FIELD STORY(10月号)

開設40周年を迎えた協力隊訓練所
地域にもオープンな施設へ

駒ヶ根青年海外協力隊訓練所 清水 勉 所長

駒ヶ根青年海外協力隊訓練所 清水 勉 所長

語学交流会の様子

派遣前訓練に新たなプログラムを導入
地域の課題にも取り組む

長野県駒ヶ根市にある駒ヶ根青年海外協力隊訓練所(JICA駒ヶ根)は、1979年に開所し、今年で40周年を
迎えました。

主な業務は、青年海外協力隊や日系社会青年海外協力隊といったJICA海外協力隊の派遣前訓練の実施で、
現地への渡航を控えた訓練生たちの異文化理解や語学力向上などを目指し、年3回実施しています。訓練日数は
70日間で、そのうちの約3分の2は派遣される国で使用する言語の習得に充てられます。現在、当訓練所では
南アジアや大洋州、中南米、仏語圏アフリカ諸国などに派遣される訓練生を対象に、英語・スペイン語・
フランス語・ネパール語・シンハラ語・タミル語・ロシア語・キルギス語・ウズベク語の9言語を扱っています。

また、2018年度からは新たに訓練の一環として「協力活動(地域実践)」を開始しました。これは訓練生を
地域で活動するNPOなどの団体に派遣し、各団体と共に地域が抱える課題の把握や分析、改善案の策定などを
行うものです。訓練生は週に1回程度、引きこもりの若者の支援や外国籍の住民との交流、観光に関する情報
発信やマーケティングなど多岐にわたる活動に取り組みます。

協力活動(地域実践)の目的は、訓練生に現地での活動に生かせるような実践力を身に付けてもらうこと
です。たとえ高いコミュニケーション能力を持っている人であっても、初めて関わるコミュニティーの中で、
自分のことを受け入れてもらいながら相手を理解するということは容易ではありませんし、国内ではこのような機会は少ないからです。協力活動(地域実践)ではこうした経験を積み重ねながら、課題解決力や目標管理などのスキルも養われていくことが期待されます。同時にこの交流が深まることで、地域活性化にも貢献できればと考えています。

派遣前訓練では他にも、海外の治安リスクや感染症などから自分を守るための安全・健康に関する講義、
異文化理解ワークショップや農家、福祉施設などでのボランティア活動も実施しています。これまでに2万人を
超える訓練生がJICA駒ヶ根を卒業し、世界に飛び立っていきました。これからも彼らが現地で有意義な活動が
できるようなサポートをしていきます。

訓練所を開放し教員研修などに活用
自治体の国際協力も後押し

また、開発教育(国際理解教育)支援として、JICAボランティア経験者や当訓練所のスタッフを講師として
学校などに派遣して講座を行う取り組みも実施しています。また、当訓練所の施設見学や訓練生たちとの昼食
懇談会などを行う「施設訪問プログラム」は小・中・高校の総合学習やキャリア教育、初任者教員研修などでも利用されています。宿泊を伴う研修利用も含めて年間およそ80件以上もの申し込みがあり、2,500人以上が
当訓練所を訪れています。

さらに、JICA海外協力隊の支援団体である「駒ヶ根協力隊を育てる会」とも連携を密にしています。
同会では、長野県内の中学生による1泊2日の体験入隊や、JICA海外協力隊を通じて開発途上国へ学用品や
スポーツ用品などを届ける「世界の笑顔のためにプログラム」を実施しています。

当訓練所がある駒ヶ根市は2001年にネパールのポカラ市と国際協力友好都市協定を締結するなど、同国との
交流を深めています。そんな中、駒ヶ根市との協力事業として、2013年度から16年度にわたって、市職員2人を青年海外協力隊員としてネパールへ派遣しました。また、草の根技術協力事業では、2015年から今年度末まで、同市の市民団体「ネパール交流市民の会」が中心となり、妊産婦や新生児の死亡率が高い同国のポカラ・
レクナート市で地域の女性や住民に妊娠・出産に関する健康教育などを実施しています。

当訓練所は地域のイベントにも積極的に参加しており、今年で26回目を迎える「みなこいワールドフェスタ」もその一つです。このフェスタは地域の方々に国際交流や異文化理解を身近に感じてもらうことを目的としており、今年は10月19日から27日まで開催されます。その期間は「協力隊週間」と位置づけられ、ネパール料理
教室や青年海外協力隊員の奮闘ぶりを描いた映画の上映、青年海外協力隊経験者によるトークイベントなどを
予定しています。10月26日には当訓練所開設40周年の記念式典を開催し、開設当初から訓練生を受け入れて
いただいている農家や団体をはじめ、地域の方たちへ感謝の気持ちを示したいと考えています。

今後も、当訓練所で行っている事業についてはさまざまな形で発信していきます。訓練所からも地域の
コミュニティーなどに積極的に赴き、また、より多くの方に足を運んでもらえるような地域に開かれた施設に
していきたいと思っています。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2019年10月号
<今月の特集>
質高インフラ新潮流~“国益偏重ODA”からの脱却なるか
1.次なる輸出戦略 2.援助の役割
特別記事 2018年度JICAコンサルタント等契約実績と受注トップ50
□世界の景色から ボスニア・ヘルツェゴビナ
□Message from abroad
国際連合工業開発機関(UNIDO) 東京投資・技術移転促進事務所(ITPO Tokyo)
アドバイザー(在アルジェリア) リーズ・ケラール氏
□荒木光弥の「羅針盤」 経済協力史に見る日韓関係 日本にとって宿命的な朝鮮半島
□IDJ REPORT アフリカで高まるブルーエコノミー推進の動き
□連載 国会議員の目 衆議院議員 自由民主党 小渕 優子氏
□連載 コンサルタントの展望 Vol.2
株)オリエンタルコンサルタンツグローバル 代表取締役社長 米澤 栄二氏
□連載 IDE-JETRO×Country Review
教育現場に潜在化する「逆向きジェンダー格差」
日本貿易振興機構(ジェトロ) アジア経済研究所 在マニラ海外研究員 岡部 正義
□解「国」新書 インドの女性・カーストの因習を変える/広瀬 公巳
□連載 Toward 2030 SDGsフロントランナー Vol.5
公財)味の素ファンデーション
□Devex News □World Headline
□BOOK □大学の国際化最前線
東京女子医科大学大学院 医学研究科 国際環境・熱帯医学講座
□News & Topics
□特別記事 駒ヶ根訓練所 開所40周年
□編集後記