第81号 PARTNERコラム人が輝く組織経営-NGO創設者 鬼丸さんインタビュー

*本コラムは、特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス創設者・理事 鬼丸昌也さんへのインタビューをまとめたものです。

1.鬼丸さんが大学生の時に創設されたテラ・ルネッサンスは、2021年10月に創立20周年を迎えられました。団体のビジョン「すべての生命が安心して生活できる社会(=世界平和)の実現」に込められた思いを教えてください。

小学生の頃、よく図書室でアジア・アフリカの独立運動のリーダーたちの伝記を読んでいました。伝記を読む中で、「虐げられている人でも力を合わせれば社会を変えることができるのだ」と勇気をもらったことが原点になっています。以来、平和を創ることに強い関心がありました。大学では平和学を専攻し、政治家になることを考えた時期もありましたが、大学4年生の時に初めて訪れたカンボジアで地雷原を訪問したことをきっかけに、
NGOの創設へと向かっていきました。
テラ・ルネッサンスの創設にあたり、「目指すべき世界平和とは?」「平和とは何か?」と深く考えました。平和とは、「戦争がない状態?」「尊厳を脅かすものがない状態?」と考えるうちに、「不安がない状態=世界平和」であると考えるに至りました。「不安」の反対は「安心」です。そして「安心できる状態」とは、「安心して生活を営める、生を活かせる状態」だと考えています。そして、その対象は人間だけでなく、すべての生命であるべきだと思っています。

カンボジアの地雷原を見学する大学4年生の時の鬼丸さん(右下)
カンボジアの地雷原を見学する大学4年生の時の鬼丸さん(右下)

2.テラ・ルネッサンスは、「地雷」、「小型武器」、「子ども兵」、「平和教育」という4つの課題に対して、現場での国際協力を行うと同時に、国内での啓発・提言活動にも力を入れておられますね。

世界の様々な問題の根本原因を解決するためには、「今だけ、自分だけ」のことを考えていてはだめで、将来まで見据えるような大きな視点に拡大する必要があると思うのです。大学時代によくアメリカのネイティブアメリカンの本を読んでいたのですが、彼らは7世代先のことまで考えて行動するそうです。一人ひとりが、「次世代に対する責任」に気づいて、行動できるように働きかけていく必要があります。
また、途上国の紛争の問題は、先進国の大量生産、大量消費、大量廃棄のライフスタイルが引き起こしている場合も多いのです。その責任を自覚し、先進国で暮らす我々一人ひとりが、サステナブルな生活へと転換する必要があると考えています。そのためには、社会を構成するすべての人々に、「今だけ、自分だけ」でなく、途上国で暮らす人々や将来の世代も視野に入れた生活をして欲しい。ですから、途上国の現場での国際協力活動だけでなく、日本の人々への啓発・提言活動が非常に重要だと考えています。

「平和教育」の一環として講演を行う鬼丸さん
「平和教育」の一環として講演を行う鬼丸さん

3.テラ・ルネッサンスでは、スタッフの皆さんが生き生きと働かれているのが印象的です。スタッフの定着率がとても高いと伺っていますが、その秘訣は何でしょうか。

いくつか理由があると思いますが、一つはコミュニケーションだと思います。テラ・ルネッサンスは「前向きな雑談」が多い団体です。お互いを認め合ったコミュニケーションの質・量を確保できるよう、朝礼や合宿などを通してスタッフ同士のコミュニケーションの機会を意識して作っています。業務の中でも、イベント開催時に他部署の人と一緒に働く、国内のスタッフが支援の現場に視察へ行って理解を深めるなど、部署を超えてコミュニケーションをとり、理解しあえるよう配慮しています。
二つ目は理念教育ではないでしょうか。団体の目的を示す「ビジョン」、ビジョンを追求するために求められる行動を示した「ミッション」、何を大切にしてミッションを遂行し、ビジョンを追求するのかという価値観を表わした「活動理念」、そして活動理念を体現するための具体的な行動の基準である「クレド」を作り、スタッフ一人ひとりの心に浸透させる努力をしています。「ビジョン」や「ミッション」は壁に掲げてあるだけでは浸透しません。毎日の朝礼で唱和する、時々数人に分かれてディスカッションをする、業務の中でどう判断すべきかを「活動理念」に照らして上司が示す、といった努力を積み重ねることによって、スタッフ一人ひとりの心に浸透していきます。浸透すると、団体の価値観(理念)を判断基準として、全員が考え行動できる組織風土ができていくのです。
三つ目は、採用時に団体の価値観を共有できる人財かどうかを見極めることです。選考の過程でこれを見極めるのは簡単ではありませんが、複数人が面接を行い、その人の能力やスキルだけでなく、素直さ、柔軟さ、どのような価値観を持っているのかを多角的に見極めるように心がけています。もともとインターンとして活動していた人をスタッフとして採用することも増えています。インターン経験者は団体の価値観をすでによく理解してくれているので、入職後のギャップは少ないと思います。

国内スタッフ・インターンの集合写真。前列中央の赤いシャツが鬼丸さん
国内スタッフ・インターンの集合写真。前列中央の赤いシャツが鬼丸さん

4.たった一人で始められたNGOを20年間運営し、様々な人を巻き込んで組織として成長させた鬼丸さん。人を輝かせる組織づくりのポイントを教えてください。

人が輝くのは、働き甲斐を感じている時だと思います。働き甲斐には責任(役割)が必要で、しかもそれはその人の強み・関心に応じたものがよいのです。リーダーはその人の強み・関心を知るために、よく観察し、話を聞き、リーダーも自分の思いを語ることが重要です。そしてそれぞれ役割を持たされた多様なスタッフが、目的(ビジョン)のために同じ価値観(理念)で協力しあうことで、「チーム」ができます。
ぶれない理念で組織を経営していくと、スタッフやインターンが組織の一番のファンになってくれます。スタッフやインターンが組織のファンでなければ、外部のファンは増やせません。あらゆる人に、特にスタッフやインターンに「好きだ」と言われるような組織にしていくためには、リーダーの一人ひとりへの気配りと、 リーダーが細かいことまで指示しなくてもスタッフが自分で考えて適切に動けるような組織づくりが重要です。理念を浸透させることにより、リーダーはスタッフを信頼して業務を任せられるようになり、スタッフにとっては管理が少なく自由度の高い職場になっていくと考えています。

各国の現地スタッフにも「ビジョン」や「理念」が浸透しています
各国の現地スタッフにも「ビジョン」や「理念」が浸透しています

JICA人事部開発協力人材室 石坂 明日香
(2021年12月~2022年3月まで、JICAの「社内インターン*」制度で
特定非営利活動法人テラ・ルネッサンスにて活動。)
*職員が一定期間自身の所属先以外の部署や外部の組織で業務を行う研修制度。

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