コラム 海外を目指す学生たちのリアル

名城大学附属高等学校 国際クラス

SDGs、多文化共生、格差問題…高校生になって、一気に世界が広がった。

愛知県名古屋市にある「名城大学附属高等学校(以下、名城高校)」に、SDGs達成に向けた支援活動を行う高校生たちがいます。一人は、ケニアの女の子に手づくりの「布ナプキン」を届ける活動をする岩佐麻椰(いわさ・まや)さん。もう一人は、途上国の起業家を支援するマイクロファイナンス(※貧困からの脱出を目的とした金融サービス)サイトの翻訳ボランティアを手がける大塚彩矢(おおつか・さや)さん。二人がタッグを組み、「女性の生涯に寄り添える支援」に取り組んでいます。
第1回は、名城高校に入学を決めた理由、学校のカリキュラムについてお話を聞きました。

自分自身でテーマを決めて、研究を進めるカリキュラムに惹かれた。

どうして名城高校の国際クラスに進学を決めたの?

大塚さん
私は幼少期に2年間アメリカに住んでいた時期があって、家族で海外に行く機会も多くありました。そこで自然と英語が好きになり、「将来は海外で働きたい」と考えるようになって。高校受験では、英語をしっかり学べる学校を探しました。その中でも、名城高校の教育方針は、他の高校とは一味違っていました。何より魅力を感じたのは「課題探究」。2年かけて自分の研究を進め、卒業論文を書き上げる授業です。海外研修や英語教育を強みとする学校は他にもあったけど、自分でテーマを決めて、それをじっくり深掘りできる学校は、ここだけでした。

岩佐さん
私も旅行が好きな家族の影響で、幼い頃から海外を身近に感じていました。ホストファミリーとして、ドイツの高校生を自宅に迎えたこともあります。そんな環境だったので「もっと海外の文化を知りたい」、「高校は国際系のコースに進みたい」と考えるようになりました。色々な学校を調べましたが、一番惹かれたのが名城高校でした。海外研修も単なる語学学習ではなく、自分で見つけた課題に対して実施調査をする。受け身で教わるだけでなく、自ら動いて学べる環境に惹かれました。

海外研修時の一枚。(左:岩佐さん、右:大塚さん)
海外研修時の一枚。(左:岩佐さん、右:大塚さん)

私たちは世界で起こっていることを、もっと学ばなければならない。

「海外で働きたい」「文化に触れたい」という憧れが、「世界の社会問題に取り組みたい」という熱意に変わったのは、なぜ?

大塚さん
私は、高校での授業や「グローバルサロン」の講義を受けて、初めて多文化共生という考え方やSDGs、世界で起きている問題を知りました。それまでも、旅行先でストリートチルドレンの現状などは目にしていましたが、自分事としては捉えていなかった。今まで見過ごしてきたものに気づき、「もっと世界のことを学ばなければならない」という想いが強くなりました。

岩佐さん
私も「グローバルサロン」がきっかけです。また、すでにそういった場で支援活動をしている高校生がいることを知って、刺激も受けました。「私も何か行動しなければ」と、背中を押されましたね。「まだ高校生だし…」ではなく、「高校生のうちに挑戦することに意味がある」と考えるようになったんです。

二人とも「グローバルサロン」の講義が一番のきっかけだったという。(左:大塚さん、右:岩佐さん)
二人とも「グローバルサロン」の講義が一番のきっかけだったという。(左:大塚さん、右:岩佐さん)
高校に入ってから視野が大きく広がったんだね。先生たちは、どんな指導をしているのかな?

羽石先生
国際クラスでは、スーパーグローバルハイスクール(SGH)指定校として培った教育手法を活かした「課題研究活動」に力を入れています。英語はあくまでも、それぞれの研究を進めるためのツールの一つです。


そして、1年生から徹底して教えるのは「多文化共生」についての考え方です。国際クラスに入りたての生徒たちにとって「多文化」とは、海の向こうの国の文化、というイメージです。でも、本当はそれだけじゃない。あなたのとなりにいる子、前に座っている子…みんな違う文化を持っている。その子たちと一緒に生きていくことも多文化共生なんだよ、という話をします。海外で起きていることは、日本の問題でもある。授業などを通して、くりかえし伝えています。

名城高校でSGHを牽引し、「課題探究」を担当してきた羽石先生。
名城高校でSGHを牽引し、「課題探究」を担当してきた羽石先生。
二人に大きな影響を与えた「グローバルサロン」って、どういうもの?

羽石先生
月1回、土曜日の午前中に、多様な分野の専門家を招いて講義をしてもらう独自の教育プログラムです。これまで元国連事務次長の明石先生をはじめ、大学の研究者、国際機関で活躍されている方、起業家、オリンピック選手、指揮者など、さまざまな方をお呼びしています。みなさん、生徒たちが知らなかった世界を見せてくれて、いつも大きな刺激を与えてくれます。基本は自由参加ですが、国際クラスの生徒はほぼ全員参加していますね。

私たちを見守り、支えてくれる先生の存在。

SDGs目標に基づいた活動に取り組んでいる岩佐さんと大塚さん。二人が動き出したきっかけは?

大塚さん
「SDGs達成に向けて何か行動を起こしたい」と思っていた私ですが、自分のテーマがなかなか決まらず、とても悩みました。興味を持った活動はすでに他の生徒がやっている…そんな私の様子を見ていた先生が、翻訳ボランティアを紹介してくれました。途上国の起業家に融資できるサイト「Kiva」の内容を、日本語に翻訳する活動です。これによって、日本人にとっても融資がしやすくなります。得意な英語を活かせることもあり、「これだ!」と思いました。

迷っていた際、先生と話し合ったことで自分のテーマを絞り込めたという大塚さん。
迷っていた際、先生と話し合ったことで自分のテーマを絞り込めたという大塚さん。

羽石先生
私たち教師は、生徒のやりたいことをサポートするためにとことん話をします。2年生からはゼミが始まって少人数になるので、より一人一人と話す時間を持つようにしているんです。大塚さんは、海外や英語教育に興味を持っていましたが、「なぜ英語を使えるようになりたいの?」というところから話して、一緒にテーマを突き詰めていきました。

岩佐さん
私は、「アフリカには、生理中に学校に行くことができない女の子もいる」という現状を知って、衝撃を受けました。高額な生理用品を買うことができず、登校ができないのだと。それからずっと気になっていましたが、ある日のグローバルサロンに、まさにその問題に取り組んでいる方が来てくれたんです。手づくりの布ナプキンをケニアに送り続けているMusic ActivistのShihoさん。彼女からケニアの現状や活動の内容を聞いて、「私もやってみよう!」と思い立ちました。

羽石先生
グローバルサロンはテーマを固定化していないので、今いる生徒が興味を持ちそうな方にお声がけすることもあります。このときは、課題探究で「研究だけじゃなく自分たちで活動もしたい」という岩佐さんたちを見て、彼女たちのテーマが深まり、活動のきっかけとなるような方をお呼びしたんですね。


私たち教師の目標は、「地球に生きる一市民として、自立できる人材を育てる」こと。生徒たちがそういうマインドと力を身につけられるように、しっかりサポートしていきたいと考えています。

文化祭などの学内行事でも、自分たちの活動を積極的に広報している岩佐さんと大塚さん。
文化祭などの学内行事でも、自分たちの活動を積極的に広報している岩佐さんと大塚さん。
次回は、二人が取り組んでいる活動について詳しく紹介するよ!

※本記事の取材は、2020年10月にオンラインにて実施しています。また、新型コロナウイルス感染予防対策としてマスクを着用しています。

プロフィール

名城大学附属高等学校

愛知県名古屋市にある名城大学の附属高校。「知・徳・体の調和する人格の完成」を教育目的の一つに掲げ、設立から90年以上にわたり、東海地区の教育を牽引してきた。平成18年から3期連続して文部科学省が推進する「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定校に認定されており、さらに平成26年には文部科学省が推進する「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の指定校に認定(平成30年まで)。「国際クラス」はSGHとして培った教育手法を活かし、確かな語学力とリアルな国際感覚を身につけた人材の育成に力を入れている。