FIELD STORY(2月号)

経済成長の鍵握る物流を改善SEZで外資誘致も後押し

カンボジア事務所 菅野 祐一所長

カンボジア事務所 菅野 祐一所長

経済成長の鍵握る物流を改善SEZで外資誘致も後押し

カンボジアはインドシナ半島の南東部に位置する人口約1,600万人の国です。1985年以降、人民党の現党首フン・セン首相による長期政権が続いています。2018年7月の下院にあたる国民議会の総選挙では、人民党が125議席全てを獲得しました。こうした結果に選挙の公平性を疑問視する声が諸外国から上がり、日本政府の働きかけもあって、同国政府は野党の政治活動を禁止する方針などを見直しています。一方、国内では現政権への表立った批判は見られず、政治情勢は比較的落ち着いていると言えるでしょう。

経済面では、インドシナ半島南部を東西に貫く南部経済回廊を軸にASEANの他の国との域内分業が進む中、同国は安価な人件費を強みに自動車部品製造業などの労働集約型産業を活発化させ、「タイプラスワン」「ベトナムプラスワン」の国として注目されています。投資優遇措置や経済特区を設けて外資系企業の参入を積極的に促しており、近年は中国企業の進出も著しい状況にある一方、縫製業以外の輸出産業が十分に育っておらず、産業の多角化が課題となっています。

こうした中で、JICAは①産業振興支援、②生活の質向上、③ガバナンスの強化を通じた持続可能な社会の実現の3つを重点分野として支援しています。とりわけ①では、物流環境の改善や人材育成などに取り組んでいます。

17年には全国規模の物流マスタープランを策定支援し、インフラの改善や通関手続きのシステム化など割高な物流コストの削減を目指した多岐にわたる提案を行いました。さらに、18年5月から物流改善の計画策定や組織間調整などを担当する公共事業運輸省物流総局の能力強化を図る事業を開始してマスタープランの実施を後押ししているほか、運輸政策全般に関するアドバイザーも同省に派遣しています。

他方、国道1号線、5号線の改修や港湾などの物流拠点の整備も進んでいます。国内唯一の大水深港であるシハヌークビル港では、多目的ターミナルの整備を支援したほか、新たなコンテナターミナルの整備への準備も進めています。さらに、港湾運営能力の向上を図るべく、シハヌークビル港湾公社に専門家も派遣し、現在、港湾関連の行政手続を電子的に処理するEDIシステムの導入を支援しています。

なお、JICAは12年にこのシハヌークビル港の隣に円借款を通じてシハヌークビル港経済特区(SPSEZ)の整備を支援しました。20km圏内には鉄道や空港もあり、輸出入には大変便利なほか、SPSEZの運営アドバイザーを派遣し同区の事業環境改善に取り組むなど、JICAは今後も支援を続けます。

教員の質向上を目指す途上国間の相互支援も

人材育成の取り組みとして、4年制の教員養成大学(E-TEC)の設立に協力しています。カンボジアでは学校教育の質を向上させるために教員の能力強化が求められています。既存の2年制の小・中学校教員養成校の一部を4年制大学に格上げして、質の高い教員を育成する体制を整えます。現在、大学のカリキュラムやシラバスの作成などを進めているほか、大学の教員を育成するため日本への留学生受け入れも実施しています。

このほか、カンボジアに対しては、日本の継続的な支援によって得た技術を他の途上国に展開する「三角協力」を推進しています。例えば、地雷分野では、これまでカンボジア地雷対策センター(CMAC)に対して無償資金協力で必要な機材を供与し、技術協力によって機材の維持管理や組織能力の強化などを支援してきました。この経験を生かしてアンゴラ、イラク、コロンビア、ラオスの4カ国の地雷撤去や不発弾処理を担う機関の職員に対して、CMACがカンボジア国内で研修を実施する活動を後押ししてきました。

水分野も三角協力が活発です。JICAはかつて同国で水道マスタープラン策定を支援し、インフラの整備やプノンペン水道公社(PPWSA)の人材育成などを行いました。その結果、市内の約9割の水を安全かつ安価で提供できるようになり「プノンペンの奇跡」と呼ばれるまでになったことから、パキスタン、南スーダン、ミャンマーの3カ国の水道公社職員や水道行政の幹部をPPWSAが研修員として受け入れる活動を支援してきています。

カンボジアは現在、2030年までに高位中所得国入りを目指しています。JICAは同国政府のこの方針をサポートしながら、保健や教育などさまざまな分野のニーズにも応えられるように、今後も支援していきます。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2019年2月号
<今月の特集>
日中協力、チャンスとリスク~第三国連携とそれぞれの立場
1.総論 2.中国人識者らの見解 3.中国企業の動向 4.アジア各国の声
□世界の景色から カンボジア
□Message from abroad 極東連邦大学(FEFU)総長 ニキータ・ユーリエヴィチ・アニシモフ氏
□荒木光弥の「羅針盤」 風雲急の海外コンサルティング業
□論説委員の視点 一帯一路と中国製造2025が交差する未来
□IDJ REPORT バンコク最大スラムに押し寄せる開発の波
□連載 国会議員の目 参議院議員 公明党 竹谷 とし子氏
□論評「ODAに関する有識者懇談会」
□小特集 開発援助と国益
国際開発学会 会長 山形 辰史氏
外務省国際協力局参事官 紀谷 昌彦氏
朝日新聞編集局長補佐兼コンテンツ戦略ディレクター 藤谷 健氏
□開発コンサルタントニュース
□Devex News
□World Headline
□国際協力プロジェクト情報
□News & Topics
□大学の国際化最前線 明治大学 情報コミュニケーション学部
□連載 世界構造の変動と開発問題(中)/戦後世界経済と開発政策を支えた基盤の喪失
立命館大学 名誉教授 唐沢 敬
□私の提言/「責任ある企業行動」アジアで拡大を
経済協力開発機構(OECD) 日本政府代表部 専門調査員 砂原 遵平
□BOOK
□編集後記