保健医療研究プロジェクトに従事した経験も有する。
2009年から3年間と2013年から2年間の計5年間、ザンビアに保健医療分野の長期専門家として、当時1歳2か月の娘を随伴して赴任した。

国際協力分野のワーク・ライフ・バランス ー 幼児同伴の海外勤務の例

 幼児同伴の海外勤務の例について、私の経験を紹介します。
 以前独身の頃に、ザンビアという南部アフリカにある国にJICA保健医療企画調査員として長期滞在の経験がありました(1999年~2001年)。そのザンビアへ再度、1歳2か月の娘を連れて保健医療分野の専門家として赴任、合計5年間勤務しました(2009年~2015年)。妊娠中もいつかは国際協力の仕事に復帰したいと考えていましたが、子供の授乳と予防接種が一段落した時期を選んで復帰しました。
 全くアフリカの事情を知らない両親には大変心配されましたが、ザンビアに赴任経験のある夫からは「アフリカでもあそこの治安ならまず大丈夫だろう。」と後押しをもらい、さらに赴任に際しては私費で同伴、慣れるまでの短期間、一緒に滞在してサポートをしてくれました。

 小さな子連れでの長期専門家の応募を決めた際、過去の専門家経験時にお手伝いさんとして働いてもらっていたロージーさんというザンビア人女性にすぐに国際電話をして、もう一度働いてくれないかと依頼をしました。穏やかで、子供の面倒を見るのにはぴったりと思える彼女の存在があったからこそ、小さな子供を連れてでもザンビアの長期専門家に応募しようと考えられたのかもしれません。
 さらに彼女にお願いし、赴任前にもう一人ベビーシッターとして信頼できる人を探しておいてもらいました。2人体制にして毎日、交代で来てもらい、どちらかに寝泊まりも一緒にしてもらうようにして、24時間体制で子供の世話の支援をしてもらいました。また、急な事情で休む場合にはもう一人が代わりに必ず出勤することを条件にしました。このように、万が一、丸一日私がいなくても家のことをこなせるようにしたため、業務上必要な歓送迎会や急な出張などにも常に対応することができました。


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(お世話になったルースさん、ロージーさんと共に)

 赴任直後は、朝、私が家を出てから帰ってくるまで、娘は声が枯れるまで泣き続けていたため、さすがに辛かったです。それでも、数週間もするとこの娘の大泣きも自然にやむようになりました。
 娘が少し大きくなったころには、仕事で帰宅が遅くなることが続くと、玄関で仁王立ちになって待っており、「帰りが遅い!」とよく怒られました。この対処方法は、ひたすら謝ることと、週末にたっぷり一緒の時間を取ってあげることぐらいでした。
 また、国内・海外問わず出張で家を空けることもありましたが、必ず一日に一度は電話を入れるようにし、話をする時間を取るようにしました。それだけで娘は喜んでくれて、心優しいシッターさんと普段と同じ生活を送ることができました。
 大事な我が子を預けられているからこそ自分の仕事にも集中できるわけですから、夫や両親などの家族からの直接的・物理的な支援が得られない場合、信頼のできるシッターさんを見つけられるかどうかが、在外でワークライフバランスを実現させるための最も重要なポイントになったかと思います。私の場合は、素晴らしいシッターさんに恵まれたことがとても幸運だったと思っています。だからこそ、シッターさんが気持ちよく働いてもらえているかどうか、私生活も含めて常に気を配りました。

 また、途上国に赴任するときは、日本と比較すると医療事情が良くないため、自分の子供が健康であるかどうかも同伴するための大事な条件になってくるかと思います。大きな病気をした時のリスクは確かにありますが、医療プロジェクトで日本人医師の方々が常駐されていることも、大きな心の支えになりました。

 派遣中の子育ての苦労話が他にないか考えていたのですが、正直言ってザンビアでの子育ては、周りの人々にいつも助けられたり、勇気づけられてばかりで、私にとって楽しい思い出が多かったのも事実です。
 アフリカで子供を育てている多くの人が経験しているのですが、長距離のフライトで赤ちゃんが泣くと、日本人や中国人からは静かにさせろ、これでは寝られないと文句が出る一方で、アフリカ系の乗客からは逆に子供をあやしてもらえる、ということがあります。子供が泣きやまず、申し訳なく思っている私に、「子供ってそうゆうものだよねぇ。」とアフリカ人の乗客は男女を問わず言ってくれるのです。
 週末、小さな子供をスリングに入れて抱っこして、ザンビアのスーパーで買い物をしていると、初対面のザンビア人女性が外国人の私に声をかけてくれて、「かわいいねぇ。子供を抱えての買い物は大変でしょ。抱っこしててあげるからその間に買物済ませなさいよ。」等とよく言われました。特に子供が小さいうちは、このような申し出は非常に多かったです。

 異国での仕事に子育てにとフル回転で生活をしているお母さんにとって、このような親切な言葉をかけられるだけで、ストレスや疲れなんて吹っ飛んでしまうものです。このあたりの子育てに対する社会的な環境の良さは、一般の日本人の方にはなかなか理解されにくく、「よくアフリカで子育てなんかしたねぇ。」などとよく言われます。物理的に子育てを分担してくれる信頼できるシッターさんの存在ももちろん大切ですが、社会全体が子育てに寄り添う気持ちがあると、お母さんとしては精神的にも満たされるものです。

 そして、こんなに親切にされると、自分も同じ立場の女性を応援したくなるものです。NGOで働くお母さんに、「小さな子供がいるのですが、ザンビアで一緒に赴任出来るか不安に思っています。」と相談を受けて、いろいろなアドバイスや情報提供をしたところ、最終的にザンビアに子連れの赴任を決めたという方もいらっしゃいました。別のNGOの女性には、赴任前に適当なシッターさんを探しておいてあげただけでも、とても感謝されました。自分がお世話になったシッターさんは、赴任が終わるときにタイミングが合い、小さな子供さんがいらっしゃる女性JICA職員の方が引き続き雇ってくださいました。こういった、日本人赴任者間でのシッターの紹介・引継ぎも、比較的よくあるケースかと思います。
 働くお母さんたちをお互いに支えあう気持ちや行動は、国際協力に従事したいと願う、子供を持つ多くの日本人女性が一人でも多く活躍していただくために重要なのではないでしょうか。赴任する国によって状況が違うかと思いますが、小さな子供を持つ母親が、赴任を検討するときに、それぞれの国で子育ての経験や情報を持ち相談ができるような人に繋いであげるシステムがあるだけでも、派遣前の応募や赴任を決める不安の解消になり、一人でも多くの女性が国際協力に参加できるようになるかと思います。

 子連れでの海外赴任を経験して、子供や家族にとってどうだったかというと、言語の面では、お母さんが子供に話しかける時に日本語に限定すれば、相手に応じて英語に切り替えたりする能力を子供はすぐに身に着けるため、それなりに日本語・英語の両方が話せるようになったことは、長期海外勤務の利点だったと思っています。また、夫や両親に会える日本への一時帰国休暇は楽しみであるとともに、日本語漬けにできるため、娘の母語能力保持のために重要な役割を果たしました。
 加えて、娘が通っていたインターナショナルスクールでは、ザンビアのみならず様々な国籍の子供が学んでいるので、小さなうちから異文化理解を促進することが出来た点も良かったと思っています。このような体験を通して、娘が様々な「違い」に寛容な態度を身に着けることができたことは、目に見えないプラス面になっていると思っています。


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(学校行事に参加する濱田さんのお子さんと友達)


 途上国ですから、赴任国に対するある一定のリスクはもちろんありますが、偏見に基づいたイメージや、日本で当たり前と母親に期待される子育ての考え方が原因で、不安に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。私自身もいろいろな子育てのやり方を海外で学び、視野が広がった気がしています。

 ただし、私の経験は小学生よりも小さな子供を同伴した場合なので、学童期の子供を同伴するには私自身、別の悩みも生じてきており、まさに試行錯誤しているところです。周りを見回すと、この段階で国際協力の仕事をやめてしまっている女性が多いというのも残念ながら事実かと思います。
 私自身も皆さんが短期間での引っ越しにどのように対処しているのか、子供さんの学校への影響はどうだったのか、等々、次のライフステージを経験されて乗り越えてきた方々から参考になるお話しを聞かせていただけると有難いと思っています。