FIELD STORY(8月号)

日本人の海外移住のレガシーを伝えつつ
地域振興と国際協力を推進

JICA横浜 熊谷 晃子所長

JICA横浜 熊谷 晃子所長

TICAD7やラグビーワールドカップ開催控え
市民の関心を呼び込む取り組みを推進

国際協力機構(JICA)横浜センター(JICA横浜)は、2002年に神奈川県横浜市中区に開設されました。
周辺には横浜赤レンガ倉庫などの文化施設があり、当センターを訪れる観光客もいます。神奈川県と山梨県の
2県を所管し、2011年には自治体との初の包括連携協定を横浜市との間で締結しました。

今年は8月28日から30日にかけて第7回アフリカ開発会議(TICAD7)、9月から11月にかけてはラグビーワールドカップ2019の準決勝・決勝を含めた一部の試合が横浜市で開催されます。TICAD開催地にこれまで3回選ばれてきた同市は「日本で一番アフリカに近い都市」を標榜しており、TICAD7においても、当センターは
同市へ貢献できるような取り組みに力を注いでいます。例えば、アフリカと横浜市、JICAの協力内容を紹介するプロモーションビデオを作成しました。

さらに、市民向けのアフリカ関連のセミナーやさまざまなアフリカ映画を上映する催し、TICAD7の
開催期間中の盆踊り大会などもアフリカを身近に感じる企画も実施します。当センターの研修員受入事業に
おいても、アフリカの方々が参加する横浜市内での研修はなるべくTICAD7開催中に重なるよう、時期を
調整しています。

また、ラグビーワールドカップについても、市民の関心に沿い、当センターの2階にラグビーボールやゴール、ラグビー日本代表のユニフォーム、関連する国際協力事業を紹介するパネルなどを展示しています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも、横浜市は野球やサッカーなどの競技会場として選ばれているため、スポーツに関する啓発活動への取り組みを今後も強化していきます。

山梨県には、JICA山梨デスクを設置しています。ここには、同県出身の青年海外協力隊経験者を「国際協力
推進員」として配置し、国際協力事業に関心のある方からの質問や相談に応じています。
加えて、アクセスの良い山梨県立国際交流センター内で、地元中小企業の海外展開を支援する相談室を月1回
開催しています。JICAの企業向け海外展開支援事業を紹介するセミナーや、中小企業などを対象とした個別相談も実施しています。今後も同県の振興や国際化に貢献していきます。

JICAの水産分野研修の約半数を実施
国内機関で唯一の海外移住資料館を併設

JICA横浜では、JICAが実施する水産分野の本邦研修の約半数を担っています。水産資源の持続的利用に関する技術研修のほか、「開かれたインド太平洋構想」に関連して、漁獲量などに関する法律に違反した漁業を行う「違法・無報告・無規制(IUU)漁業」の取り締まりに関する研修も実施します。

また、近代水道発祥の地でもある横浜市の強みを生かして、水処理などの水道分野に関する国内研修や、同市や民間企業の海外への事業展開も盛んです。横浜市水道局はJICAのボランティア制度を通じて2014年度から
昨年度までで計5回17人の職員をマラウイのブランタイヤ水公社に派遣しました。今年度からは同国の首都に
専門家も派遣しています。

中小企業・SDGsビジネス支援事業や草の根技術協力を通じては、廃棄物処理の分野等で自治体の持つ行政の
ノウハウと民間企業の持つ高度な技術を開発途上国で生かせるようにしています。ベトナムのダナン市では
横浜市のごみ分別の仕組みづくりなどをアドバイスするとともに、横浜市内のリサイクル技術などを持つ
民間企業を現地に派遣しています。

このほか、海外移住資料館をセンター内に併設していることは当センターの大きな特徴です。当館は、日本人の海外移住の歴史や移住者と日系人の過去・現在の姿を多くの方々に知ってもらうことを目的に、写真や文献
などさまざまな資料を保管・展示しています。入館料は無く、どなたも利用できるので、修学旅行などの
学校教育の一環としてご活用いただきたいです。また今年4月に改正出入国管理法が施行され、海外からの
就労者はより増加すると思います。海外へ多くの移住者を送り出してきた日本の歴史を正しく伝えるためにも、当館の役割はますます重要になると考えています。

さらに、海外で暮らす日系人を対象とした支援の1つとして中南米と北米の一部地域の日系人中学生から
大学生を対象とした「日系社会次世代育成研修」を実施しています。神奈川県内の公立学校への体験入学を行うプログラムもあり、彼らと日本人生徒の交流を図っています。

今後も、神奈川県や山梨県に貢献できるような時宜にかなった事業を実施していくとともに、海外移住資料館の運営体制強化を行い、多様なバックグラウンドを持つ方々が安心して集えるようなセンターにしていきます。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2019年8月号
<今月の特集>
進むジェンダー主流化~問われる日本の開発協力
1.総論 2.日本の動き 3.最前線の取り組み 4.女性の声
□世界の景色から バングラデシュ
□Message from abroad
Sindyanna of Galilee CEO/創設者 ハダス・ラハブ氏
□荒木光弥の「羅針盤」 “地球最後の巨大市場” アフリカ
□IDJ REPORT イラン 核合意の維持は日本の国益
□論説委員の視点 求められるマルチな連携の促進
□連載 国会議員の目 衆議院議員 自由民主党 古川 禎久氏
□私の提言/質の高いインフラと日本の新たな役割
経済協力開発機構(OECD)日本政府代表部 専門調査員 砂原 遵平
□安全管理の今
□FIELD REPORT 災害の経験を共有し復興の歩みを早める
□BOOK
□連載 Toward 2030 SDGsフロントランナー Vol.3
イオン(株)
□Devex News
□World Headline
□国際協力プロジェクト情報
□開発コンサルタントニュース
□BOOK 編著者に聞く
大妻女子大学 文学部 コミュニケーション文化学科 准教授 興津 妙子
□News & Topics
□大学の国際化最前線 東海大学 工学部(電気電子工学科)
□編集後記