FIELD STORY(3月号)

経済大国に成長を遂げるインド投資環境の改善が課題

インド事務所 松本 勝男所長

インド事務所 松本 勝男所長

経済大国に成長を遂げるインド投資環境の改善が課題

「巨象」と呼ばれるインドは、13億人を超える人口を擁する南アジアの国です。毎年約1,000万人の若い労働者が誕生する躍動著しい国に変貌しており、2025年までには世界最大の人口を抱えるとされ、経済面で大きなポテンシャルを有しています。

同国は1990年代の経済自由化以降、外国からの投資と豊富な労働力を基盤としてきましたが、2014年からはインド人民党のナレンドラ・モディ首相が積極的なインフラ投資と「Make in India」などの産業振興を展開。経済成長を加速させてきました。現在、ITや鉄鋼、自動車などを基幹産業として年間7%台のGDP成長率を維持しています。このままけば、25年には日本のGDPを抜き、世界有数の経済大国に成長する見通しです。

ビジネス環境の改善が進むインドですが、他方、植民地時代から残る法制度や国家独立の経緯などから州政府が強い権限を持ち、現地の日系企業からは税制や投資規制などの法制度が不透明で各州でばらつきがあると報告されています。モディ首相は17年に全国一律の間接税を導入しましたが、今後も投資環境の改善やインフラ整備は大きな課題と言えます。

日本政府は現在「世界最大の民主主義国家」であるインドとの関係を強化しており、2014年には両国の関係を「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」へと格上げしました。現在、多面的な協力関係の構築を進めており、その一環として、インドの「包摂的で持続可能な成長」の実現に向けて、産業競争力や連結性の強化、環境保護などの分野でJICAも支援をしています。

産業競争力の強化については、JICAは投資環境の整備に協力してきました。例えば、インド南部の大都市チェンナイがあるタミル・ナド州は自動車産業など日系企業が多数進出する産業地域である一方、工業用地の不足やインフラの未整備、不透明な投資申請手続きなどが課題となっていました。そこで、州政府や日本の商工会議所との協議を通じ、投資環境の改善に必要な政策の実施にかかる資金を円借款で供与。現在、州関係部局間での定期協議の設置や投資手続きの透明化を進めているほか、職業訓練所のカリキュラム改善や技術教育の質を向上させるための教師育成などの人材開発にも注力しています。供与された資金は港湾へのアクセス道路整備など、進出企業の経済活動に直接裨益する事業に使われています。この実績を踏まえ、全国の対外輸出額の2割、港湾貨物量の4割を占めるインド中西部グジャラート州でも同様の投資改善プログラムが開始されました。

北東地域の連結性事業にも着手森林分野では30年近くの実績

インドは「自由で開かれたインド太平洋構想」の主要パートナーであり、地域や周辺国との連結性の強化に向けた取り組みが始まっています。例えば、JICAは近年、インド北東地域での開発事業への協力に注力しています。この地域はインド半島の中心部から離れており、長年にわたって政治的な独立の問題や開発の遅れが課題となってきました。しかし、ネパールやブータンなどの周辺国や東南アジアとの玄関口として注目が集まり、モディ首相もこの地域を通じ周辺国との連結性強化に乗り出しています。

そこで、JICAは北東地域のインフラ整備などで協力を開始。現在、優先度の高い道路の改良事業を進めているほか、地域住民の生活基盤となっている森林保全事業なども併せて実施しています。これらの取り組みが軌道に乗り、現在、北東地域の各州からさまざまな協力の要望を受けるようになりました。

インドでは、運輸分野などインフラへの支援が目立ちますが、森林分野は重要な分野の一つです。これまで14州で協力しており、日本の関東地方に匹敵する延べ300万ヘクタールの土地に植林活動を展開してきました。インドの森林被覆率は21%と言われ世界平均を下回っている一方で、未だに貧困層を含む約2億人もの住民が収入源を森林の資源に依存する生活を送っており、森林の持続的な管理が必要です。そのため、JICAは「共同森林管理」の手法を用い、住民参加による植林活動を村単位で行っているほか、NGOなどとも連携しながら住民が森林に代わる収入源を得るための支援もしています。

インドはここ十数年間、日本のODAの最大の受入国ですが、まだ多くの開発課題が残されています。経済インフラや環境対策、労働市場を支える保健・教育サービスなどに膨大なニーズがあるほか、約3億人の貧困層への対策が不可欠です。JICAは今後も現地のNGOや社会的企業などとも連携し、先駆的な開発アプローチを取り入れながら、現地のニーズに合った開発協力を実践していきたいと考えています。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2019年3月号
<今月の特集>
国際保健に舵を切れ~インフラ偏重からの脱却を
1.総論 2.識者の視点 3.実施体制の強化へ
□世界の景色から パプアニューギニア
□荒木光弥の「羅針盤」 日本各地でODAの存在感を高める
□IDJ REPORT 「インフラ輸出機構」と化したJICA
□IDJ REPORT 世界銀行「キム後」の行方
□連載 国会議員の目 参議院議員 自由民主党 武見 敬三氏
□解「国」新書 復興への動きが本格化するシリア
東京外国語大学 総合国際学研究院 国際社会部門 教授 青山 弘之
□世界を読む 2020年始動への準備整う「パリ協定」
(公財)世界自然保護基金(WWF)ジャパン 専門ディレクター(環境・エネルギー)
小西 雅子氏
□こだわりの現場主義
佐々木 成光さん/イッポラボ合同会社 代表社員 田中 大一さん
□大学の国際化最前線
鳴門教育大学大学院人間教育専攻 グローバル教育コース
□開発コンサルタントニュース
□Devex News
□World Headline
□国際協力プロジェクト情報
□News & Topics
□連載 世界構造の変動と開発問題(下)/激動する国際社会に求められる日本の開発協力
立命館大学名誉教授 唐沢 敬
□新連載 SDGsと自治体(上)/SDGsを「使う」という提案
慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特任助教 髙木 超
□BOOK
□編集後記