FIELD STORY(7月号)

世界最大の日系社会ネットワークを活用し民間連携を促進

JICAブラジル事務所 佐藤 洋史所長

JICAブラジル事務所 佐藤 洋史所長

両国の架け橋となる人材育成支援を開始 「JICA開発大学院連携」を展開

世界第5位の面積と人口を有するブラジルは、大豆やとうもろこしなどの生産を中心とした世界有数の農業国です。製造業では航空機産業が盛んな一方、鉱物をはじめとする天然資源も豊富で、同国の経済規模は世界
第9位となっています。
同国では昨年10月に大統領選挙が行われ、右派の社会自由党に属するジャイル・メシアス・ボルソナーロ氏が
勝利しました。
現在は、財政赤字の一因である年金制度の改革など政策の一部は実現へと進みつつありますが、他の政党との
連携など、課題は山積しています。また、複雑な税制をはじめとする「ブラジルコスト」を背景に海外投資は
伸び悩んでいます。

これまで同国へ農業やインフラ整備などの支援を行うほか、1908年に農業従事者の不足に悩む同国へ781人の日本人が移住したのをきっかけに形成された日系社会への支援も継続し、JICAは今や約200万人にのぼる
世界最大の日系社会との連携を深めてきました。

そんな中、現在は日本とブラジルの架け橋となる人材の育成も支援しています。今年3月から開始した
「日本開発研究プログラム(フジタ・ニノミヤチェア)」は、こうした取り組みの一つです。
当機構の北岡伸一理事長が、東京大学在学中に日系留学生の藤田エジムンド氏、二宮正人氏へ学習に関する助言などを行いました。その後、二人はブラジルへ帰国し、藤田氏は日系人初の外交官に、二宮氏は弁護士になりました。両国の絆を深める役割を担った彼らの後継者を育成するべく、開発途上国の未来を担う人材が日本の
開発経験とドナー国の知見を学ぶ「JICA開発大学院連携」をブラジルでも展開しています。

具体的には、二宮氏が教授を務めるサンパウロ大学法学部国際法・比較法学科に、日本の法体系を学ぶ講座を開設しました。今年後半からは日本の開発経験を学ぶ講義を大学院で開始し、来年には他学部や他大学も対象とした短期集中講座として、日本の政治や経済、そして文化への理解を深める「日本理解プログラム」を実施する予定です。これらの授業を受ける中で、優秀な成績を修めた学生には日本への留学機会も提供します。
できるだけ関心のある若い世代にこのプログラムに参加してもらえるように、これからも協力を続けていきます。

調査団派遣を通じ、日本企業の進出を促進 長年の地域警察への支援で
治安改善にも貢献

日本に対して友好的で、中には日本語を話せる方もいる日系ブラジル人とのネットワークを中南米地域の
事業展開の入口として生かしてもらおうと、2013年より日本企業を対象に「中南米日系社会との連携調査団」を
派遣しています。17年には11社の日本企業がブラジルを訪れ、日系人が経営する現地企業の視察や、日系人団体との面談などを実施しました。加えて、同国の医療分野で日系人が活躍していることから、同年、
「ブラジル日系医療機との連携調査団」も派遣しました。この結果、(株)シーエンジなど、JICAの
民間連携事業を活用し、同国での事業展開へと動き出す企業も生まれています。これからも連携調査団の派遣を続け、日系企業の方々にブラジルをはじめとする中南米の魅力を発信していきます。他方、ブラジルでは東北部や北部地域を中心とした治安の改善も大きな課題です。JICAは、これまで約20年にわたって同国の地域警察活動へ支援を行ってきました。1997年にサンパウロ州軍警察(PMESP)が地域警察制度の導入を決定した後、
2000年から03年にかけて国別研修や課題別研修を実施しました。
そこで日本の交番制度をPMESPへ紹介した結果、日本式の地域警察の導入が決定されました。以来、技術協力をこれまで3回実施しています。05年から開始した第一期の技術協力では、サンパウロ州でモデル交番の設置や
地域警察の普及に向けた人材育成などを支援しました。その後、支援対象の州を拡大し、15年から昨年まで実施した第三期の技術協力をもって、同国の全州対象の支援へと発展しました。

こうした長年の協力に加え、サッカー教室の開催など地域住民との信頼関係を築く取り組みを通じて、
サンパウロ州では地域警察制度が根付き、同州の10万人あたりの年間殺人件数は1999年の35.27人から2018年には6.7人へと減少しました。また、同国政府は今年4月、日本式の地域警察活動を全国的に導入する
「地域警察国家指針」を策定しました。

このほか、昨年には北東部地域の穀物サプライチェーン強化を推し進める現地企業への海外投融資の実施も
決まりました。こうしたスキームも活用しながら、今後も同国の発展に資する協力を進めていきます。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2019年7月号
<今月の特集>
転換期のアフリカ戦略―TICAD再構築へ―
1.総論 2.アフリカの視点 ABEイニシアティブ研修生座談会 3.日本企業の進出戦略 4.今後の協力
□Zoom UP!
日本によるアフリカ協力のコミットメントと現状
□世界の景色から ザンビア
□Message from abroad
教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE) ドナー・リレーションズ・オフィサー エイプリル・ゴールデン氏
□荒木光弥の「羅針盤」 波乱万丈の「平成」から「令和」へ
□論説委員の視点 パラサイトNGOのすすめ
□解「国」新書 市民社会で独裁が終焉したスーダン
(特活)ロシナンテス 理事長 川原 尚行
□読者からの声 人にやさしい発展で暮らしやすいアフリカへ
明治大学 情報コミュニケーション学部 島田剛准教授 ゼミ生
□連載 Toward 2030 SDGsフロントランナー Vol. 2 日本電気(NEC)(株)
□連載 IDE-JETRO×Country Review
日本貿易振興機構(ジェトロ) アジア経済研究所 地域研究センター・動向分析研究グループ長 荒井 悦代
□世界を読む 国際連帯税 ベストオプションの探求
横浜市立大学 国際教養学部 教授 上村 雄彦
□連載 国会議員の目 衆議院議員 自由民主党 上川 陽子氏
□Special Interview 「産業」としての認知の拡大を
(株)パデコ 代表取締役社長/CEO 本村 雄一郎氏
□開発コンサルタントニュース
□BOOK 編著者に聞く
(公社)日本WHO協会理事長
甲南女子大学教授 中村 安秀
□こだわりの現場主義 Sin Phyu Lay Co.,Ltd.代表 新谷 夢さん
□News&Topics
□大学の国際化最前線 東京成徳大学 国際学部
□連載<最終回> 動き出すマニラ 鉄道が描く、マニラ大首都圏の未来
□編集後記