本清理事インタビュー

SDGs達成に向けたプラットフォームへ
横の連携強化でODAスキームの効果的な活用も

国際協力機構(JICA) 理事 本清耕造氏

国際協力機構(JICA) 理事
本清 耕造氏

国際協力機構(JICA)と国際協力銀行(JBIC)の海外経済協力部門が統合する“JJ統合”を経て、“新JICA” が誕生してから約12年。JICAは現在、課題部・人事部・調達部・国際協力人材部の組織改編に着手している (改編後の組織構成は下図を参照)。かつてJJ統合に携わり、現在は総務部、人事部、企画部などJICAの舵取りを担当する本清耕造理事に詳細を聞いた。(聞き手:本誌主幹 荒木 光弥)

「4つのP」に課題を再整理

2008年の統合を経てJICAが新体制に移行していた時、私は外務省で有償資金協力や無償資金協力の案件形成プロセスを統一するなど統合に伴う業務フローの整理に携わっていた。それから10年経ち、あらためて統合の成果を出すには何が必要かを考えた。

そして感じたのは、これからのJICAには外部との繋がりを強めて、民間資金も活用しながら持続可能な開発目標(SDGs)を達成しようという発想が不可欠だということだ。この数年、JICAでは円借款の本邦技術活用条件(STEP)の制度改善やインフラ技術業務部の新設など、質の高いインフラ輸出を後押しするための改革を進めてきた。今後は幅広いステークホルダーに連携を呼び掛け、日本におけるSDGs達成に向けた「プラットフォーム」のような役割も確立していく必要がある。そこで着手したのが、SDGsに機動的に取り組んでいくための組織再編だ。

まず、JICAがこれまで取り組んできた開発課題をSDGsに沿って再整理した。具体的にはSDGsの達成に必要な開発協力の重点課題を「4つのP」に分けた。これは、①Peace(平和で安全な社会の実現)、②People(人間中心の開発促進)、③Prosperity(経済成長の基礎および原動力の確保)、④Planet(地球規模課題への取り組み)だ。

課題部は、この4つのPに沿って5つの部署に再編した。JICA は昨年、「人間の安全保障」への取り組みを強化すべく「人間の安全保障 2.0」を打ち出した。これは多くの開発課題 に関係するものだが、平和と秩序に関するものをまとめてガバナンス・平和構築部とした。ジェンダー平等などの横断事項も担当する。次に②を担う部署として、人間開発部を配置した。③は課題が幅広いため、農業を含む産業全体を担う経済開発部とインフラ整備の社会基盤部に分けている。④の地球環境部は、すでに課題別にある程度整理されていたのでほぼ変えていない。

人事部と調達部、国際協力人材部は、人事部と調達・派遣業務部に整理した。外との繋がりを深めていく中で、どこにどの専門家がいるかといった人材情報を把握しやすくし、JICA内外の国際協力人材の養成を効果的に進めるためだ。これまでは専門家やボランティア、職員などの人材だけをいくつかの部署に分かれて見ていた。それを人事部の中に設けた開発協力人材室でNGOや開発コンサルタントなど外部の人材も含めて人材育成や活用などを一元的に見ていく。コンサルタント契約と直営専門家派遣業務は、調達・派遣業務部で一括し、JICA業務に携わる方々の利便性向上を図る。

“開発の総合プロデューサー”へ

現在、4つのPの下、開発課題を「クラスター」、そこからさらに細分化した課題を「サブ・クラスター」としてまとめようとしている。②の場合、クラスターには保健医療、栄養の改善など、サブ・クラスターにはユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を目指した保健システム強化、食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)などを入れ込もうと考えている。

こうして整理された課題、例えばUHCには、技術協力やUHC借款など政府開発援助(ODA)全体のスキーム・機能を組み合わせてプロジェクトを実施・管理していくつもりだ。開発コンサルタントにも知恵を出していただいて、先に述べたプラットフォームの機 能を強化する。相手国に対しても、「この円借款案件にはこういう技術協力などを導入すると大きなインパクトが期待できる」といった提案を大使館などと協力して積極的に行いたい。目指すは、JICA内にとどまらず様々な外部の方々に参加・協力いただく「開発の総合プロデューサー」である。

地域部と課題部の連携を

そのためには、内部の横の連携もより緊密にしていきたいと考えている。一つは、円借款や無償資金協力と同様、技術協力についても従来以上に理事会での審議を深めるようにしたい。これまで、一つ一つの案件規模の小さな技術協力は課題部の中で自己完結的になっている面もあった。今後は、「みんなの学校プロジェクト」といった複数の国にまたがり実施しているプロジェクトなどを理事会で議論していきたいと考えている。

もう一つ、課題部と地域部との連携強化も不可欠だ。これはすでに試みを始めている。例えば、課題部が案件形成に向けたプレゼンテーションをする際には、必ず地域部も参加して議論することを習慣化させている。課題部にとっては国別アプローチの視点を持つことができ、地域部も普段はあまり関わりのない技術協力について知ることができる。そうした中で、互いに「無償資金協力とはどう協力しているのか」「円借款ではプログラムローンなどを予定しているのか」といった情報を交換している。これはすごく大きな前進だ。

また、JICAは2019年2月に日本国内のパートナーとの窓口となる民間連携事業部と国内事業部を東京・麹町の本部ビルから竹橋へと移転・集約した。これに伴い、それまでフロアが分かれていた課題部と地域部を隣り合わせになるように意図的に配置してもいる。お互いの話が耳に入るようになれば、これまでにないインスピレーションが湧く可能性も高まるだろう。自由なワーキングスペースも作って、意見・情報交換の活性化も図っているところだ。人材も、統合後しばらくは、地域部は“旧 JBIC”、課題部は“旧JICA”というイメージがあったが、人材が偏らないように心掛けている。

私は約30年前、大使館で初めてODAプロジェクトに携わった。当時、円借款を実施する海外経済協力基金
(OECF)はメキシコに事務所を持っていなかったので、同国の円借款の植林事業に関してJICA(国際協力事業団)のメキシコ事務所に協力を要請した。しかし、「OECFとJICAは別の機関だから難しい」ということだった。以来、私は統合の信念を持ち続けていた。だからこそ、ようやく実現した統合の成果を最大限に出していけるようにしたいと思っている。今後も、それを推進していく提唱者で在り続けるつもりだ。

次なる課題として、国内機関と在外事務所との連携強化も考えている。特に日本の地方とは最近、中小企業・
SDGsビジネス支援事業を通じて関係が深まりつつある。 その中でSDGs達成に向けても日本の地方と開発途上国との協力関係を構築していければと思っており、国内機関をもっと盛り上げたいと感じている。とはいえ、まずは再編を4月に実施し、その実効性を確かめたい。改革を着実に進め、21世紀におけるJICAの新たな価値を生み出していきたい。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2020年4月号
<今月の特集>
2020年度ODA予算概観~組織再編に動くJICA
1.国会議員の目 2.JICA組織改編の青写真 3.13省庁・機関別ODA予算
□世界の景色から イラン
□Message from abroad
シリア難民留学生 アナス・ヒジャズィ氏
□荒木光弥の「羅針盤」 開発コンサルタントはJICAの影武者ではない
□Special Interview SDGsを反映したDAC評価項目へ
外務省大臣官房 前ODA評価室長 村岡 敬一氏
□Special Interview “双方向”の国際協力求めて
国際協力機構(JICA)
副理事長/中小企業等海外展開支援事業本部長 越川 和彦氏
□IDJ REPORT コロナ危機の“総力戦”で一翼を担え
□論説委員の視点 国際協力NGOを取り巻く支援環境
(公財)プラン・インターナショナル・ジャパン 理事長
池上 清子氏
□BOOK 海の地政学
□IDJ REPORT インドから学ぶインパクト投資の可能性とリスク
□国際協力プロジェクト情報
□海外プロジェクト情報
□連載 コンサルタントの展望 Vol.7
(株)国際開発センター 代表取締役社長 寺田 幸弘氏
□開発コンサルタントニュース
□民間企業の海外展開支援
(株)シモタ農芸 取締役副社長 霜多 辰樹氏
□大学の国際化最前線 昭和女子大学 国際学部 国際学科
□世界を読む ESG投資、日本企業は受け身から転換を
早稲田大学大学院 教授/アジア開発銀行研究所(ADBI)
エコノミスト 根本 直子
□連載 Toward 2030 SDGsフロントランナー Vol.10
(株)明治
□Devex News
□World Headline
□私の提言 20年目迎えた国際交流
(株)日本政策金融公庫 国民生活事業本部 海外支援
グループリーダー 山上 徹
□News & Topics
□編集後記