コラム 海外を目指す学生たちのリアル

青山学院高等部(自主団体ブルーペコのみなさん)

自分にできることは何か。世界を見て考えたことを、未来につなげていく。

「循環のない支援は支援じゃない」「本当の支援って何だろう?」 ―東京都渋谷区にある青山学院高等部の一角で、熱い議論がくりかえされています。2015年に文部科学省が推進する「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」(※1)の認定も受けている同校。そこには、教師や保護者の指示ではなく、自ら世界の社会問題に挑む高校生たちの姿がありました。経験豊富なNGOスタッフも驚かせるという彼らの原動力はどこにあるのでしょうか…?
最終回は、高校生のみなさんの将来の夢と、それを支える先生たちの目標について教えていただきます。

(※1)世界で活躍するグローバル・リーダーの育成を目指す高等学校を文科省が認定する制度。

海外でも日本でもやれることはある。未来の可能性が大きく広がった。

みなさんの将来の夢を教えてください。

高校2年生 Oさん
日本国内から色々と発信できるような仕事をしたいと考えるようになりました。というのも、東ティモールに行ってから私自身もそうですが、周りの人たちの認識も変わったような気がしています。日本では引っ込み思案の私が、現地の人や子どもたちとはすぐに打ち解けることができた。家族や周りの人たちも、最初は「本当にそんなところに行って大丈夫なの?」と不安そうだったけど、帰国後にお土産のコーヒーを渡したら「すごく美味しい!」と喜んでくれて、東ティモールに明るいイメージを持ってくれるようになった。それがすごく嬉しかったんです。私の経験を伝えることで、周囲のイメージをいい方向に変えることができるんだ、と。たとえばライターなど「人へ伝える」ことができる仕事をしてみたいな、と最近は思っています。

高校2年生 Kさん
私は、他の国を見たことで「日本はどうなんだろう?」って改めて考えるようになりました。日本でも6人に1人が貧困だと言われている。でも日本人は苦しい部分を人に見せないし、SOSの声をあげづらい空気もあります。それを変えたいけど、今はまだその方法が分からない。だから、もっと色々な国を見て視野を広げ、自分ができることを探していきたいと思っています。

高校2年生 Hさん
私は、小学校の先生になることが夢です。ブルーペコでの活動は夢とは関係なく始めましたが、世界に出て現地の子どもたちと触れ合っていくことで、子どもの教育についてより深く考えるようになりました。私がもし先生になったら、ただ暗記させてテストで正解を書かせるだけの授業はしたくない。たとえば差別問題について話すとしたら、その事実だけではなく、なぜそういうことが起きるのかという背景も伝えて、「差別をなくすにはどうしたらいいか」ということまで一緒に考えたい。それができる先生になりたいです。

ブルーペコでの活動により、将来のビジョンも明確に。より地に足をつけて考えられるようになった。
ブルーペコでの活動により、将来のビジョンも明確に。より地に足をつけて考えられるようになった。

高校2年生 Sさん
将来は、やはり国際協力の仕事をして、現地で働きたいという想いが強くなっています。でもそのためには自分だけの「強み」が必要だと思います。どの方向からアプローチするかは考え中ですが、東ティモールに行って「支援のあり方」をすごく考えさせられたので、今は一つの場所に留まるのではなく、様々な角度から世界を見て学んでいきたいと思っています。

高校3年生 Yさん
私は大学で国際情勢などの専門分野を学ぶ予定です。フィリピンやミャンマー、東ティモールに共通して感じる助け合いの精神や、ゆったりとした時間の流れ。しかしその情景は、急激な経済発展の裏で失われてしまうこともあるとわかりました。私の今後のテーマは、いかに「守られるべきもの」を守りながら支援をするか、ということです。将来の職業はまだ決めていませんが、大学でのフィールドワークや現地調査を通して、コミュニティや文化を崩さない支援のあり方を追及していきたいと考えています。

青学高等部は、チャンスをくれて、可能性を引き出してくれる場所。

JICA職員として活躍中の、青学高等部OBの土本さん。高校生たちの活躍を見て、どう思った?

土本さん
私も青学高等部の出身ですが、自分の学生時代よりずっとしっかりしているので、頼もしく見ています。私の高校時代はサッカー一色だったので、皆さんのように自らアクションを起こすというようなことは全くしていませんでした。でも、子どもの頃から旅行で途上国を訪れる機会があったので、貧困に苦しんでいる国があること、それを支援する仕事があることは知っていた。小学校の卒業文集には「国連で働きたい」って書いたりもしました。国連が何をする場所かはよく知らないのに、名前だけは知っていたんですね(笑)。中高でもその想いは途絶えなかったので、大学から本格的に国際協力に関する勉強を始めました。

自分の学生時代について振り返る土本さん。
自分の学生時代について振り返る土本さん。
高校時代で思い出に残っていることはある?

土本さん
高校2年生の夏に膝の手術をして、10ヵ月間くらいサッカーができなかった時期がありました。そこでようやく、自分の将来について考え始めたんです。ちょうど当時の担任が、JICA海外協力隊でケニアに行ったことがある先生だったので、相談に乗ってもらいながら、進路としてJICAを視野に入れつつ進学先を決めました。大学では「教育学」と「開発学」の2つの分野を専攻していました。

その頃に学んだことで、今の仕事に活かされていることはある?

土本さん
青学は生徒の興味の芽を見つけ、育む環境が整っています。SGHとしての取り組みもそうですが、生徒が「こういう活動をしたい」と言えば、支えてくれる先生がたくさんいる。ミッションスクールなので毎日礼拝の時間があるのですが、そこでは周りの先生やクラスメイトが心を砕いて話をしてくれます。今考えるとそういった自分の価値観に影響を与えてくれる機会が多くあったと感じています。社会に出るとなかなかそういう機会はないので貴重な時間だったなと思います。

今JICAで中高生含む若手人材の養成に関わる仕事をしていて、「種をまくこと」がとても重要だと感じています。国際協力の仕事について話をする機会はたくさんありますが、関心のない人に語りかけてもなかなか響きません。国際協力に興味を持つ人は、やはり10代のうちに何かしらのきっかけがあります。世界で活躍する人を増やすためにも、そういったきっかけをどれだけ与えてあげられるかが勝負どころでもあるんですよね。青学高等部は、そのチャンスが日常的にたくさんある学校だと思います。

実際に国際協力の現場で働く人も、若い頃の経験やきっかけを指針にして活動している人が多い。
実際に国際協力の現場で働く人も、若い頃の経験やきっかけを指針にして活動している人が多い。

ちょっと背中を押してあげれば、生徒たちは自ら動き出す。

最後に、これから生徒と一緒にやりたいことや目標について教えて!

藤井先生
最近は、「問題を目の当たりにすること」が、すごく大切だと考えています。生徒たちは私たち教師以上に「現地の人たちに何が起きているか」ということに敏感に気付くし、私たちが教えなくても、「知りたい」と思えば自分から動き出します。それは必ずしも海外である必要はなくて、たとえば日本の子ども食堂や炊き出しの現場でも、教育支援や格差の問題は浮き彫りになっています。東ティモールで農家が抱えている問題と、日本の家族で起こっている問題は実はすごく似ているんですね。そうした現状を実際に見てもらうことで、生徒が自ら知識を獲得していくという教育モデルを組んでみたいと思っています。

途上国での経験を通し、当たり前となっている物事も改めて見直すようになって欲しいと語る藤井先生。
途上国での経験を通し、当たり前となっている物事も改めて見直すようになって欲しいと語る藤井先生。

高校3年生 Yさん
私たちとしても、先生たちの姿勢はすごくありがたいです。グローバルな人材になりなさい、と押し付けられるのではなく、「ここで一歩を踏み出したら世界が広がるよ」って、優しく背中を押してくれる。だから、こっちもやらされている感じは全くないです。それぞれの「やってみたい」という気持ちに従って動いているので、とても居心地がいいですね。

藤井先生
ここで学んだことが、すぐにキャリアにつながらなくてもいいと思っています。以前ブルーペコで活動していた卒業生は、「将来どこで仕事をするかはわからないけど、収奪をするような企業では絶対に働かない」と言っていました。自分が働く企業や組織がどこに向かっているのか、そこに労働力を費やす意味があるのか、ということを見極める意識が既にできているのだと思います。この子たちが今学んでいることは、今後の人生においてとても大切な気付きを与えてくれるはずです。

※文中の学年表記は2020年2月現在のものです。

プロフィール

青山学院高等部

創立145周年を迎える学校法人「青山学院」の高等部。キリスト教信仰のもと、「世界の平和に貢献し、人に仕える心」を持つグローバル・リーダーの育成に力を入れている。2015年からは文部科学省が推進する「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の指定校に認定。フィリピン貧困地域の子どもを支援する訪問プログラムや、フェアトレードについて学ぶ東ティモールスタディツアーなど、さまざまなプログラムを実践している。