コラム 海外を目指す学生たちのリアル

トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラムに参加した高校生

24日間の留学生活は、山あり谷あり。でも“またガーナに戻りたい!”

「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム(以下、トビタテ)」は、文部科学省が2014年より推進している留学支援制度です。世界で活躍できる人材の育成を目指し、返済不要の奨学金、充実した研修などの手厚いサポートを行い、意欲ある高校生・大学生を世界各国へ送り出しています。今回ご紹介するのは、トビタテ第4期生として、2018年にアフリカ・ガーナ共和国へ渡った坪井詩綺(つぼい・しき)さん。小学生の頃から児童労働問題に強い関心を抱き、「いつかガーナに行きたい」という夢を持っていたそうです。
連載2回目はガーナでの活動について、くわしく教えてもらいます!

ワクワクした気持ちから一転。毎日「帰りたい」と涙した1週間。

「トビタテ留学!JAPAN」の選考に見事合格し、念願のガーナへ行けることになった坪井さん。現地ではどんな活動をしたのかな?

実際に行ってみて、どうだった?

坪井さん
実は最初の1週間は泣いてばかりだったんです…。あんなにも望んだ留学だったのに、母に「帰りたい」と、毎日メッセージを送っていました。原因は、仲間とのコミュニケーションがうまくいかなかったこと。一緒にボランティアに参加した仲間は、全員がヨーロッパの高校生で英語がとても達者でした。私はまったく会話についていけないんです。話すべき場面もたくさんありましたが、うまく言葉が出てこなくて。だんだん周囲と話さなくなっていきましたね。

坪井さんのお母さん
あんなに行きたがっていたガーナだったのに、毎日帰りたい、というメッセージが届くので驚きました。でも日本にいる私ではどうすることもできないので…。娘のことを想うと、つらかったです。

うまく自分の気持ちが出せず、ふさぎ込んでしまっていたという坪井さん。
うまく自分の気持ちが出せず、ふさぎ込んでしまっていたという坪井さん。

坪井さん
一番つらかったのは、ルームメイトの2人がフランス語で話し始めてしまったこと。そうなってしまうと、もうコミュニケーションはお手上げです。3人部屋だったので私だけが会話に入れず、ポツンとしていました。基本的に人見知りをしないタイプなので、日本では経験したことのない孤独でした。

坪井さんのお母さん
ちょっとやそっとのことではへこたれない子なので、「相当つらいんだろうな」と思いましたね。

坪井さん
でも支えてくれる人もいました。現地でホームステイをしていたホストファミリーには、たくさんの子どもがいたんです。中でもフローレンスという同年代の女の子とは特に仲良しになりました。彼女は別の家で生まれ育ちましたが、養育費がないという理由で3年前にこのホストファミリーに引き取られて暮らすようになったそうです。そんなフローレンスが、周囲とうまくコミュニケーションが取れず落ち込む私に「シキはそのままでいいんだよ」って言って、元気づけてくれて。彼女の存在が、私の心の拠りどころでしたね。

その後、どうやって乗り越えたの?

坪井さん
転機はガーナに着いて8日目に訪れました。週末はボランティアはお休みで、現地を観光することが多いのですが、その日はガーナの負の遺産といわれるケープ・コースト城に行く予定でした。昔、奴隷貿易の拠点となっていたお城で、世界遺産にも登録されています。実際に奴隷が収容されていた部屋に入ることもでき、真っ暗闇の中で緊迫した空気感を鮮明に感じることができます。とても楽しみではあったのですが、ボランティア仲間と一日中過ごさなくてはなりません。みんなは盛り上がっているけど、その輪に入れない。ケープ・コースト城を出た後も、仲間とのコミュニケーションは一向に上手くいきませんでした。そして遂に夕食のときに泣いちゃったんですよ(笑)。みんなびっくりしていました。「なんで?」「シキ、いきなりどうしたの?」って感じで。現地のアドバイザーの方にも心配をかけてしまいました。でも、そのことで逆にふっ切れたんです。「どうせなら、いろいろチャレンジしてやろう!」って。

このときの涙をきっかけに、気持ちも前に向くようになったそう。
このときの涙をきっかけに、気持ちも前に向くようになったそう。

思いっきり泣いて、気持ちが切り替わった!

気持ちを切り替えたことで、変化はあった?

坪井さん
それまでは「会話ができないから下手に話さないようにしよう」と、おとなしくしてたんですね。でも、「これからは伝わらなくても、とにかく話しかけよう!」と決めたんです。そうしたら、だんだん言いたいことが言えるようになってきて、それなりに相手にも伝わるようになってきました。気分も上がって、これならあきらめていた「うちわ作り」ができるんじゃないか、という希望も見えてきました。

子どもたちとの「うちわ作り」。みんなに協力してもらって、大成功!

「うちわ作り」って、どういうことをしたの?

坪井さん
トビタテでは、海外に日本の文化を伝える「アンバサダー活動」をするんです。そこで私が考えたのは、現地の子どもたちと一緒に「うちわ」を作ることでした。ガーナの気候は温暖なので、私が帰った後でも使い続けてもらうことができる。うちわの骨組み80本と、和紙や染料、のりを日本で準備して持って行きました。かなりの大荷物でしたね(笑)。気持ちが落ち込んでいたころは「絶対うちわなんて作れない」と思っていました。ボランティア仲間とも意思疎通が取れないから、「一緒にやってくれる?」と頼むこともできないし…。でも8日目の大号泣を経て、自分の気持ちを伝えられるようになってきたので、思い切ってお願いしてみたんです。「子どもたちと“うちわ”をつくりたいので協力して欲しい」と。そうしたら、みんな「やろう!」って言ってくれました。すごく嬉しかったです。勇気を出して気持ちを伝えて良かった!と思いました。

現地の子どもたちと取り組む様子。
現地の子どもたちと取り組む様子。
どんな風に進めたの?

坪井さん
ボランティア仲間に事前に作り方を教えることから始めましたが、そもそも「うちわ」がどんなものかを説明することが難しかったですね。途中で失敗してしまった人もいたので「やっぱり子どもたちに教えるのは難しいかな…」と、あきらめかけましたが、みんなが「きっとできるから、やろう!」って励ましてくれて。そのおかげもあって、本番では無事に成功させることができました。「日本文化と、ガーナの子どもたちのオリジナリティを掛け合わせる」ということもテーマにしていたので、子どもたちにはうちわに好きな色をつけてもらいました。みんなに協力してもらえたこと、子どもたちにうちわ作りを楽しんでもらえたことが自信になり、どんどん前向きになっていきました。

坪井さんのお母さん
あんなに「帰りたい」と毎日メッセージがきていたのに、帰国してからの第一声が「またガーナに戻りたい!」だったんですよ。びっくりしました。私の知らないことをたくさん経験してきたんだろうな、と頼もしく思いましたね。

ボランティア仲間ももちろん、現地の子どもたちともすっかり打ち解けた様子の坪井さん。
ボランティア仲間ももちろん、現地の子どもたちともすっかり打ち解けた様子の坪井さん。

留学生活を象徴する2つのブレスレット。

他にはどんな活動をしたの?

坪井さん
小学校では、子どもたちに本を読んであげたり、折り紙を教えたりしました。小学校に通っている子には、英語が上手な子も多かったので、私の発音を笑われちゃったこともあります(笑)。仲間とのコミュニケーションに悩んでいた時も、子どもたちと遊ぶのはとても楽しかったです。平日の午後は、近隣の建設中の小学校の修繕なども手伝いました。

そして、留学の目的だった「児童労働」の現場も至るところで目にしました。カカオ農園で働く子どもも多いのですが、私がいた街では特にマーケットで働く子どもが多かったです。学校には行かず、家族と一緒にアクセサリーなどを売っています。6歳くらいの女の子が働いている姿を実際に見たことがあるのですが、笑顔も少なく、英語でのコミュニケーションもほぼ出来ない様子。私はそれまで学校に通っている子どもたちとしか触れ合っていなかったので、働いている子どもとの語学力の差をそこで初めて痛感しました。綺麗に並んだ商品の前で静かに立っていた彼女から、私はブレスレットを買いました。値段は日本円で100円もしません。でも、解決しなければならないさまざまな問題をはらんでいるブレスレットです。さらにもう一つ、私の手元には違うブレスレットがあります。これは、小学校で仲良くなった子が「I want be your good friend.(あなたといい友だちになりたい)」というメッセージと共にプレゼントしてくれたもの。周囲となじめず落ちこんでいたときだったので、このブレスレットにはすごく救われました。どちらも、私のガーナでの留学生活を象徴する宝物になっています。

次回は、トビタテ留学に参加して変わったこと、後輩への応援メッセージを紹介するよ!
次回は、トビタテ留学に参加して変わったこと、後輩への応援メッセージを紹介するよ!

プロフィール

文部科学省 トビタテ!留学JAPAN

文部科学省 トビタテ!留学JAPAN
世界で活躍できるグローバル人材を育成するため、大学生・高校生の海外留学者倍増を目指す留学促進キャンペーン。フラッグシップとして2014年よりスタートしたのが、文部科学省と独立行政法人日本学生支援機構による海外留学支援制度「日本代表プログラム」。留学内容や渡航先は、学生が自ら計画する。100%民間寄附を原資とする返済不要の奨学金、充実した事前事後研修の実施など、手厚いサポートを官民協働で実施し、若者の海外チャレンジを後押ししている。

WEB https://tobitate.mext.go.jp/