FIELD STORY(9月号)

多様性に富んだ「アフリカの縮図」
経済社会の安定的な発展を目指す

JICAカメルーン事務所 増田 淳子所長

JICAカメルーン事務所 増田 淳子所長

中部アフリカの主導的な立場を担う
質の高い自国産のコメ栽培を推進

カメルーンは中部アフリカに位置する人口約2,400万人の国です。旧仏領8州・旧英領2州からなり、人口の約8割が仏語圏に集中しています。また、気候風土が多様で約300の民族がいることから「アフリカの縮図」
とも呼ばれます。1982年に就任したポール・ビヤ現大統領は、強固な中央集権体制を確立し、安定した
政権運営を続けています。治安の面では、首都ヤウンデや最大の商業都市ドゥアラは比較的安定しています。
一方、旧英領の北西州と南西州で分離独立運動が激化しているほか、極北州ではイスラム過激派勢力ボコ・
ハラムの襲撃を受けるなど、治安が悪化している地域もあります。

共通通貨圏「中部アフリカ経済通貨共同体(CEMAC)」全体のGDPの約4割を占める同国は、中部アフリカ
地域の政治や経済面で主導的な立場を担っています。他方、産油国でもある同国のGDP成長率は、2015年末からの国際的な原油価格の下落により、それまで年平均5%前後で推移していたものの、17年には3.5%に落ち込みました。現在は、旺盛な公共投資に加え、木材やカカオなどの農産品輸出が好調なため、経済状況は少しずつ
回復しています。とはいえ、輸出をこうした1次産品に依存しているため、市場価格の変動にはぜい弱です。
また、農業生産性が低く食料の約4分の1を輸入に依存していることなどもあり、貿易赤字も続いています。

他にも、地域による貧富の差は大きな課題です。持続性のある、均衡のとれたインクルーシブな成長を実現
するため、JICAは稲作振興、中小企業振興、インフラ整備、森林資源・環境保全の4分野で協力を展開して
います。

中でも、特に振興すべき1次産業として挙げられているのは稲作です。同国では調理加工が容易なコメへの
需要が高まっていますが、コメの自給率は2割に満たず、その輸入量は全体の5%を占めるため、貿易赤字を
生み出す要因の一つになっています。そうした中、JICAは2011年から稲作への技術協力を続けています。
2016年からの第2フェーズでは畑で栽培する陸稲に加えて水田で栽培する水稲も対象に、種子の純化を通じて
コメの品質や生産性向上を図っています。両フェーズを通じてこれまでに17,000人以上の農家へ栽培方法などに関する研修を実施してきました。

こうした技術協力を続けながら、中部アフリカ地域の稲作協力の拠点として、周辺国の稲作振興にも貢献していきます。

カイゼンで中小企業の振興を支援
森林や水分野で提案型事業も実施

カメルーンには約10万の企業があると言われています。そのうちの9割以上を中小零細企業が占めていますが、起業後2年以内の廃業率の高さが課題です。そこで、2015年から開始した中小企業の品質や生産向上を
目指すカイゼンプロジェクトでは、中小企業を支援する「ビジネス開発サービス(BDS)」を担う現地コンサルタントの養成を主に行っています。

また、同国は世界第2位の熱帯雨林面積を持つコンゴ盆地に位置していることから、ヤウンデに事務局がある「中部アフリカ森林協議会(COMIFAC)」を通じた加盟10カ国の関係者を対象にした能力強化研修を実施しているほか、今年からは温室効果ガスの排出量削減を目指す「REDD+」の実施を支援する協力を進めています。

加えて、JICAはコンゴ盆地で生態系などの研究を続ける京都大学などと連携し、地球規模課題対応国際
科学技術協力プログラム(SATREPS)を実施しています。現地住民は野生動物の狩猟を生業としていますが、
同国の森林・動物省の取り締まり対象となることもあります。そこで、自動カメラによる科学的調査と現地
住民の持つ在来知を組み合わせて、野生動物の持続的利用モデルと木の実など非木材資源の活用モデルの確立を目指します。この調査結果は森林・動物省とも共有し、同国政府へ政策提言をしていきます。

他にも、日本の民間企業による提案型事業を展開しています。大分県の(株)TMT.Japanは、下水道の整備が不十分で公共トイレが不足する同国で、水洗浄が不要な「バイオトイレ」の展開を目指し、14年から案件化調査を、16年からは普及・実証・ビジネス化事業を実施しました。同社は昨年現地法人を設立し、本格的に事業を
開始しました。

そうした中、17年に同社の横山朋樹社長を中心に「大分―カメルーン共和国友好協会」が設立されました。
今年6月に同協会とJICAで「アフリカビジネスセミナーin大分」を共催し、そこにカメルーンの中小企業が自費で参加するなど、民間主導の交流を積極的に続けています。今後も多様なアクターによる提案型事業を積極的に進め、さらには、周辺国にも裨益するような協力の在り方を考えていきたいです。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2019年9月号
<今月の特集>
移民社会ニッポンへ~国際協力の知恵どう生かす
1.総論 2.共生社会に向けて 3.受け入れの先例、群馬
4.本腰入れ始めた高知
□世界の景色から モンゴル
□Message from abroad
アフリカ保健・研究財団(AMREF) Director of Partnerships. Africa
デスタ・ラケウ氏
□荒木光弥の「羅針盤」 世界最悪のアフリカ難民 問われる欧州の歴史的責任
□論説委員の視点 G20大阪サミットと海洋環境保全
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所 所長/常務理事 角南 篤
□世界を読む 共通原則示された「人の移動」への取り組み
国際移住機関(IOM)駐日代表 佐藤 美央
□Special Interview 制度と人、両面で手厚いカナダの移民政策
作家 キム・チュイ氏
□連載 IDE-JETRO×Country Review スケープゴート化される移民(南アフリカ)
日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所 研究員 牧野 久美子
□連載 Toward 2030 SDGsフロントランナー Vol.4
ヤマハ発動機(株)
□Special Interview G20を多国間協力の“試金石の場”に
(公財)日本国際問題研究所 理事長兼所長 佐々江 賢一郎氏
□解「国」新書 油田発見に揺れるガイアナ/内野 恵美
□Devex News
□World Headline
□大学の国際化最前線
神戸情報大学院大学 情報技術研究科 情報システム専攻 ICTイノベータコース
□BOOK
□私の追想録 JICA元総裁・藤田公郎氏を偲んで
元国際協力機構(JICA) 国際協力専門員 原 晃
□新連載 コンサルタントの展望 Vol.1/日本工営(株) 代表取締役社長 有元 龍一氏
□開発コンサルタントニュース
□News & Topics
□編集後記