FIELD STORY(10月号)

持続可能な経済成長を目指しインフラ計画を策定

JICAスリランカ事務所 田中 総東 所長

JICAスリランカ事務所 田中 総東 所長

大統領や主要大臣が列席した会議で電力マスタープランを説明

持続可能な経済成長を目指しインフラ計画を策定

スリランカは、インド洋に浮かぶ人口2,100万人の島国です。1983~2009年にかけて内戦を経験しましたが、それ以降は政治・治安面で安定し、経済成長が続いています。特に、繊維業が欧米の一流ブランドとの取引を基盤に最大の輸出産業として経済をけん引しているほか、近年は観光業も伸びています。現在は一人当たり国民総所得(GNI)が4,000ドル近くに達し、中進国入りが目前に迫っています。

その一方、スリランカが経済成長を維持するためには基礎インフラの整備が不可欠な状況です。同国の電力需要は毎年約4%ずつ増えており、2030年には現在の約2倍になると見られることに加え、最大都市コロンボも郊外からの人口流入が進み、交通渋滞が深刻化しています。また、洪水や土砂災害などの自然災害や紛争地域であった北部・東部地域の開発が遅れていることも課題となっています。

こうした中で、JICAは、①経済成長の促進、②後発開発地域の開発支援、③災害等へのぜい弱性の軽減の3つの方針で、スリランカへの支援に取り組んでおり、特に、①では同国のインフラ開発に注力しています。電力分野では年々増加する需要に対応すべく、2040年までの電源構成のシナリオを描いた「電力マスタープラン」を作成しました。スリランカは豊富な水資源を有する一方、主要な水力発電はほぼ開発し尽くされています。
そこで、石油、天然ガスなどの天然資源による火力発電や再生可能エネルギーなど各種発電方式を組み合わせたシナリオを複数作成し、経済性に加え、環境社会面や電力の安定供給面にも配慮したベストミックスな開発計画を提案しました。すでにシリセーナ大統領にこのマスタープランを提出しており、今後はスリランカ政府内で具体的な政策立案が進むことが期待されます。

さらに、交通分野では、コロンボ市に公共交通システムを導入するための調査を実施しました。特に、同市では近年、自動車、バス、自動二輪車などの交通手段が活発に利用されるようになった半面、通勤通学時などは、自動車の時速が10km以下に落ち込む激しい交通渋滞が発生しており、道路交通以外の交通手段の開発が求められています。

そこで、この調査では東京の地下鉄に相当する車両を「ゆりかもめ」のように高架で16km走らせる鉄道システム(LRT)の導入を提案しており、ラッシュ時に自動車で約90分かかる道のりが約30分に短縮されると見込まれます。今後は本邦技術活用条件(STEP)を適用した円借款事業が可能かどうかを検討します。

観光地をより魅力的に災害対策支援の底力も発揮

一方、JICAはスリランカ第二の都市であるキャンディ都市圏の都市計画を策定しました。シンハラ人最後の王朝の都であり、スリランカ仏教の聖地でもあるこの都市では、中心部の遺産地区が1988年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。しかし、あらゆる公共施設・宗教施設・観光地が市の中心部に集中し渋滞が深刻となっているほか、看板などによって雑然とした街並みとなってしまっています。

そこで、この都市計画では、まず都市機能を周辺地区に分散させることを提案しました。行政施設や公共施設なども周辺地区に移転して住民と観光客の移動の流れを変え、渋滞解消へとつなげるのです。また、現地住民の協力を得ながら、同市の観光地としての魅力を高めるべく、住民との対話やセミナーなども実施。この20年間で観光客数が大きく増加した三重県伊勢市の事例を紹介するなど、現地政府が住民と一緒になって街づくりを具体化するための道筋を付けました。

JICAはこのほかにも、同国で深刻な土砂災害の対策支援に注力しており、斜面対策工事を実施したり、災害対策を担う灌漑・水資源管理・災害管理省の能力向上に努めてきました。2017年4月にコロンボ市北東部でごみ山が崩壊し、30人以上亡くなる事故が発生した際にも、この灌漑・水資源管理・災害管理省の土砂災害対策の専門家たちと連携し、緊急援助に尽力したことは記憶に新しい出来事です。

スリランカが今後、中進国へと成長すれば、一層高水準の日本の技術や知見が求められることになるでしょう。それだけに日本企業の方々とも積極的に連携をしながら、スリランカに協力していきたいと考えています。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2018年9月号
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□News & Topics
□こだわりの現場主義 (株)テーブルクロス代表取締役 城宝 薫さん
□編集後記