国際協力機構(JICA)

スマートシティの実現を側面から支援

JICA 社会基盤部 都市・地域開発グループ長 荒 仁氏

JICA 社会基盤部 都市・地域開発グループ長
荒 仁氏

バンスー地区の開発計画を立案

国際協力機構(JICA)は長年にわたり、マスタープランの作成から事業実施まで、包括的に都市開発分野の協力を展開してきた(本号Trend of JICAを参照)。近年はスマートシティの実現に向けた協力も手掛けている。
JICAはスマートシティを「都市が持つポテンシャルを生かしつつ、イノベーティブなソリューションを取り入れ、都市課題を解決していくアプローチ」として捉えている。

事例の一つ、2018年10月から20年1月にかけて実施した「タイ国バンスー駅周辺整備推進に向けたスマートシティ構想」では、バンコクのバンスー中央駅を中心としたエリアを舞台に、スマートシティの計画及び実現方法を検討した。同駅は円借款により建設中のレッドラインと供与済みのブルーラインのバンコク・メトロ(MRT)2路線のほか、空港線や高速鉄道が乗り入れる交通の“結節点”となる予定で、同駅を含む約1.2km×約3.2kmのエリアが開発の対象区域だ。将来的にはオフィスや住宅地などを擁する一大地区になる見込みだ。レッドラインの整備と駅舎整備は、すでに09年3月より円借款事業で支援しており、スマートシティ構想により、鉄道の整備効果の一層の向上が期待される。

この構想では、「新たなビジネス、産業、ライフスタイル、文化が交差し、結びつき発展していく『まち』になる」よう、“Platform for Innovation”のコンセプトの下、地区の開発計画とともに、①モビリティ、
②エネルギー、③環境分野の事業計画を検討した。そして「まち」に関連するさまざまなデータを収集・統合・活用するオープンデータプラットフォームの検討を行った。例えば、①ではスカイデッキネット―ワークと個人用高速輸送システム(PRT)、②ではエリアエネルギーマネージメントシステムの導入を提言した。この構想の実現に向けて、タイ政府をはじめとする関係者が具体的なアクションを進めるよう、大いに期待している。

現地とのネットワークを生かす

スマートシティで活用される技術は日々進歩している。このような技術、そしてイノベーションを取り入れるためには、民間の役割が重要となる。開発途上国の関係者と柏の葉スマートシティや大阪の「うめきた」などを訪問すると、技術とともに、多様な関係者の連携体制に驚く。このような日本の経験を生かし、都市問題の解決、そして持続可能な都市の実現に向け、官民、そして市民が、ともに解決方法を検討し、イノベーティブな都市を共創する「場」を形成していきたいと考えている。

またコロナ対応もあり、途上国でも都市関連データを有効活用する動きが高まると言えるが、公と私のバランスを重視する日本の取り組みは有効と考えている。また、日本の関係者にも途上国の取り組みは参考になる点もあると考えており、多くの関係者に途上国の都市開発に参画いただきたい。

JICAは今まで培ってきた経験・ノウハウや現地との強固なネットワークを有している。われわれのアセットを活用し「場」を形成し、日本国内、そして途上国のパートナーと共に途上国の都市開発に貢献して参りたい。

先述したバンスーのスマートシティ構想では、一体的な開発の実現方策や、技術の進歩に対応する仕組み、民間の関心を高める方策を検討したが、このような構想の具体化に向けた協力も行いたい。

建設中のバンスー中央駅

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2020年7月号
<今月の特集>
人に寄り添うまちへ~SDGs時代の都市開発を問う
1.ポスト・コロナの課題 2.日本の都市輸出戦略
3.開発協力の役割 4.スマートシティの潮流
□Zoom Up! アジアの競合国の動向は
□世界の景色から タイ
□荒木光弥の「羅針盤」 開発協力の先駆者 八田與一を偲ぶ
□Special Interview 国際協調の停滞に強い危機感
英キングス・カレッジ・ロンドン 教授 渋谷 健司氏
□IDJ REPORT コロナで見直し迫られるODAの危機管理
□論説委員の視点 求められる“動的で開かれた”都市モデル
(株)レックス・インターナショナル 代表取締役 橋本 強司
□連載 国会議員の目
参議院議員 自由民主党 松川 るい氏
□Message for Japan
東京都江戸川区議会議員 よぎ氏
□世界を読む インド新幹線で考える高速鉄道の成果の最大化
アジア開発銀行研究所(ADBI)
シニアコンサルティング・スペシャリスト
K. E. シータラム
□こだわりの現場主義
グランド・フォレスト・ジャパン・ホスピタル CEO/
ドリーム・ワールド・ヘルスケア・プログラム
代表 武居 光雄さん
□連載 Toward 2030 SDGsフロントランナー Vol.13
(株)すららネット
□BOOK 編著者に聞く
政策研究大学院大学(GRIPS) 教授 飯塚 倫子氏
□Devex News
□World Headline
□開発コンサルタントニュース
□民間企業の海外展開支援
北島酸素(株) 専務取締役 ブラッドリー・シェリー氏
□国際協力プロジェクト情報
□海外プロジェクト情報
□News & Topics
□編集後記