FIELD STORY(1月号)

東アフリカ北部回廊開発でSEZや産業開発も支援

ケニア事務所 佐野 景子所長

ケニア事務所 佐野 景子所長

東アフリカ北部回廊開発でSEZや産業開発も支援

ケニアは、人口約5,000万人を擁する東アフリカの国です。1963年の独立以来、民主主義的な政治が定着している半面、2007年には大統領選挙における与野党の対立が民族間の衝突にまで発展し、1,000人以上の国民が亡くなる大惨事となりました。17年の大統領選挙の際にも与野党の対立が先鋭化することが懸念されましたが、大規模な衝突に至らず、現在、両党の関係は比較的安定していると言えます。

経済面ではケニアは東アフリカの玄関口であり、地域経済のハブとなっています。農業に大きなポテンシャルがあり、お茶や切花などの農産物の輸出が盛んな一方、製造業が基幹産業として十分に根付いていません。ウフル・ケニヤッタ大統領も17年に「ビッグ4」という4つの重点政策を掲げ、その中で製造業の振興を重視しています。

JICAもこの「ビッグ4」やアフリカ開発会議(TICADⅥ)で採択されたナイロビ宣言を踏まえた協力を推進しています。とりわけ、昨今は①アフリカ大陸の連結性強化、東アフリカ地域のハブとしての機能強化、②ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、③民間連携と現地人材の育成などが重点ポイントと言えるでしょう。

①では現在、ケニアのモンバサ港を起点にウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、コンゴ民へとつながる「北部回廊」の開発に取り組んでいます。TICADⅥでもアフリカにおける広域開発を支える経済回廊の1つとして位置付けられたことから、JICAは同回廊の整備と周辺地域の開発を支援しています。

この回廊の起点となる「モンバサ港」の開発については、16年に円借款によるコンテナターミナルが完工し、現在はさらなる拡張を進めています。そこから、さらに同港対岸に経済特区(SEZ)を設立すべく、アクセス道路や電力などのインフラ整備の準備を進めているほか、今後はモンバサの都市開発にも取り組んでいく方針です。

他方、内陸地域を含む北部回廊全体の開発も重要です。17年に作成した北部回廊地域の総合的なマスタープランをもとに、現在、道路や橋梁などの回廊整備に加えて、農業バリューチェーンの構築をはじめとする回廊地域の産業開発にも注力していきます。今後は中国の「一帯一路」構想の一環とも位置付けられるモンバサから周辺国へ延伸予定の標準軌鉄道(SGR)を含めた開発効果が期待されています。

包括的に保健システムを強化日系企業の進出も手厚く支援

②の保健分野では、JICAはこれまでケニアに対してさまざまな取り組みを行ってきました。コミュニティー保健サービスの普及支援や病院での5S・KAIZENの活動などはその代表的な例だと言えます。

さらに2014年から「UHC 達成のための保健システム強化プログラム」を打ち出しています。ケニア政府は国家開発計画の中にUHCの実現を謳う一方、そのための制度面・財政面の基盤が十分に整っていません。そこでケニア政府の保健政策の策定と財政支援を実施し、同時に地方自治体の政策実施能力を強化する技術協力も進めています。

16年にはアフリカ全域の感染症対策の拠点となる研究機関の機能強化を図る「PREPARE構想」も開始。特に、ケニアではJICAが設立支援した医学研究所「KEMRI」での協力を強化しており、KEMRIの研究員を留学生として日本に受け入れる取り組みが進んでいるほか、KEMRIを拠点にした第三国研修の実施、日本から感染症対策の専門家派遣を行っていきます。

最後に、③についてケニアはアフリカの中で突出してJICAの民間連携支援が進んでいる国と言えます。JICAは「中小企業の海外展開支援」などを活用した支援のほか、当事務所を拠点に日本企業に対して現地の情報提供や各関係機関の紹介などを行っています。またアフリカの若手人材を日本で育成する「ABEイニシアティブ」の修了生に対しては、現地の日系企業とのネットワーキングフェアや短期インターンシップなど当事務所独自でフォローアップを行ってきました。ABE修了生が帰国後に起業し、日本のインターン先企業の現地パートナーとして活躍するユニークな例も出てきており、まさに日系企業との橋渡しとしての役割が期待されています。

このようにケニアはビジネスの場としての魅力が高まっていますが、その半面、都市部と地方の格差も広がっています。JICAはこれらの開発の恩恵がケニア国民全体に行き届くよう引き続き貢献していきたいと思います。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2019年1月号
<今月の特集>
タイ東部開発の行方 胎動するEEC構想
1.総論
2.日中協力の可能性/IDJ REPORT 日中絡むタイのスマートシティ
3.識者に聞く
□世界の景色から カメルーン
□Message from abroad ミャンマー・カイン州農業大臣 ソー ミン ウー氏
□荒木光弥の「羅針盤」 インド太平洋戦略とアフリカ開発
□論説委員の視点 タイの持続的開発への挑戦
□Special Interview 「自国第一」の時代にこそODA重視を 国際協力機構(JICA) 理事長 北岡 伸一氏
□BOOK
□開発コンサルタントニュース
□Devex News
□World Headline
□News & Topics
□連載 国会議員の目 衆議院議員 立憲民主党 山内 康一氏
□大学の国際化最前線 大妻女子大学 文学部 コミュニケーション文化学科
□私の提言/投資効果の高い国際保健に新たな風を ビル&メリンダ・ゲイツ財団 日本常駐代表 柏倉 美保子
□新連載 世界構造の変動と開発問題(上)/米中対決と開発協力への衝撃 立命館大学 名誉教授 唐沢 敬
□解「国」新書 イムラン新首相への期待と課題 大阪大学大学院 言語文化研究科 教授 山根 聡
□編集後記