第97号 PARTNERコラム国際協力キャリアとワークライフバランス

昨年度よりキャリア相談員を務めているJICA人事部 健康管理室の大野です。前回の「健康管理」に続き、今回はワークライフバランスについてお話しさせていただきます。

国際協力キャリアを目指していても、途上国勤務や頻繁な出張を伴う働き方に悩むことがあります。理由の多くは家族の事情。遠距離の別居から、育児、親の介護まで、世代や性別にかかわらず起こり得ることですが、働く場所や働き方に制約を受け、積み重ねてきた経験をこの先も生かして働けるのか、と悩みを抱えるのは女性に多い傾向があります。キャリア相談でも、国内や特定国に限定した業務希望の背景に、育児や家族関連の事情がよくあります。解決策を提示できるわけではありませんが、キャリアをあきらめたり、焦ったりする必要はないとお伝えしています。

国際協力への関わり方は多様にあり、流動性の高い業界なので、しばらく離れた後にまた戻って遜色なく働かれている方々は沢山います。また、母子のみ赴任、父子を残して母が単身赴任、母の赴任先に父子が随伴、子どもだけ日本に残る、第3国に留学する、祖父母を私費随伴する、など、様々な形で共働きと育児を両立させている方々が増えています。

もちろん、決して簡単なことではありません。途上国での子育ては日本より楽、と言われたりしますが、それは、生活環境が整い、家族みんなが健康に適応できてこそです。渡航前の準備から、言葉や習慣の異なる異国での生活立ち上げ、帰国後の再適応まで、子どもの養育や教育関係の対応も含め、相当な負担があるものです。現地でしか得られない経験がある一方で、日本を離れることで失う経験もあります。経験者からの話は参考になりますが、赴任先や時期、家族構成次第で状況が大きく異なるため、ご自身で調べること、準備すること、検討することが多岐にわたります。家族それぞれの思いを理解し、我慢や負担が偏っていないか、よく話し合うことも大切ですが、実は、それが一番難しかったりもします。

いろいろ考えた結果、途上国の現場業務から離れる判断をすることもあるでしょう。けれども、それで国際協力のキャリアが閉ざされたと感じる必要はないと思います。後方支援的な業務や多文化共生など、国内での国際協力に携わったり、関連スキルを他業界で磨いたりすることができると思います。育児に専念したり、仕事をセーブする時期でも、行政サービスの受益者や保護者会など住民組織の当事者となることで新たな気づきがあったり、仕事上の関係とは異なる人間関係の中で得られる学びがあります。生活経験がそのまま国際協力のキャリアになることはなくても、開発途上国の社会と多面的に関わる国際協力の仕事において、社会を構成する生活者や育児者の視点は無駄なものにはなりません。

国際協力キャリアの道は一つではなく、回り道をしたり、途中で休んだり、道なき場所を通ったりしながら、それぞれのペースで進めばよいものです。そうした複数のルートから、多様な経験と視点を持った人々が国際協力に携わり、協力の質と内容が豊かになることを願っています。

19年前、JICA専門家(当時)の夫の随伴家族として4歳と6か月の子ども連れで渡航した時。この時の荷物は11個、計189キロでした。
19年前、JICA専門家(当時)の夫の随伴家族として4歳と6か月の子ども連れで渡航した時。
この時の荷物は11個、計189キロでした。

JICA人事部 健康管理室
大野ゆかり

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