国際協力機構(JICA)

強靭な保健システムをつくる

JICA 人間開発部 保健第一グループ課長 理事 平岡 久和氏

JICA 人間開発部 保健第一グループ課長
平岡 久和氏

地域の中心国に重点支援

近年の感染症対策は、突発的な感染症の発生にも対応できる能力・体制の強化や、感染症流行時でも平時の保健サービスが提供できる「強靭な保健システム」作りが重視され、JICAも強靭な保健システム構築を後押ししている。

具体的には、検査室の整備・拡充といった国の感染症対策の基幹となる組織のコア能力(サーベイランス、検査、人材など)の強化だ。長きにわたり、ガーナの野口記念医学研究所(野口研)、ケニア中央医学研究所
(KEMRI)などの能力強化などの支援をしてきた。協力においてはハードとソフトの両面でコア能力の強化を支援している。野口研では2019年、無償資金協力で先端感染症研究センターを整備したほか、共同研究を通じた人材育成も行っている。

その結果、野口研では5月10日現在でガーナ国内15万件を超える新型コロナウイルス検査(サブサハラアフリカでは2番目の規模)のうち8割を実施。KEMRIでもケニア国内検査の約半数を担うなど、積年の協力を通じて健康危機への迅速な対応を可能にしている。

国数の多いアフリカでは、それぞれの地域の中心的役割を担う国と協同し、近隣国へその効果を波及させる形で地域全体のコア能力の底上げを図っている。同様の支援方針を掲げるアフリカ疾病管理予防センター(アフリカCDC)とも17年に協力趣意書を結び、足並みをそろえて来た。19年度にはケニア、ガーナ、エジプトそれぞれにおいて近隣国からの参加者を含めた第三国研修を実施した。現在、新型コロナウイルスの影響で専門家は日本へ帰国している状況だが、コンゴ民には1月に国立生物医学研究所(INRB)へ専門家を派遣した。また3月下旬には、無償資金協力を通じて整備したINRBの検査・研究センターの引き渡しも終えたところだ。ナイジェリアへは19年4月、同国の中核の検査室を強化する無償資金協力の贈与契約を締結した。同国とは地域の検査室とのネットワークを構築する技術協力プロジェクトも先行して進めている。このほか、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)で感染症の原因を突き止める共同研究などもガボンやザンビアなどで行っている。

国内外への知的発信も視野に

そうして培ってきたネットワークは、新型コロナの感染拡大により発生した現地ニーズへの迅速な対応にも生かすことができた。開発途上国や貧困国は、新型コロナの流行が収束しても、他の感染症や顧みられない熱帯病(NTDs)などの問題が引き続き残る。今後も、円借款なども活用しながら、強靭な保健システム構築への支援を続けていく必要がある。その上では、保健医療分野に特化するだけでなく、水・衛生分野や栄養・農業分野との連携も必要だ。JICAでも各部署間で今後の連携の在り方について議論を進めている。加えて、世界経済や日本国内にも波及するコロナ禍の全体像を分析し、JICAとして今後どのような支援を展開すべきかも考えていかなければならない。その中では、新型コロナに関する学術的な検証に貢献してもいい。また、感染症がグローバルな問題となる中、各国で講じられたさまざまな試みや支援の成果を集約し、国内外へ知的発信を行うことも、JICAの役割ではないかと考えている。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2020年6月号
<今月の特集>
SDGs 主役は私たち~若者たちのアクションプラン
1.総論 2.ミレニアル世代の声 3.若者たちへ
□世界の景色から ガイアナ
□Message from abroad
アクション 国際保健提言パートナーシップ上級アソシエイト
ワイスワ・ンクワンガ氏
□荒木光弥の「羅針盤」 狂い始めたヒモ付き円借款
□新連載 Toward 2030 SDGsフロントランナー Vol. 1
SOMPOホールディングス(株)
□大学の国際化最前線
大阪大学大学院 国際公共政策研究科(OSIPP)
□新連載 IDE-JETRO×Country Review
東京外国語大学 現代アフリカ地域研究センター 特別研究員
井上 直美
□BOOK
□解「国」新書 「漢字文化圏」への理解を日越交流の基礎に
東京商工会議所国際部 課長 安藤 憲吾
□Devex News
□開発コンサルタントニュース
□BOOK 編著者に聞く
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
パブリックセクター アソシエイトマネジャー 浜名 弘明氏
□国際協力プロジェクト情報
□News & Topics
□IDJ REPORT マルパス新総裁は開発ビジョンを語れ
□Special Interview ハンセン病の歴史に幕を
(公財)日本財団 会長 笹川 陽平氏
□連載<3>動き出すマニラ 鉄道が描く、マニラ大首都圏の未来
□編集後記