FIELD STORY(11月号)

首都圏の地下鉄を整備 大学支援で人材育成にも注力

インドネシア事務所・所長 山中晋一

インドネシア事務所・所長 山中晋一

首都圏の地下鉄を整備 大学支援で人材育成にも注力

インドネシアは、人口約2億5,000万人を擁する世界最大の島しょ国です。2014年に国民から支持を受けて就任したジョコ・ウィドド大統領による積極的な開発政策が注目されてきましたが、今年はアジア競技大会やIMF/世界銀行総会などが開催されたほか、来年4月には大統領選挙が控えるなど、ますます国際的な関心を集めています。

経済的には、5%台の堅調な経済成長を維持しており、現在の一人当たりの国民総所得(GNI)は3,540ドルとなり、中所得国入り目前となっています。今後は、製造業やサービス業などの産業を担う人材育成や、開発が遅れている離島などの地方開発も重要です。また首都圏は人口増加に伴う交通渋滞や廃棄物による環境汚染などの問題への取り組みも課題となっています。

そんな同国にJICAは、①国際競争力の向上に向けた支援、②均衡ある発展を通じた安全で公正な社会の実現に向けた支援、③アジア地域及び国際社会の課題への対応能力向上に向けた支援などの方針で協力しています。

中でも、①の取り組みとしては、今後のインドネシア経済を支えるインフラ整備と人材育成に注力しています。例えば、人口約1,000万人を擁する首都ジャカルタ特別州は、東南アジアの中でもひときわ深刻な交通渋滞や、排気ガスによる環境汚染などに直面していることから、JICAは首都圏を走る鉄道整備の支援を実施中です。

これは日本の地下鉄さながらの大量高速輸送システム(MRT)を導入するというもので、日本企業の質の高い鉄道技術を生かすべく本邦技術活用条件(STEP)を適用しています。来年3月の開業に向け試験走行が始まっており、私も試乗する機会を頂きました。極めてスムーズで乗り心地が良く、ジャカルタ市民の反応が楽しみです。

もちろん、これだけでは首都圏の交通需要を満たせません。今後もさらなる路線整備が重要です。このプロジェクトでもフェーズ2を開始し、路線延伸に向けた準備を進めています。日本の技術に対する信頼は厚く、鉄道支援が一層期待されています。

一方、人材育成の取り組みとしては、インドネシアの大学を支援しています。急速な経済成長が進む同国では国民の所得水準が向上し、高等教育への進学者が急増する一方、大学などの教育環境の整備が遅れ、社会のニーズに即した人材が十分に育成できていません。

そこで、JICAは同国の科学技術教育を牽引するバンドン工科大学で最先端科学研究施設などを整備したほか、南スラウェシ州にあるハサヌディン大学で工学部を整備し、開発の遅れた東部地域の将来を担う産業人材の育成に貢献しています。現在はジョコ大統領の出身校でもあるガジャマダ大学で、産学連携に関連する施設整備の準備も進めているほか、同国のエンジニアリング教育の質を高めるための審査認定機構の設立・運営も支援しています。

タコの加工技術を普及し 漁業振興と貧困削減に貢献

インドネシアは、日本の民間企業の投資先としても関心の高い国の一つです。JICAも「中小企業の海外展開支援」で累計93件もの案件を実施。民間企業進出の呼び水となる支援を推進しています。

例えば、茨城県の(株)あ印と連携したタコの加工・衛生管理技術の普及・実証事業があります。水産加工技術が未熟なインドネシアでは、水産品の付加価値が低く、漁村住民の貧困につながっています。スラウェシ島周辺ではタコが多く獲れる一方、水産資源として十分に活用されていません。

そこで、西アフリカ産のタコを加工する長年の経験を通じて表皮が固い外国産のタコを日本品質に加工する技術を培ったあ印が、タコの加工技術や品質管理技術をインドネシア国営水産会社に指導しました。あ印は現在、この水産会社からタコを買い付け、日本国内の市場に販売しているほか、同社と合弁企業を立ち上げ、インドネシア国内市場に流通を広げる方針です。

今後も同国の膨大な資金需要に応えるべく、民間企業との連携が重要です。この国は投資制度や手続きが煩雑で、日本企業による投資のボトルネックとなっているため、同国政府に投資環境の改善を促す「プログラム借款」なども検討する価値があるでしょう。

他方、日本とインドネシアは今年、国交樹立60周年を迎えており、日本とこの国の協力には長い歴史があります。また9月末にスラウェシ島で発生した地震・津波被害に対しては緊急援助物資を供与するなど、現在も多彩な活動を続けています。こうした実績も十分に踏まえながら、この国の将来の発展に貢献していきます。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2018年9月号
<今月の特集> 今なぜ「教育輸出」!? ~EDU-Portニッポンの狙いとは
1.総論
2.躍進する教育産業
3.今後の課題

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□世界の景色から キルギス
□Message from abroad (特活)日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)スタッフ リーム・アッバス氏
□荒木光弥の「羅針盤」 北朝鮮への戦後賠償問題
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□論説委員の視点 教育輸出は「文化輸出」
□Devex News
□特別記事 「開発協力適正会議」の意義を問い直す
□開発コンサルタントニュース
□World Headline
□連載 開発業界の安全対策(3)/初動で差がつく緊急対応 海外安全.JP 代表 尾﨑 由博
□世界を読む SDGsが自治体にもたらす好機 明治大学大学院 グローバル・ガバナンス研究科(博士後期課程) 髙木 超
□解「国」新書 カンボジア総選挙で与党圧勝 情報誌『プノン』編集長 木村 文
□News & Topics
□こだわりの現場主義 (株)テーブルクロス代表取締役 城宝 薫さん
□編集後記