「より深く、広く」学んで見えてきたネットワーク型NGOの大きな可能性 ~NGOで働く~

宮下 恵さん

国際協力NGO/NPO 特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC) 調査・提言グループ アシスタントマネージャー 30代

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    現在の業務を、どのように選ばれましたか? これまでのキャリアの積み方、キャリア選択における軸や考え方をお聞かせください。

    大学3年生のときに大学の交換留学システムを使い、フィリピンに1年間留学をしました。フィリピンでは、社会学や現地のNGOの活動を学ぶコースで勉強をしながら、貧困の子ども支援をしているNGOのボランティアをしていました。国際協力といっても、現地では、貧困のなかで生活する子どもたちに音楽を教えるなど、遊び相手程度でしたが、私の国際協力活動の原点です。
    しかし、留学が終わる1年後には現地で私一人ができることはものすごく少ないのだなと感じ始めていました。私が現地で支援活動をするよりも、現地の文化と環境になじんでいる現地の人たちが直接支援したほうが、ずっと効果的だと気づきました。そして、貧困のなかで生きる現地の子どもたちのためにできる自分の役割はないか、もっと深く学んでみようという思いとともに日本に帰ってきました。

    大学卒業後は、民間企業に就職しましたが、国際協力をより深く勉強しようと大学院に進むことにしました。大学院では、子ども支援をしているフィリピンのNGOの現地調査を行い、子どもの権利をどのように保障しているかということを、調べていました。また、途上国の子ども支援をしている日本のNGOでボランティアをしていました。もちろんやりがいはありましたが、同時に、NGO一団体でできることの限界も感じ始めていたんです。
    NGO一団体の子ども支援では1,000人、2,000人を支援することができて、支援を受けた子どもたちは生活向上ができます。それは素晴らしいことなのですが、それ以外の子どもたちは貧困状態に陥ったままという現実があります。貧困問題を解決するためには、世界のシステムが変わらないといけない。もっと社会に大きなインパクトを与えていきたいと思うようになっていました。そのために私は何ができるのか。もっと視野を広げてみよう。そう考えていたときに大学院の教授からJANICという団体で、アルバイトをしてはどうかという紹介を受けたんです。

    当初、JANICは一つのアルバイト先といった印象でしたが、働くにつれて次第にネットワーク型NGOの魅力に気づきはじめました。JANICはネットワーク型NGO、さまざまなNGOの草の根の意見を集約し、政府や関係機関に提言する役割があります。この役割にも大きな可能性を感じましたし、調査活動をしていると、さまざまな情報も集まってきます。援助業界のトピック、トレンドがわかるようになるのです。
    例えば、「ミレニアム開発目標(MDGs)」達成が世界的に議論されている。「援助効果向上」という視点が非常に大事になってきている。「BOP(Base Of Pyramid)ビジネス」などの議論がさかんになっている…。こういったトピックに対して、どのセクターがどう関わって、どのように動いていこうとしているのかがよくわかる。JANICは業界全体を勉強するのにまさにうってつけでしたね。大学院在学中に『卒業後、正職員になってみないか』と声をかけられたこともあって、職員として入ることになりました。

    現在の業務について、具体的にどのようなことを担当されていますか?

    小さな団体なので、何でも出来なくちゃいけない。必要な書類作成、ホームページ更新などの細かい作業から、企画を立案する。国内外のNGOと協力関係を築く。さらに、政府機関やドナーとの交渉まで、自分でやらないといけない。自主性に任せてくださるのでやりがいはありますが、企業と比べて、研修体制も整っていない。新卒でいきなり入るというのは厳しい業界です。
    やはりあらかじめボランティアやアルバイトなどでNGOと関わっておくと、正職員募集の時には専門性が合えば、声をかけていただけるし、経験の面でも、正職員の仕事をみているので違和感がなくすっと入れる利点があります。
    私は正職員として調査・提言グループに所属しています。調査・提言グループの多くは事務局作業が中心です。例えば、NGOと外務省の間での意見交換会であるNGO・外務省定期協議会、NGO・JICA協議会…。こうした意見交換会が年に数回開催されるのですが、JANICが事務局となって、NGO間の連携など、事務的な調整をします。調査・提言グループに在籍しているのは正職員4人、アルバイト1人と少数ですが、事務局作業はJANICだけでするのではなく、一緒に提言をする団体と業務を分担しながら行います。

    現在の業務でのやりがいや仕事の魅力は何でしょうか?

    2008年に北海道・洞爺湖でG8サミットが開催されましたが、私たちはこれに合わせて、日本の141のNGOと提携をして『2008年G8サミットNGOフォーラム』を結成し、提言活動を行いました。JANICはこのNGOフォーラム設立のリーダーシップを執り、事務局を務め、主要八カ国首脳の個人代表(シェルパ)とNGOが意見交換する『シビルG8対話』、海外からいろいろなゲストを招いた『市民サミット2008』などを開催しました。福田首相(当時)とNGOとの対話も初めて実現するなど画期的な試みになりました。一つの団体ではできませんが、
    JANICがファシリテーターとなって束ねて大きな力になることで、政府や市民を動かしていく、社会に大きなインパクトが与えられる可能性をこのときに実感しました。
    私たちは事務局として、会議を開催するために助成金を申請する作業から始まって、ドナーへのあいさつ回り、
    NGOや政府関係者との準備会合を何回も重ねて、関係団体と作業を割り振って進めていく、約1年半のプロジェクトでしたが、自分のなかでも大きな出来事でしたね。

    今後の目標をお聞かせください。

    ミレニアム開発目標の実現など、政府に対するNGOの提言内容に市民の賛同の声を募る『100万人のたんざくアクション』というキャンペーンを行いました。約70万件の賛同をいただいたのですが、その多くは海外からで、日本国内では10万人に満たない賛同だったんです。やはり、NGO活動にまったく関心がない人たちとの壁がまだまだあります。日本のNGOの会員やサポーターの合計は50万人ほど。このあたたかい支援者の向こうにいる日本の市民の意識向上が課題です。JANICが賛同団体になっていたホワイトバンドの運動も、市民の方から誤解を受ける面もあったりして、日本の市民に世界の貧困問題をわかりやすく伝えることが難しいです。多くの市民が意識を高めはじめた環境問題だけでなく、貧困問題などさまざまな課題にも問題意識を持ってほしいと思っています。
    市民意識向上のためには、いろいろなセクターの方を巻き込むことが欠かせません。NGO間で連携して、企業や国連、自治体、労働組合、宗教団体など他のセクターの力も借りて前へ進んでいきたいです。


    ※本記事は、2009年6月1日時点での情報となります。

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