第92号 PARTNERコラム女性たちが活躍できる社会を目指して

はじめまして、国連女性機関(通称:UN Women)にて勤務しています、中野美緒と申します。ケニア事務所にてジェンダー平等・女性のエンパワーメントに関わる活動をしています。日本の大学で国際協力を学んだ私は、ジェンダー分野については学ぶ機会がなかったのですが、偶然が重なり、今はとてもやりがいを感じられるお仕事ができています。そんな私のターニングポイントをシェアさせてください。

西アフリカのナイジェリアで日本政府の開発協力事業に携わっていた時、「ミーティングの相手がいつも男性ばかりであること」に違和感を覚えました。これがジェンダーの問題に関心を持ったきっかけです。女性たちは家事・育児、水汲み、農作業、家畜の世話に追われて忙しく、プロジェクトを策定する際の重要なミーティングには、いつも男性しか参加せず、お茶汲みや清掃などの雑用があると女性に頼む。そんな現実を目の当たりにし、同じ女性として不快感を抱いたことを今でも覚えています。

そのような問題意識を持ちつつ、当時の私はジェンダーの専門家ではなかったのですが、プロジェクト・マネジメントの経験が買われて、国連での最初の一歩を踏み出すことになりました。最初の仕事は、当時から国連女性機関が実施していた、ケニアの難民キャンプにおける女性のリーダーシップ育成、女性の社会・経済参加支援事業です。九州の片田舎で、亭主関白が当たり前、「女性が一歩下がること」が美徳とされる文化で育った私は、自らも学びながら案件を開始したことを覚えています。

ケニアの難民キャンプには、ソマリア、南スーダン、コンゴ民主共和国、ブルンジ、ルワンダ、スーダン、エチオピアなどの国々から、紛争・自然災害・迫害を逃れてきた人々が暮らしていました。女の子が学校に通うことも、女性が外に出て働くことも伝統・慣習的に良しとしない人々もいる中で、男性のコミュニティの指導者たちと話し合いながら、女性も自治体のミーティングに参加する必要があること、女児も教育を受けなければならないこと、女性も社会に出て働くチャンスを与えられなければならないことを啓発していきました。

当初は果てしない道のりに思えたのですが、石の上にも三年、結論から言えば、地元政府の関係者や難民キャンプに住む男性・女性の意識が変わってきていることを実感しています。今まで専業主婦だった女性は、政府が主催するミーティングに積極的に参加し、女性や子どもたちが抱える安全上の課題を共有するようになり、職業訓練を受けた女性は、ビジネスを始めて軌道に乗り、安定した収入を得て、子どもたちを学校に通わせています。そのように、母親である女性が政治・経済に関わることは、政策決定において保護者・子どもの代弁者として発言することになり、さらに家庭内では子どもへの接し方・教育にも影響するので、将来世代へのインパクトが大きいと実感するようになりました。

コミュニティの女性リーダーたちとのミーティング
コミュニティの女性リーダーたちとのミーティング。
女性・子どもへの暴力被害をいかに予防できるか話しているところ。
女性たちの意見は、自治体・警察に伝えられ、新たな警察署の設置、パトロールの強化につながりました。
難民キャンプ内の女性エンパワーメント・センターにてプロジェクトの関係者
難民キャンプ内の女性エンパワーメント・センターにてプロジェクトの関係者と。
保育所もあるので、女性たちが子どもを連れてきてミーティングをしたり、
収入向上のための職業訓練を受けることができます。
カウンセラーが常駐しているので、家庭内暴力や子どもの教育などの相談をすることもできます。

国連女性機関のプロジェクトを通して、自分の意見をしっかり持ち、社会でリーダーシップを発揮する難民女性たちを見ている中で、私の最近の問題意識は、日本の女性たちに向かっています。世界の流れとして、女性が組織のトップに就くこと、責任ある立場につくことが当たり前となってきていますが、一方で、世界経済フォーラムが発行するジェンダーに関する報告書で日本は世界146か国中116位にランキングされているように、女性の社会進出という観点から、遅れをとっているように感じることもあります。今後は、この国連の専門機関で働いた経験を日本社会でも活かしていきたいというのが私の目標でもあります。

国連女性機関 ケニア事務所
中野美緒

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