FIELD STORY(1月号)

国際社会で高まる存在感多様なニーズに寄り添う

JICAベトナム事務所 小中 鉄雄 所長

JICAベトナム事務所 小中 鉄雄 所長

停滞していたODA事業に反転の兆し
長期戦略策定で現地研究機関と協力

2020年は政治・経済両面でベトナムにとって節目の年になるでしょう。
同国は東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国、国連安全保障理事会の非常任理事国という二重の責務を担い、国際社会でのさらなる活躍が期待されています。一方、同国内では翌21年の共産党大会を控え、重要ポストの人事にかかる動きも活発になることが予想されます。経済面では、18年の環太平洋パートナーシップに関する先進的かつ包括的な協定(CPTPP)の批准、続く19年のEU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)の締結など、国際経済への統合も着実に進んでいます。米中貿易摩擦も短期的にはプラスに働くと考えられており、このような外部環境を上手く生かせるかが鍵になります。

これまでベトナムは、製造業を中心とする海外からの直接投資などに依存してきましたがベトナムのマクロ経済指標や海外直接投資は好調な一方、政府開発援助(ODA)、特に円借款事業についてはここ2年程停滞していました。既往案件についても、都市鉄道案件などで未払い問題が深刻化し、いまだ全面解決までには至っていません。主な要因は同国政府による公的債務管理の強化、中期公共投資計画などの硬直的運用、関係省庁などの手続き遅延などによるものですが、世界銀行やJICAなどの主要ドナー(6Banks)、大使館などが政府に対して働きかけを行った結果、同国政府の姿勢も変化しつつあり、2020年は反転の兆しも見えてきています。

今後は「中所得国の罠」に陥らないよう新たな成長モデルも必要であり、そのためにはバリューチェーンを支えるインフラ整備、裾野産業の育成、生産性向上などの解決が喫緊の課題です。ベトナム政府は、「社会経済開発戦略」(~2030)「社会経済開発計画」(~2025)策定に向けた作業に着手したところです。JICAとしてもこれらの長期展望の作成への協力の一環として、18年にベトナム社会科学院(VASS)と連携協定を締結し、案件の発掘を目指しています。同国の中所得国化が進み、国際機関による譲許的資金支援が困難になる中、円借款を含む日本の支援は重要性を増すと認識しており、「質の高いインフラ」「自由で開かれたインド太平洋」構想に合致する案件形成に注力していきたいと考えます。

民間セクターとの連携や人材育成に注力
日本式の経営手法を学ぶ経営塾の活用も

ベトナム政府は現在、官民連携(PPP)方式の投資法の改定に着手するなど民間投資の呼び込みに積極的です。また「インダストリー4.0」を標榜し、デジタル社会・経済進展に強い関心を示しています。JICAとしては、20年以上協力してきている同国の法整備支援を通じ、法の分野でも投資環境の改善を図っています。また、世界で最も件数が多い中小企業・SDGsビジネス支援事業といった提案型調査の有効活用や、海外投融資も積極的に展開することで、同国政府が進めるさらなる民間投資の呼び込みに協力していきます。また、18年より電子政府やサイバーセキュリティーに関する技術協力を通じ、同国のデジタル化社会に向けた支援も開始しました。

このほか、新時代に向けた人材育成の面からも、共産党幹部・行政官から産業人材まで幅広く支援しています。18年より5年間で800人の共産党幹部などを日本に派遣して研修を行う事業を開始しています。16年に開学した両国のシンボル的事業である日越大学では日本の大学がカリキュラム作成や教員派遣を行う中、グローバル人材の育成を目指しさらなる発展が期待されています。産業人材の面では、ビジネス人材の育成や日越間の経済交流拠点として設立されたベトナム日本人材開発インスティチュート(VJCC)が、同国の中小企業の幹部クラスを対象に日本式の経営手法を約10カ月にわたり指導する「経営塾」を開講しています。19年の開講10周年記念式典には経営塾の卒業生およそ300人が参加し、同国に進出している日本企業との交流会も行われました。今後は卒業生で構成される「経営塾クラブ」を含め、VJCCを日本・ベトナム双方の企業のマッチングの場に発展させていきたいです。

日本とベトナムの関係は、人的交流も含めた重層的なものへと深化しつつあります。日本の自治体や大学、地方銀行のベトナム訪問・進出も活発化しています。さらに2020年1月には中部のダナン市に領事事務所が開設されるなど、二国間関係の深化は一層進むでしょう。他方、大気汚染や高齢化問題など同国が直面する新たな課題への対応も急がれるところです。JICAのスキームを総動員し、他機関とのパートナーシップの下で同国の発展に向けた協力を続けていきます。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2020年1月号
<今月の特集>
開発協力の使命は~2020年代の舵取り
1.SDGs時代に問われるもの 2.ODA 次なる展望 3.多様化する戦略
□世界の景色から ルワンダ
□追悼 夢半ばの無念を想う ―「民の思想」を貫いた中村哲医師
□荒木光弥の「羅針盤」 JICAの機構改革を考える
□Special Interview
「世界あっての日本」として未来志向の行動を
(公財)日本財団 会長 笹川 陽平氏
□論説委員の視点 これからの日韓関係を考える
早稲田大学 政治経済学部 教授 深川 由起子
□新連載 日本の選択 第一回/亀裂と分断に揺れる世界経済
立命館大学 名誉教授 唐沢 敬
□展望2020 「自国第一」の世界で高まる多国間機関の責務
アジア開発銀行(ADB) 戦略政策・パートナーシップ局長
木村 知之
□連載 国会議員の目 衆議院議員 自由民主党 逢沢 一郎氏
□IDJ REPORT 性的少数者の権利保護に動く世界と動かぬ日本
□解「国」新書 難工事進む中国ラオス鉄道の現場
慶應義塾大学 経済学部 教授 大西 広
□連載 Toward 2030 SDGsフロントランナー Vol.8
(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ
□Devex News
□読者からの声 立場を超えた協働に向けて
大阪大学 超域イノベーション博士課程プログラム7期生
□BOOK 実践!まちづくり学~コミュニティを幸せにする、
デザインの挑戦
□2020年 開発協力の新たな時代を切り開く
□民間企業の海外展開支援
エコステージエンジニアリング(株) 代表取締役 中園 英司氏
□大学の国際化最前線 日本工業大学 専門職大学院(MOT)
□国際協力プロジェクト情報
□News & Topics
□編集後記