FIELD STORY(12月号)

多彩な連携で地元企業の海外展開を支援
民間連携ボランティアも活躍

JICAパラオ支所 立原 佳和所長

JICA北陸 菊地 和彦所長

北陸3県で積極的なネットワークづくり
地銀と協力し、JICAスキームの理解促進も

国際協力機構(JICA)北陸センター(JICA北陸)は石川県金沢市に位置し、富山県、石川県、福井県の北陸3県における国際協力の総合窓口を担うとともに、地域の活性化を目指し、さまざまな取り組みを行っています。

特に近年は民間連携事業に注力しており、日本貿易振興機構(ジェトロ)や金融機関など多彩な機関や団体と連携し、地元企業の海外展開を支援しています。2016年にはジェトロ金沢や石川県などが構築したネットワーク「いしかわ海外展開サポート“かがやき”」に参画しました。このネットワークは石川県内の中小企業を対象に、海外展開に必要な知識やノウハウの提供などを行うほか、月1回のペースで開かれる定例会で情報を交換しています。こうした取り組みは富山県と福井県でも展開しており、19年6月にはアフリカセミナーを石川、福井の両県で実施し、アフリカビジネスに関心を寄せる地元の民間企業へ現地のビジネス環境やJICAをはじめ各機関が提供する支援スキームを紹介しました。さらに、11月6日にはウズベキスタン、タジキスタン、キルギスの中央
アジア3カ国のJICA事務所長やジェトロの前タシケント事務所長を招き、金沢市で「中央アジアビジネスセミナー」も開催しました。

地方銀行との連携も年々深まっており、17年に北國銀行、18年には福井銀行と、北陸地方の中小企業の海外展開を支援する業務連携の覚書を締結しました。それぞれの銀行の取引先にJICAが提供する支援スキームを紹介しているほか、JICA北陸と銀行職員が一緒に中小企業へ足を運ぶといった“営業活動”をする機会も増えています。  そうした業務連携の成果の一つとして、18年に下水道維持管理製品の製造・販売を手掛ける石川県小松市の(株)北菱が、JICAの中小企業海外展開支援事業(現、中小企業・SDGsビジネス支援事業)の案件化調査に採択されました。これはマレーシアにおいて、同社が開発した下水道管路内にある異物を取り除く多機能ロボットを活用した下水処理事業の展開の可能性を探るものです。現在、北國銀行の職員も調査チームの一員として現地での市場調査に参画しています。このような地域に密着した機関や団体との連携をさらに深め、北陸の中小企業への支援を今後も強化していく方針です。

自治体職員が案件形成に参画
研修員との交流を通じて市民の意識も変化

富山市では市役所職員が地元企業の海外展開に向けたコンサルタントの役割を担い、JICAの民間連携事業でも外部人材として案件形成に参画しています。同市は2014年にインドネシアのバリ州タバナン県と協力協定を締結したこともあり、特に同国での案件形成を強く推進しています。例えば、富山市の水機工業(株)は同国の電力不足解消のために自社の小水力発電システムを活用する提案を行い、15年の中小企業海外展開支援事業の案件化調査、16年の普及・実証・ビジネス化事業に採択されました。他にも、富山県内の2社が同じく中小企業海外展開支援事業に採択されています。

このほか、JICAの他の事業を契機に企業が海外展開への足掛かりを得た事例もあります。富山大学の和漢医薬学総合研究所は、富山県と共に16年に採択されたJICA草の根技術協力事業(地域活性化特別枠)を通じて、
ミャンマーの伝統医薬品の品質改善に取り組んでいます。その中で、同国でのビジネス展開を模索していた医薬品関連企業からなる(一社)富山県薬業連合会が、同事業の関係者らと共に同国を訪れました。この視察以降、現地との関係構築を進めてきた連合会の一員である救急薬品工業(株)は、ミャンマーでの薬の販売権を承認されました。

加えて、各企業のニーズに合わせて受け入れ国などを選定するJICA海外協力隊(民間連携)を活用した人材育成も進んでいます。過去に協力隊員としてガーナに派遣された会宝産業(株)の社員が、2019年に採択された案件化調査のメンバーとなる事例が生まれました。今後ケニアに赴き、現地で事業展開を模索する計画です。

北陸3県での研修事業も、JICA北陸が大切にしている活動の一つです。石川県立看護大学と羽咋市社会福祉協議会は2007年よりJICA日系研修事業の一環として、パラグアイなどから高齢者福祉を学ぶ研修員を受け入れていました。研修員との交流を深めるうちに、パラグアイで日系社会の高齢者の介護予防にさらに協力したいという思いを抱えた同大学はJICA草の根技術協力事業に応募し、19年に採択されました。

JICA北陸の民間連携の形は多様化しています。こうした多彩な連携を通じて、今後も地元の方々が自らの仕事に誇りを持てるような海外展開支援を続けていきます。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2019年12月号
<今月の特集>
「取り残さない」の意味を問う~“障害者インクルーシブ”な開発への模索
1.総論 2.国際潮流と日本の課題 3.アジアで広まる南南協力4.進む当事者リーダーの育成
□世界の景色から インド
□Message from abroad
Imagtor 共同創立者 グェン・シ・バン氏
□追悼 国際人―緒方貞子さんを偲んで
□荒木光弥の「羅針盤」 岐路に立つアフリカ開発会議
□IDJ REPORT 見落とされるLGBT難民支援の視点
□連載 国会議員の目 参議院議員 国民民主党 榛葉 賀津也氏
□BOOK 編著者に聞く コロンビア大学 教授 ジョセフ・スティグリッツ氏
□連載 IDE-JETRO×Country Review
本格始動のイラン・チャーバハール開発
日本貿易振興機構(ジェトロ) アジア経済研究所 上席主任研究員 鈴木 均
□解「国」新書 国境越えて漂流するマレーシアのロヒンギャ難民
ジャーナリスト 増保 千尋
□世界を読む TICAD7 隠された危機―西サハラ問題
(特活)アフリカ日本協議会(AJF) 国際保健部門プログラム・ディレクター 稲場 雅紀
□連載 Toward 2030 SDGsフロントランナー Vol.7
(株)LIXIL
□大学の国際化最前線 東洋英和女学院大学大学院 国際協力研究科
□コンサルタント特集 これから求められる人材像
□連載 コンサルタントの展望 Vol.4 (株)アルメックVPI 代表取締役 石本 潤氏
□開発コンサルタントニュース
□民間企業の海外展開支援
ファーマーズ協同組合 理事長 近藤 隆氏/大衛(株) 代表取締役社長 加藤 光司氏
□国際協力プロジェクト情報
□News & Topics
□編集後記