第36号 PARTNERコラムツバルへのエール

途上国の現地で経験した、ちょっとしたこと

ツバルは9つの主だった島もしくは環礁から構成されている南太平洋の島嶼国です。最近は、地球温暖化によって海面が上昇した場合、平均標高が1.5mほどのツバルは「世界で最初に沈む島」との文脈で紹介されることが多い国です。

私はツバルのプロジェクトで環境分野を担当していた関係で、日本ではあまり知られていないツバルの情報に接する機会を得ましたので、いくつかご紹介いたします。

【太平洋戦争の影響】

日本軍は太平洋戦争開戦の2日後(12月10日)にギルバート諸島(現在のキリバス)に展開。日本の南進を止めるため、米軍はエリス諸島(現在のツバル)を前線として日本軍に対峙しました。この米軍基地が建設されたのが、現在首都があるフナフチ環礁です。その広く静穏な環礁内は軍艦の良好な停泊地となり、一時は200隻近くが停泊していました。米軍は、B24爆撃機が離発着可能な飛行場と軍港の建設のため、細い環礁を掘削して骨材を採取し、その結果深い穴とさらに細い崖が残されました。礁池の浅瀬のサンゴもほとんどが掘削され、白砂のバームも岸壁に姿を変えました。

【ツバルはどれくらい沈んでいるのか?】

ツバル近海では、毎年2月から4月に一年でもっとも潮位が高くなります。ツバルではこの時期の満潮はキングタイドと呼ばれており、地面からゴボゴボッと海水が沸き上がってくる、ちょっと怖い珍現象が発生します。
一方で、毎年のことでもあるため、これを目当てにした観光ツアーも組まれたりしています。

ツバルのソポアガ首相(当時)は、COP23(2017年、フィジー)において、「ツバルは将来海に沈んでしまう」、「私たちは海面上昇と気候変動の関係に注目すべき」、「気候変動の適応プロジェクトへの支援を」と訴えています。ただ水位の上昇率には諸説あります。
IPCC ※1 第4次評価報告書では海面水位上昇率は3.1±0.7mm/年とされており、ツバル現地の潮位観測データは
1999年~2008年の10年間で年間約2.3mmの海水面の上昇を観測しています。
ちなみに日本の気象庁は「1906~2019年の期間では(日本近海の潮位の)上昇傾向は見られません」(カッコ内筆者注記)とHPに記載していることも留意すべきです。

【ツバルで一番大きな島は別にある】

米軍の築造した飛行場があるためか、現在の首都はフナフチ環礁となっているのですが、実はツバルで最大の島はヴァイトゥプ島です。
その最高標高は海抜約20m、島の大部分は標高10m以上の高さで島全体の広さも5.8km 2 (千代田区の約半分)と意外(?)に広いのです。

【各国からの支援の波!】

このツバルに対し、各国が支援を続けています。加えてツバル政府は、海面上昇対策としてフナフチ環礁の大規模嵩上げプロジェクトを提案しています。コフィ外相によると「日本の支援に期待している」とのことです。

ツバルは、国土の脆弱化をCO2排出国の責任に関連付けて、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)等で各国による支援を真剣に訴えてきました。これまでのところ功を奏しているようです。私は、この小さな国が様々な国際的駆け引きのなかで今後も健闘し、繁栄していくことを願ってやみません。

米軍による骨材掘削跡地に海水が満ち、家屋の基礎杭が水没してしまっている様子
米軍による骨材掘削跡地に海水が満ち、家屋の基礎杭が水没してしまっている様子
COP15にて「我が国の運命はあなた方の手に委ねられている」と涙ながらに訴えたツバル代表団のDr. Ian Fry © 2009 ThinkProgress
COP15にて「我が国の運命はあなた方の手に委ねられている」と涙ながらに訴えたツバル代表団の
Dr. Ian Fry © 2009 ThinkProgress

※1 :国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)

八千代エンジニヤリング株式会社
事業統括本部 海外事業部 都市環境部 環境管理課
山崎典和

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