コラム 海外を目指す学生たちのリアル

青山学院高等部(自主団体ブルーペコのみなさん)

青山学院高等部で、“世界に心を向ける若者”が育まれる理由。

「循環のない支援は支援じゃない」「本当の支援って何だろう?」 ―東京都渋谷区にある青山学院高等部の一角で、熱い議論がくりかえされています。2015年に文部科学省が推進する「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」(※1)の認定も受けている同校。そこには、教師や保護者の指示ではなく、自ら世界の社会問題に挑む高校生たちの姿がありました。経験豊富なNGOスタッフも驚かせるという彼らの原動力はどこにあるのでしょうか…?第1回目は、「グローバルな視野」と「人に仕える心」を育む、同校の取り組みについてお話を聞きました。

(※1)世界で活躍するグローバル・リーダーの育成を目指す高等学校を文科省が認定する制度。

「平和・共生」をテーマとした教育が、世界への入り口を開く。

「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」に指定されている青山学院高等部。(2019年度現在)。国際交流が盛んなイメージがあるけど、どうしてなの?

藤井先生
青山学院は約145年の歴史があるミッションスクール(キリスト教主義学校)であり、「世界の平和に貢献できる人間を育てる」ことを目指しています。皆さんも知っているように、世界にはさまざまな人種、さまざまな価値観が存在します。そうした国や文化の違いを超え、困難に直面している人たちの下支えをしながら、リーダーシップを取れる人間を育てたいと考えています。そのためには、多様性を受け入れる力、グローバルな視野を持つことが必要ですよね。だから青学では、語学教育や国際交流に力を入れてきました。

そんな背景があるから、うちの生徒は昔から、世界に目を向けている子が多くいます。文科省がSGHの制度をスタートさせたときも、「指定校になって可能性が広がれば、この子たちはもっと成長するだろう」と思っていました。また、国際交流だけでなく、地域の社会活動やボランティアなど、他のいろいろなことにチャレンジしている生徒たちもいます。これまで各々でやっていた活動を、SGHを通して繋げることができれば、もっと面白くなりそうだと考えたんです。認定を受けることは簡単ではなかったですが、学校として挑戦することに決めました。

英語科専任教諭の藤井 徹也先生。青山学院高等部で30年以上の経験を持つベテランだ。
英語科専任教諭の藤井 徹也先生。青山学院高等部で30年以上の経験を持つベテランだ。
具体的にはどんなプログラムをやっているの?

藤井先生
たとえば「フィリピン訪問プログラム」では、毎年希望者を募って、フィリピンの貧困地域を訪問しています。支援施設を運営するNGOの仕事を手伝いながら、現地の子どもたちと交流するという内容です。あとは、「東ティモールスタディツアー」ですね。
ここでは、東ティモールの主要産業であるコーヒー豆農家を訪ね、収穫や栽培、焙煎などを体験させてもらっています。フェアトレードや紛争の歴史について知ることが目的です。

その他、英国リーススクール・イートン校、イタリアのレニャーニ校など、海外提携校との交換留学プログラムもあります。いろいろな取り組みがありますが、僕たち教師が「ここで、これをやりなさい」と指示をすることはほとんどないですね。生徒たちが、それぞれ興味を持った分野を自分で勉強して、課題を持って現地に飛んでいます。きっかけさえ与えれば、その後は自分の力で自由に動き出す。それが青学の生徒の特徴でもありますね。

経験豊富なNGOスタッフも驚く、高校生たちのアイデアと行動力!

高校生のみなさんは、どんな課題を持って活動しているの?

藤井先生
たとえば、さっきの「東ティモールスタディツアー」は、もともと生徒からの発案でスタートしたプログラムでしたね。数年前、生徒の自主団体「ブルーペコ」が、文化祭で東ティモールのフェアトレードコーヒーを販売。それをきっかけにブルーペコに所属する男子生徒から声が挙がったんです。「現地に行って、直接話を聞きたい!」と。それで、東ティモールを支援するNGOの協力を得て、スタディツアーを始めることになりました。今では、生徒が各々で課題を見つけ、目的を持って東ティモールに行っています。最近では、「手作りカルタ」を持って行ったよね。

藤井先生は自主団体「ブルーペコ」の顧問でもある。
藤井先生は自主団体「ブルーペコ」の顧問でもある。

高校3年生 Yさん
そうですね、カルタを持って行きました。今、東ティモールでは満足に教育を受けられないので、読み書きができない子どもが多いんです。コーヒー豆の生産量が思うように増えないのは、識字率が低いことに原因があるかもしれないと考えました。カルタなら気軽に文字に親しめるし、言葉を学ぶチャンスを増やすことができる。東ティモールの公用語「テトゥン語」と、日本語と英語で文字を書き、絵を入れたオリジナルのカルタで、現地の子どもたちと遊びました。

藤井先生
この手作りカルタには、日本のNGOの人もすごく関心していましたね。この子たちのアイデアや行動力にはNGOスタッフも興味津々なんです。「次は何をやりだすのか」って。だから、あちこち連れて行ってくれるし、幅広い経験をさせてくれる。生徒たちとNGOのやりとりを見ていると、すごく面白いですよ。去年参加した生徒は、「福笑い」を持って行ったよね。日本の福笑いでは違和感があるかもしれないと、現地の子の写真を見ながら自分たちで顔を描いて…。そのときもNGOの人たちが「今度は福笑いだ!(笑)」って、面白がっていました。

カルタ、福笑いで遊んでいる様子。現地の子どもたちも楽しそうだ。
カルタ、福笑いで遊んでいる様子。現地の子どもたちも楽しそうだ。

藤井先生
2002年に独立したばかりの東ティモールは、今すごいスピードで変化していて、毎年違った問題が起こっているんですよ。昨年参加した生徒と、今年参加した生徒では、目にするものも違います。だから考える課題も毎回変わる。見守る方としても、本当に興味深い。学校側としては、「SGH認定校として相応しいプログラムを」とか、あれこれ考えたりもしましたが、生徒たちに任せて、自由な発想でどんどんやらせた方が、結果的に良かったなと感じています。

高校3年生 Yさん
つい先日も、子どもの権利や国際協力について考えるイベントに、ブルーペコとしてブース出展したんです。そのときに、同じような活動をしている他校の高校生と出会って、話が盛り上がって。今度、その高校と交流会をやることになりました。そういうことも、私たちが勝手に決めちゃいます(笑)。

自主団体「ブルーペコ」のみなさん。入学後に初めてブルーペコの活動を知った人も、ブルーペコに憧れて青学を選んだ人もいる。
自主団体「ブルーペコ」のみなさん。入学後に初めてブルーペコの活動を知った人も、ブルーペコに憧れて青学を選んだ人もいる。

周囲を引き込む魅力を持つ、自主団体「ブルーペコ」の存在。

東ティモールのスタディツアーを立ち上げた「ブルーペコ」って、どんな団体なの?

藤井先生
難民支援や環境問題などをみんなで考える、部活のような、サークルのような団体です。10年以上前の英語の授業で、ルワンダの難民問題を取り上げたことをきっかけに、「自分たちもルワンダに何か支援ができないか」と考えた生徒たちが呼びかけ合って、着なくなったセーターなどを集めてプレゼントしました。それが、ブルーペコとしての活動の最初の一歩でしたね。

高校3年生 Yさん
青学では年に2回、グローバルウィークというイベントをやっていますが、そこは私たちブルーペコの活動を知ってもらえる大チャンス。
フィリピンや東ティモールでの活動報告をしたり、外部の方を呼んでセミナーを開催したりしています。
興味のない人にも、まずは「東ティモールという国がある」ということを知ってもらうことが大切だと思っているので、そのためのいい機会になっていますね。

高校2年生 Hさん
グローバルウィークでは、東ティモールのコーヒーの試飲会もやっています。ただコーヒーを飲んでもらうだけですが、勉強会みたいな堅苦しい感じではないから、SGHのプログラムや国際交流に関心のない子たちでも、興味を持ってもらいやすいんです。今年の新入生の中には、「ブルーペコに入りたいから青学に来ました!」なんて子もいたので、「責任重大だ!」って焦っちゃいましたね(笑)。

さまざまな志向を持つ生徒が、自分たちのやり方で自由に活動しているそうだ。
さまざまな志向を持つ生徒が、自分たちのやり方で自由に活動しているそうだ。
次回は、ブルーペコのみなさんがそれぞれの活動を通して考えたこと、変わったことを聞いてみるよ。

※文中の学年表記は2020年2月時点のものです。

プロフィール

青山学院高等部

創立145周年を迎える学校法人「青山学院」の高等部。キリスト教信仰のもと、「世界の平和に貢献し、人に仕える心」を持つグローバル・リーダーの育成に力を入れている。2015年からは文部科学省が推進する「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の指定校に認定。フィリピン貧困地域の子どもを支援する訪問プログラムや、フェアトレードについて学ぶ東ティモールスタディツアーなど、さまざまなプログラムを実践している。