FIELD STORY(11月号)

独立25周年を迎えた観光立国環境に配慮し
自立的発展を後押し

JICAパラオ支所 立原 佳和所長

JICAパラオ支所 立原 佳和所長

気候変動対策を支援の柱の一つに
廃棄物管理では日本の自治体の知見を活用

パラオは、西太平洋に位置する人口約2万人の島国です。今年、米国による委任統治からの独立・日本との
外交関係樹立25周年を迎えました。2020年8月には各国政府やNGO関係者などを集めた海洋関係の国際会議「Our Ocean」が開催されるなど、海外からの注目度も高まっています。

パラオの主な産業は観光業で、GDPの約7割を占めています。海外からの観光客数は2015年に年間約16万人とピークを迎え、そのおよそ半数は中国人でした。しかし、その後中国政府がパラオへの中国人団体旅行を規制したこともあり、年間の観光客数は減少傾向にあります。これは、台湾と国交のあるパラオに対する中国の揺さぶりと見られています。他方、国内市場の規模が小さいパラオでは観光業以外の産業が育っていません。
そのため、食料やエネルギー資源などは全面的に輸入に頼らざるを得ない状況です。こうした中、JICAは観光業を支える環境や気候変動対策に注力しています。このほか、輸入に依存することで外部の経済環境の変化に左右されやすい自国経済のぜい弱性克服も、同国の支援の柱に据えています。

環境問題への対策の1つは、廃棄物の管理です。同国の国土面積は日本の屋久島とほぼ同じくらいで、廃棄物を処理する場所が限られています。焼却する費用も安くはなく、その結果、近くの空き地や山に何の処理も施されていないゴミが捨てられる「オープンダンピング」が常態化していました。そこで、JICAは2005年より技術協力プロジェクトを実施し、「準好気性埋立構造」(通称:福岡方式)という廃棄物の最終処分方式を導入しました。これは福岡大学と福岡市が共同で開発した土壌の微生物を活性化させて廃棄物の分解を促進するものです。導入した場所は同国最大の都市を有するコロール州M-Dockにある約5haの廃棄物処分場です。この方式によって、同処分場ではゴミの臭いやメタンガスの発生が抑えられています。

しかし、この処分場も今後5年以内に容量が限界に達すると予測されています。現在は首都マルキョクが位置するバベルダオブ島の南部アイメリーク州で同じく福岡方式を導入した約8haの新たな最終処分場の建設が、
無償資金協力により進められています。2020年の完成を目指しており、同国16州のうち10州が集まる同島でも問題となっているオープンダンピングの解決に向けて貢献していきます。

大洋州地域とグッドプラクティスを共有
自インフラでは同国初の官民連携事業を実施

廃棄物管理に関する課題は、大洋州地域の他の島嶼国にも共通しています。そこで、2011年から実施しているのが技術協力「大洋州地域廃棄物管理改善プロジェクト(J-PRISM)」です。最初の5年間でパラオを含む11
カ国対象の地域研修の実施や、廃棄物管理に携わる人材育成、能力開発を目的としたデータベース開発に取り組みました。現在のフェーズ2では、同地域の9カ国を対象に各国の廃棄物管理能力の強化や域内協力の基盤づくりなどを実施中です。

中でも、パラオは「廃棄物管理体制の確立の促進」を目標に掲げ、すでに国家廃棄物管理戦略とアクション
プランの策定を終えています。また、現在建設中の最終処分場への移行を進めるため、ゴミ収集車にGPSをつけて収集ルートの把握や分析なども行っています。さらに域内協力として、海外から輸入したペットボトル飲料などに料金を上乗せし、飲み終わったボトルを回収場所へ持っていくと現金が払い戻される「容器デポジット制度(CDL)」の導入によるゴミの減量化といったグッドプラクティスを他国に共有しています。

このほか、インフラ整備支援にも力を入れています。例えば、国の玄関口であるパラオ国際空港は同国の観光業を支える大事なインフラの1つですが、全体的にスペースが狭いことや、待ち時間を過ごすためのレストランなどの店舗が少ないといった課題を抱えています。このため同国政府は空港の拡張・運営事業を実施するため日本企業の合弁会社「Japan Airport Management Partners CompanyLimited(JAMP)」と共同で特別目的会社「Palau International Airport Corporation(PIAC)」を設立しました。JICAはPIAC社が手掛ける同事業に海外投融資を実施しています。
JAMP社には双日(株)・日本空港ビルデング(株)・(株)海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が共同出資し、同事業の建設業者には大成建設(株)が選定されるなど、同国初の官民連携インフラ事業にオールジャパン体制で取り組んでいます。工事は現在、2020年の「OurOcean」前のグランドオープンを目指して進められています。

今後は再生可能エネルギーや水産業、農業などさまざまな分野で高い技術を持つ日本の民間企業との連携も
積極的に進め、引き続き同国の発展に協力していきます。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2019年11月号
<今月の特集>
リミット迫る気候変動対策~本気度問われるCOP25
1.総論 2.非国家アクターの声 3.ODAの課題は
Zoom Up! 進む国際議論と続く石炭投資
□世界の景色から ミャンマー
□Message from abroad
元子ども兵士 ミシェル・チクワニネ氏
□荒木光弥の「羅針盤」 独裁へ走るフン・セン首相
□Special Interview ジェンダー平等に向けたODAを促す
経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)
議長 スザンナ・ムーアヘッド氏
□Special Interview 川上から川下まで、関与を強化
国土交通省 大臣官房 海外プロジェクト審議官 平井 秀輝氏
□IDJ REPORT インドのパリクラブ参加で中国にも圧力
□こだわりの現場主義
(株)チャレナジー 執行役員/CSO(営業&マーケティング) 水本 穣戸さん
□連載 Toward 2030 SDGsフロントランナー Vol.6
積水ハウス(株)
□論説委員の視点“ New TICAD” の挑戦
日本貿易振興機構(ジェトロ)前理事 平野 克己
□特別記事 アフリカ紙記者の声
□世界を読む アジア経済に影響広がる米中貿易戦争
早稲田大学大学院 教授 浦田 秀次郎
□解「国」新書 銅生産国ザンビアで対外債務が急増
慶應義塾大学 教授 白井 さゆり
□連載 IDE-JETRO×Country Review
ケニアにおける障害者の現状と支援の在り方
日本貿易振興機構(ジェトロ)
アジア経済研究所 新領域研究センター
主任調査研究員 森 壮也
□連載 国会議員の目 衆議院議員 自由民主党 平口 洋氏
□連載 コンサルタントの展望 Vol.3
中央開発(株) 代表取締役社長 瀨古 一郎氏
□BOOK 編著者に聞く
東京大学東洋文化研究所 教授 佐藤 仁
□大学の国際化最前線
清泉女子大学 文学部 地球市民学科
□開発コンサルタントニュース
□民間企業の海外展開支援
(有)木之内農園 代表取締役会長 木之内 均氏
□World Headline
□News & Topics
□JICA中南米事務所長 座談会
日系社会とのさらなる連携強化を
□編集後記