FIELD STORY(4月号)

最大の国内機関 研修員受け入れの中核担う

JICA東京 木野本 浩之 所長

JICA東京 木野本 浩之 所長

研修員受入事業の総本山 自発的な学び促すプログラム実施

国際協力機構(JICA)東京センター(通称、JICA東京/TIC)は1985年、東京都渋谷区に設立されました。JICAは日本国内に15か所の拠点を設け、中でもTICは東京都、群馬県、埼玉県、千葉県、新潟県、長野県の1都5県における国際協力の総合窓口・活動拠点として、最大の事業規模を誇っています。

私たちが取り組んでいるのは、研修員の受入事業と市民参加協力事業です。受入事業は、開発途上国において国づくりを担う人材を研修員として日本に招き、母国が抱えるさまざまな課題の解決につながるような日本の技術や知識について学んでもらうものです。JICA全体では年間約1万人の研修員を受け入れており、このうち約4割を当センターが担当しています。これはJICAの国内機関における受入規模としては最大で、宿泊施設も充実しているTICは研修員受入事業の総本山とも言えるでしょう。

具体的には、民間セクター開発や運輸インフラ、保健医療など幅広い分野で実施されています。ガバナンスの分野などでは日本の政府機関からも講師を派遣します。このように、相手国の政策立案や法制度に関して考えるものも多いのは、TICの研修の特徴となっています。

かつての研修は「Training」と位置づけられ、講義形式のプログラムや現場視察が中心となっていましたが、最近は、互いに学び合い新しい知見を生み出す「Knowledge Co-Creation Program」という概念の下、研修員同士で議論する場やワークショップ形式のプログラムを積極的に取り入れ、彼らの帰国前には今後のアクションプランを作成し発表してもらいます。

受入事業のもう一つの柱として、長期研修があります。開発途上国の人材に日本の開発経験を学ぶ機会を提供するJICAの開発大学院連携の下、多くの留学生が日本の大学の修士・博士課程で学んでおり、TICが所管している地域の大学では現在400人以上が学んでいます。彼らが生活している地域へ当センターの職員が実際に赴き、学習の進捗度合いを確認したり、生活面での悩みを聞いたりするなど、さまざまな形でサポートしています。年々増える留学生により効率的に、きめ細やかな対応をするべく、2018年度より新たに「長期研修課」を設置しました。

ネットワーク作りの場も提供 国際協力を通じた地域活性化推進

市民参加事業では、NGOや自治体、大学などと共同で開発途上国への支援を実施する草の根技術協力や、企業の海外展開を支援する民間連携、ボランティアの募集、学校現場への開発教育支援事業などを実施しています。

近年は、より多くの方々にJICAの事業に参加してもらえるように、当センターが地域のさまざまな人や組織と途上国をつなぐ窓口として機能することに力を注いでいます。そのためには地方の国際協力に携わる人同士のネットワーク作りが有効だと考え、その一環として各県でJICA連携事業情報交換会を開催しています。うち、埼玉県では2018年8月に「埼玉県の力を世界へ」、群馬県では同年11月に「ぐんまの力を未来につなぐ」というテーマで、県内の国際協力に関心のある大学やNGO、自治体、中小企業、地方銀行などから約50人が集まって意見を交わしました。こうした場からさまざまなつながりが生まれることを期待しています。ゆくゆくは地域おこし協力隊などにも輪を広げ、地域の活性化へ貢献するための足掛かりにしていきたいと考えています。

各地では訪日旅行客の急増などを受け、海外とより密接につながっています。中小企業の海外展開を一層支援しつつ、それ以外にも私たちが貢献できることを探っていきます。そのうちの一つが留学生との交流です。18年10月、「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)」を通じてアフリカ各国から来日している留学生たちが新潟県燕三条地域にある企業や団体と交流するフェアを開催。同地域にある企業視察を通じて、彼らに日本の技術力の高さを見てもらいました。また、民間企業の方々にもアフリカ市場を身近に感じてもらう機会になりました。

他にも、地域の方々との交流事業に取り組んでいます。例えば、17年に有志のプロ奏者が創立した「SDGs吹奏楽団」の協力で、今年2月、一般の方向けにアフリカ開発会議(TICAD)や持続可能な開発目標(SDGs)についての講演も交えた演奏会を開催し好評を博しました。また、渋谷区立西原小学校へは定期的に研修員を派遣しています。

今後は研修員受入事業をより充実させていくとともに、1都5県の地域の方々をつなぐネットワーキングの場を増やすことで、国際協力と地方創生を結びつけ、双方に効果が出るように取り組みを強化したいと考えています。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2019年4月号
<今月の特集>
2019年度ODA予算動向~暗中模索する開発業界
1.制度改革の行方 2.13省庁・機関別ODA予算
□世界の景色から ミャンマー
□Message from abroad
インド国家研究教授 R.A.マシェルカル氏
□荒木光弥の「羅針盤」 冷戦構造とアジアの発展
□IDJ REPORT パキスタンの障害者に寄り添う日本
□連載 国会議員の目
参議院議員 立憲民主党 藤田 幸久氏
□こだわりの現場主義
E-gates 代表取締役 笠井 綾子さん
□新連載 動き出すマニラ 鉄道が描く、マニラ大首都圏の未来
□連載 SDGsと自治体<中>/まちの未来を「共創」するパートナーシップの在り方
慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特任助教 髙木 超
□世界を読む ナイロビ・サミットで逆風を追い風に
国連人口基金(UNFPA)東京事務所 所長 佐藤 摩利子
□Devex News
□World Headline
□大学の国際化最前線
東京大学 生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター
□BOOK
□News & Topics
□編集後記