地域に根差した国際協力活動~瑞穂アジア塾の取り組み

 中国山地の中央部。広島県境に接する島根県邑南(おおなん)町(旧瑞穂町)で、瑞穂アジア塾という国際交流の活動を始めて25年が過ぎました。これまでアジアを中心に50人以上の青年たちが、農業や福祉、公民館を拠点にした地域活動に参加して地域住民との交流と親睦を深めています。

 邑南町は2004年に3町村の合併で誕生しました。過疎と少子高齢化による人口の減少は続いていて、現在、人口は約11,000人です。高齢化率は43%、中でも75歳以上の人口は26%を占め4人に1人が後期高齢者で、限界集落も多くあります。
 そうした中、町ではIターンなど新規定住者を増やそうと「A級グルメ」の町づくりを進めています。標高300m以上の中山間地で生産される高原野菜や米などは、食味、品質に定評があり、これに付加価値をつけることで邑南町のファンを増やす取り組みです。
 この中心となるのがA級グルメの情報発信拠点で、イタリア料理を提供するレストラン「AJIKURA」。そこには「耕すシェフ」という都市部から移住した地域おこし協力隊のメンバーが、地元の農家が生産する高原野菜を素材に料理を提供しています。
 こうした定住施策により、過疎の町のイメージも変化しつつあり、少しずつIターン、Uターンが始まり人口の社会増がみられるようになっています。

 ところで、瑞穂アジア塾の結成は、1980年代にタイ北部の山岳地域で個人ボランティアとして、トイレづくりや刺繍など伝統技術を活かした女性たちの収入向上に取り組んでいた、島根県益田市出身の豊田武雄さんの活動を仲間と視察したことがきっかけでした。
 当時、私たちの町は公共施設や道路を整備し、企業誘致によって農家の収入を増やし、経済的な豊かさを実感することで過疎に歯止めをかけようとしていました。それでも都市への人口流出は止まらず、後継者不足が深刻になる中で、国の「ふるさと創生」の掛け声に合わせ“村おこしイベント”や、大分県の一村一品を参考にした“集落一品運動”といった都市部に目を向けた地域づくりをしていました。
 そんな状況の中で、タイ北部で見たボランティアの活動と村の暮らしは、自分たちの幼少期の農業や生活改良、母子保健や衛生の向上に自転車で集落を巡回していた普及員や助産師、保健師と、それに協働して村づくりに励んでいた青年団の活動の様子を彷彿とさせるものでした。この体験をとおして、言葉や文化の違いを越えて、アジアの農村と住民同士の交流ができるのではないかと実感しました。

 塾の結成後、最初に取り組んだのは、夏休みと年末年始に留学生を招いた農村民泊などです。関西などの大都市で生活する留学生を招き、1~2週間の農家民泊を体験して日本に対する印象が変わったという声が聞かれる一方で、外国人と接する機会の少ない住民が、留学生とのふれあいや交流を親しめるようになりました。
 こうした経験は、島根大学と邑南町が連携して行っている今年5回目となる島根大学国際交流まつりと留学生の農村民泊交流でも大いに役立っています。

(交流の一環で地元・出羽神楽団のタイ公演を実現。神楽の拍子を奏でながらトラックで走る様子)
(交流の一環で地元・出羽神楽団のタイ公演を実現。神楽の拍子を奏でながらトラックで走る様子)


 また近年は、行政や社会福祉法人と連携して途上国からの研修・視察の受け入れも行っています。4年前、身体に障害のあるミャンマーの女性を招いて行った福祉研修は、瑞穂アジア塾の設立20周年記念事業として会員の協力で行いました。
 私たちの地域の福祉は、おおよそ20年前までは施設入所が中心でした。福祉研修は、地域で暮らせるようにと作業所やグループホームを整備してきたことにより、障害者のみなさんが社会参加できるようになり、家族も安心して暮らせるようになるまでの経緯や活動の内容を参考にしてもらうもので、今年度は3人目の研修員を迎えます。

(ミャンマーの福祉研修員 義肢装具の製造をしている「中村ブレイス」にて)
(ミャンマーの福祉研修員 義肢装具の製造をしている「中村ブレイス」にて)


 農村の特徴を活かして有機農業や産直市、グリーンツーリズム(島根県では「田舎ツーリズム」といいます)を研修テーマにできるのも、地方ならではのことといえます。
 農業研修では、農産物直売所を設立することになった経緯と実践を説明しています。高齢化と農業後継者の不足で白菜、キャベツ、大根といった重量野菜の生産量が急速に減少していましたが、道の駅に併設した産直市を開設したことにより、高齢者が労力に見合った野菜生産を続け、自らが値段を付けて販売するという方法を取り入れることで活気がでています。 現在では、車で1時間余りの広島市内からも新鮮で安全な野菜を求めて消費者が訪れるようになり、高齢者の生きがいにもつながる施策になっているところを見てもらうことができます。また、産直市の施設や仕組み作りへの町行政の支援と関わりも説明することで、日本の地方や農山村を理解することにもなると思っています。
 その他、観光とつながったジェラートなど乳製品の加工販売や米粉を使ったパンやケーキ、地元の矢上高校産業技術科と共同開発した焼き菓子の加工販売などの6次産業化の取り組みは、新しい地域の活性化につながっていることが理解できるところです。

(スリランカの行政、酪農、水稲精米の組合員 「食の学校」にて米粉の加工に関する研修)
(スリランカの行政、酪農、水稲精米の組合員 「食の学校」にて米粉の加工に関する研修)


 この夏、12年前に簡易水道の状況を視察に来たことがある途上国の農業省の行政官が来訪した際には、町役場が管理する簡易水道施設と農協で管理運営している小規模水力発電を現地に訪ねました。これも中山間地という地理的条件や地域の実情にあった適正規模のインフラ整備をみてもらうことで知見を得ることになると実感しました。

 わたしたちが暮らす地方の人口減少は、これからますます深刻な状況になると考えられます。産業の衰退と経済の縮小に対応しようとする「地方創生」には、柔軟な対応力と多様な価値観を持つ人材が不可欠です。過疎地域においては人的資源、貴重な技術や知的資源をベースに地域の維持・再生の試みが必要であり、途上国での国際協力を進める活動とも共通したところがあると感じています。
 国際協力という途上国の支援の方法とそうした経験を持った人材は、我われ地元住民が主体的に地域を創生し、活力ある地域社会を再生する取り組みに大きな力になるといえるでしょう。

 一般社団法人コミュニティパートナーズ&瑞穂アジア塾
  代表理事 日高 久志


■ プロフィール
日高 久志(ひだか・ひさし)
1954年、島根県邑南町(旧瑞穂町)生まれ。大学卒業後に帰郷。
町役場では福祉行政を担当し4年前に退職。
瑞穂アジア塾の国際交流・協力の活動を拡げるとともに、地域づくりや地域福祉活動を目的に2013年に一般社団法人コミュニティパートナーズを設立し、代表理事。