途上国を単に市場とみなすだけではないBOPビジネスを作りだしたい ~社会貢献活動におけるキャリア(途上国ビジネス編)~

岡部 寛さん

開発コンサルティング企業 株式会社 かいはつマネジメント・コンサルティング 60代

  • 開発コンサルティング企業 コンサルタント
  • 民間セクター開発
  • インタビュー

    国際協力への携わり方のなかでも、いま注目を集めているのがBOPビジネス。アジア・アフリカなどの開発途上国における低所得者層の市場に着目したビジネスで、企業の利益だけでなく、貧困などの社会的課題の解決、生活水準の向上も同時にめざすビジネスを指す。途上国に貢献しながら利益も確保するというWin-Winのビジネスモデルに、欧米諸国の参入が相次いでいるが、日本はまだまだ少ない状況だ。こうしたなか、いち早くBOPをはじめとする国際ビジネス支援に取り組み始めたのが、 株式会社 かいはつマネジメント・コンサルティング (以下、KMC)である。

    BOPビジネスに途上国支援の可能性を見る

    ーー「BOPビジネスが成功すれば、従来型のODAよりも効率的、持続的に途上国の社会的課題に対応できる可能性がある」と語るKMC代表の岡部さんに、新しい国際協力の潮流と、その現場を支える開発コンサルトに求められるスキル、人材像とはどのようなものか、お話をうかがった。

    現在、私たちが受注している仕事の多くはODA(政府開発援助)事業ですが、今後はODAに頼らない国際ビジネス支援にも力を入れていきたいと考えています。ODAは元々「利益」中心には動いていないので、ODAでビジネスを全面に出した国際協力を担うことには無理があります。

    ただ途上国の人々は、一過性の援助ではなく、持続的な経済活動を通じた対等な取引、そしてその結果としての雇用の創出や所得の向上を望んでいます。そのためにも、Win-Winが実現できるようなビジネスベースでの
    開発支援は必要不可欠なのです。

    国際ビジネス支援で重要なのは、クライアントである途上国と開発支援を行う企業、そのほかすべてのステークホルダーの立場を考え、それぞれが納得する最適な解答を導き出すことにあります。これこそが開発コンサルタントとして培ってきたノウハウを発揮できる分野、もっといえば開発コンサルタントにしかできない仕事だと考えています。


    ーーこうした考えからKMCでは2005年に組織改編を行い、従来のODA事業を中心とした国際協力部に加えて地域づくり事業部を発足させ、その後2008年には同部をBOPビジネスやフェアトレード事業などを行う国際ビジネス支援部に改組した。

    KMCの国際ビジネス支援は、「フェアトレード支援」、「マイクロファイナンス支援」、そして途上国での社会的課題解決に取り組むビジネスを支援する「BOPビジネス支援」が中心で、「途上国の目線を大切にする」ことと「支援の効果を高めるしくみをつくる」ことに重点を置いています。前者については、ODAで培ってきた開発に関する知見もさることながら、現地の信頼できるパートナーとの協働により、現地事情にあったビジネスモデル構築を心がけています。現地の事情やステークホルダーとの関係に充分な配慮をすることが、ビジネスの持続性につながると信じているからです。後者については、国際機関や政府機関も途上国の開発に役立つビジネスを支援するスキームを既に開始しているので、そうしたODAなど公的資金の活用を視野に入れつつ、より効果的な支援を提供しています。「フェアトレード支援」については現地調査や国内での講演、「マイクロファイナンス
    支援」では現地調査やプロジェクト評価などを行ってきています。(KMCホームページより一部引用)

    「BOPビジネス支援」については大きな可能性を感じています。数年前より企業の社会的責任(CSR)ということが問われてきましたが、社会貢献にはなるけれど、CSRの活動自体では収益を生み出さないため、ある程度のニーズが現地や企業側にあっても、日本では大規模な展開は見込めないと見ていました。海外進出している日本企業で、進出先の地域に貢献したいと考えている企業は少なくありませんが、CSRとして積極的に取り組むまでに至らないのは、やはり、企業としての最大の目的である「ビジネス」の要素が欠けるからでしょう。

    その点、BOPビジネスは途上国の人々をビジネスの「顧客」として捉え直したところに将来性を感じます。
    BOP層の一人ひとりの購買力は大きくはありませんが、全体の購買力を試算すると年間消費額は5兆ドルに達するともいわれており、日本企業のBOPビジネスへの関心も高まってきています。KMCもアジア・アフリカ・中南米での市場開発調査、コミュニティ開発支援調査などに積極的に参入するとともに、途上国がどのようなビジネス支援を求めているか情報を得たい、マーケット調査をしたいと検討している方々のために、コンサルティングサービスを提供しています。

    コンサルタントに求められること

    ーーODAの枠組みを越え、民間による国際協力の促進を模索するKMC。その一翼を担うコンサルタントに求められる要件とはどのようなものなのだろうか。

    コンサルタントの仕事は、派遣先の国で、限られた期間の中で期待される成果を上げることです。短い期間で
    クライアント(調査の発注者)や派遣国の人々に満足していただける結果を出さなければいけないのですが、
    そのためには、いかに効率よく、ポイントをおさえた調査・計画を進められるかが重要。そうした仕事ができるのは、唯一、高いプロ意識と豊富な現場経験に支えられたコンサルタントであると信じています。

    その他たとえば、クライアントの調査依頼が多岐にわたっていて最も重要な要求が何かはっきりしないことがある。その場合、クライアントの意図、重点事項を的確に抽出する能力が必要ですし、そうした意図が相手国の現状・ニーズと合致するように調整が必要なケースもあります。こうした場合では、クライアントの問題意識を
    ヒアリングしながら、ニーズとウォンツのギャップを埋める作業も必要になります。コンサルタントとして難しいがやりがいのある部分ですね。

    欧米ではコンサルタントのステータスは総じて高いのですが、日本ではコンサルタントは下請けという意識を持っているクライアントもいて、対等に話ができずフラストレーションを感じることも多々あります。コンサルタントは専門性がウリですし、何よりも現場をよく見てかつ現地の人々と相当な議論をしてきている。それが、なかなかクライアントに伝わらない。特に最近は専門性、現場経験が非常に少ないクライアントのスタッフが
    多く、なかなか現場の状況を理解してもらえない。そこで試されるのは、コンサルタントとしての説得力、影響力です。簡単にあきらめず、「相手国が必要としている協力とは何か」という問題意識を常に持ち続け、クライアントや相手国のカウンターパートを説得できる人材が求められます。つまり、自分の力量で相手を動かせるかどうか。「変革力」がコンサルタントに求められる最大の能力だと考えています。


    ーーKMCではBOP事業やフェアトレード事業、マイクロファイナンス事業など民間企業の途上国支援をサポート
    する「国際ビジネス支援コンサルタント」の職種を設けている。従来のODAを中心とした国際協力の現場で即戦力となる「開発コンサルタント」と基本的な要件は同様だが、クライアントが政府機関(ODA)なのか民間企業(ビジネス支援)なのかという点で異なるため、視点や頭の切り替えが非常に重要であるという。また、開発
    コンサルタントとしての経験が足りない人のための「ジュニア・コンサルタント」という職種もある。設立当初はJICAでの経験を重視した採用が中心だったが、現在は民間企業や公的機関からも幅広く採用している。

    弊社の採用ではどんな部門でも、一つの組織で最低3年以上勤務し、実務経験を積んできた方を重視しています。新卒採用は行っていません。JICA関連業務の経験者の方ももちろん歓迎しますが、だからといってコンサルタントとしての力量を兼ね備え、クオリティの高い仕事ができるか、組織に適応できるかどうかは別問題です。
    たとえ異なる業界であっても、その分野で高いコミットメントで勉強し、仕事をしてきた人たちは、プロフェッショナルとしてのポテンシャルは高いはず。そうした人材に、弊社で開発コンサルタントとしての経験を積んでもらえば、そのプロ意識と専門性で、いずれは自立したコンサルタントに成長する可能性は高い。そうした理由から、他業界からの中途採用も積極的に行っています。

    開発コンサルタントの経験が足りないと考える方々向けには、「ジュニア・コンサルタント」という職位を
    設けています。過去にどんな実績と経験を持った人でも、最初は自分で案件を受注することは簡単ではありませんから、ベテランのコンサルタントと共に業務を行うなど、サポート的な立場での仕事から始めます。
    そのかわり、「コンサルタントとしてやり抜く」という覚悟のある人には、我々がコンサルタントとして自立できるよう、全面的にバックアップします。

    開発コンサルタントは実績に基づく報酬制です。実績別なので、人によって違いますが、中には年収1,000万円以上の人もいます。国際ビジネス支援コンサルタントは基本的に固定給です。理由は、民間企業開拓という使命があり、まだ実績報酬制に連動できるほどの売上目処が立たないからです。ジュニア・コンサルタントも
    固定給で、入社後6カ月ごとに契約条件の見直しを行い、実績に応じて給与を上げていくシステムをとっています。継続的な自己研鑽、スキルや知識の向上に努力している姿勢なども評価します。

    開発コンサルタントの仕事は、いってみれば国づくりに直接かかわる仕事であり、各省庁や企業、途上国政府の要人などさまざまなステークホルダーと接しながら、現状を「変革」していく仕事です。常に各分野の最先端の知識、情勢を把握していなければなりません。「変革力」ということを述べましたが、これは自分自身を変えていく力、ブラッシュアップしていく力でもあります。常にそうした努力を怠らず、自分で自分を向上していける人材を求めています。逆にいえば、そうした意欲や覚悟のない人、また結果の出ない人には辞めていただくこともあります。厳しいようですが、3年間やってみて、なかなか成果が上がらない場合、ほかの仕事を探したほうが本人にとってもいい、というのが我々の考え方です。

    個人力×個人力=組織力

    ーー個人の裁量が大きいコンサルタント業務だが、KMCでは、個人力を結集した総合的な組織力を重んじている。個人×個人によるパワーを発揮するためには、コンサルタント自身に「組織力」の自覚が必要だ。

    そもそもコンサルタントという仕事は、ある意味で個人商店です。現場に出たら、どんな状況であっても自分
    一人でクライアントや周囲の関係者を満足させる成果を出さなければならない。社員一人ひとりが店の主だという意識を持ち、そういう人材の集合体が企業をつくっている、そんなプロ集団を目指しています。

    応募を考えられるみなさんに理解していただきたいのは、弊社の組織の風土です。私だけからのトップダウンで、会社が社員にあれこれ要求するような組織はつくりたくないと考えてこれまでやってきました。イメージとしては、各分野のスターがKMCに集まり、互いに意見を出し合いながら、さまざまな問題解決に取り組む。
    スターがそれぞれの専門性を持ち寄って、しかもチームプレーができる会社をつくりあげたい、そんな風土です。ですから、“寄らば大樹…”的な考えをする人は当社には向きません。

    組織のメリットを理解しつつ、個人としての実力を備え、組織に貢献できる人とぜひ一緒に仕事がしたいですね。

    ■株式会社 かいはつマネジメント・コンサルティング : http://www.kmcinc.co.jp/

    ※本記事は、2010年8月1日時点での情報となります。

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