第96号 PARTNERコラム国際協力キャリアと健康管理

昨年度よりキャリア相談員を務めているJICA人事部 健康管理室の大野です。国際協力のキャリアには、コミュニケーション力、総合マネジメント力、各種専門知識の研鑽が重要ですが、時にそれ以上に大きくキャリアに影響するのが「健康」と「家族の事情」だと感じてきたので、2回に分けて、健康管理とワークライフバランスについてお話しさせていただきます。

今回は健康管理についてです。開発途上国で国際協力に従事するとは、母国から遠く離れ、気候、風土、医療事情が大きく異なる場所で暮らし、働くことです。心身共に健康が求められるため、JICA案件では、派遣前に必ず健康診断を受けることになっています。 ( 健康・安全について
持病を抱える方の派遣については、日本と異なる医療事情下で体調管理を継続できるか、主治医のご判断を尊重しつつも、派遣国の諸事情を踏まえて慎重に判断されます。

アジアの大都市など先進国水準の医療機関も増えていますが、医療は国毎に異なるため、日本と同じ治療法や薬が継続できるとは限りません。また、高額な治療費をまず自己負担した上で保険請求することになるのですが、海外旅行保険で既往症はカバーされず、健康保険の海外療養費制度も日本での保険診療相当額しか給付されません。

そして、多くの開発途上地域では、日本であれば普通に治療と回復が期待できる病気や怪我であっても、致命的になったり、後遺症が残るリスクを抱える医療しか受けられないのです。緊急搬送サービス契約をしていても、日本で救急車を呼ぶように、患者やその家族が連絡すれば数時間で病院に搬送される、ということではありません。現地の治療担当医師と緊急搬送サービス会社の医師とのメディカルコンタクトを経て、搬送先の調整と搬送手段や同行者の手配が始まり、チャーター機利用の場合には、経由地も含めた離発着許可が必要なので、搬送開始までに数日はかかります。コロナ禍ではチャーター機の逼迫と各国の出入国制限強化で、1週間以上かかることさえ生じました。その間は現地の病院で治療を受けながら、状態の悪化を防ぐしかできないので、本人の体力次第となってしまうのが現実です。

こうした事情を理解の上、自身の健康管理意識を高めておくことが国際協力人材には必要です。現地の医療事情を把握しておく、ワクチン接種や予防薬の服薬で予防可能な病気は予防を怠らない、ワクチン接種記録は確実に保管する、定期的に歯科も含めて検診を受け必要な治療や自己管理をしておく、体温計や常備薬、自身の検診結果の携行を忘れないなど。その他、治安や衛生面から外食先が限られたり、保冷事情や地理条件、宗教制約などで食材の選択肢が少ない環境であっても、バランスの取れた食事を工夫できる自炊力も大切でしょう。また、日本での生活に比べ、行動範囲や人間関係が限られることが多いので、不自由な中でも上手く健康的にストレスをかわす気晴らし方法や、不調や不安を感じた時に、一人で抱えず早めに相談する習慣を持ちたいものです。

開発途上国のどこの現場でも、いつでも健康に、重要な仕事で活躍できるよう、国際協力キャリアの経験を重ねる中での健康管理への心配りも忘れないでいただきたいと願っています。

最後に、新型コロナウイルス感染症対応を担った前JICA健康管理室副室長の言葉を引用させていただきます。
「どんなに注意し、本人に落ち度がなくても病気になったり、けがをすることはある。せめて、傷病の予防を徹底し、体調に異変を感じたら無理をせずに早めの対応をしたい。当たり前すぎることだが、実は忘れがちである。国際協力に従事する私たちが、世界の平和と繁栄を実現しようとするなら、自身の健康を自ら管理し、命を守る最善の行動を取ることが、その価値ある仕事の大前提である。」
(国際開発ジャーナル2022年10月号「健康危機管理の前線に立って」より)

参考:
JICA海外協力隊機関誌「クロスロード」の「派遣国の病気・ケガ対策」特集
クロスロード 2022年8月号 | パンフレット | JICA海外協力隊

※厚生労働省検疫所FORTH(海外の感染症の流行状況や予防方法などの情報サイト)
https://www.forth.go.jp/index.html

JICA人事部 健康管理室
大野ゆかり

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