コラム 海外を目指す学生たちのリアル

ネパール交流市民の会×駒ヶ根市内の中高生 「中学生ネパール派遣事業からの広がり」

中学生から参加できる“民際交流“。
長野県駒ヶ根市から発信する、市民レベルの交流とは?

JICAが派遣する海外協力隊の訓練施設がある長野県駒ヶ根市。友好都市協定を結ぶネパール・ポカラ市との交流がさかんで、
駒ヶ根市が主催する「中学生ネパール派遣事業」もその活動のひとつです。今回ご紹介するのは、「ネパール交流市民の会」。
市民レベルでネパールとの友好関係をもっと深めようと設立された団体です。
連載第1回目はその活動内容や、「民際交流会」と呼ばれるイベントについて、プロジェクトマネージャーの北原さんにお話を聞きました!

国と国の交流が「国際」なら、市民と市民の交流は「民際」。

「ネパール交流市民の会」。一体どんな団体なの?

1999年に立ち上がった市民団体です。設立当初から、ネパールのお母さんたちが元気に赤ちゃんを産めるようにサポートする
「母子保健プロジェクト」に取り組んできました。2013年には「母子友好病院」という病院をポカラ市に設立。
2015年にはJICA「草の根技術協力事業」のひとつに選ばれ、JICAの支援を受けながら現在も活動しています。
これは、国と国とで協力して進めている国際的なプロジェクトのひとつ。

もうひとつの活動の柱は、私たちが「民際」と呼んでいる活動です。それは、国境を超えて市民同士で交流したり、協力したりするもの。たとえば、駒ヶ根に住むおばあちゃんたちが丁寧に手作りした「つるし飾り」。それを「母子友好病院」で生まれた赤ちゃんと
そのお母さんたちへプレゼントとして届ける活動をしています。世代を問わず、どんな人でも参加できるのが「民際」。
この「民際交流」には、駒ヶ根市と近隣町村の中学生や高校生も参加して、オトナと一緒に活動しています。

幼稚園教諭として働いていた経験がある北原さん。中高生と取り組む「民際交流」はとにかく楽しいと語る。
参加する中高生はどんな子たち?

駒ヶ根市が行っている「中学生ネパール派遣事業」に参加した子たちが中心です。
これからネパールへ派遣される予定の子や、過去に行った経験のあるOBの子たちも参加しています。
中高生のほかに、他県の大学へ進学し、里帰りのたびに活動へ参加してくれる大学生もいますよ。

具体的にはどんなことをしているの?

年に3回~4回、ワークショップを開催しています。それと「民際交流会」というイベント。年に1回、現地からネパールの方たちが
駒ヶ根を訪問するので、その時期に合わせて「民際交流会」を開催し、訪れた皆さんをおもてなしする文化交流を行っています。
中学生派遣を経験した子たちにとっては、ホストファミリーと再会できる場にもなっていますね。

アイデアを、カタチにしていく面白さ

ワークショップではどんなことをしているの?

オトナと中高生が同じテーブルに集まって、ネパールの人たちとどんな交流ができるか、アイデアを出し合っています。中高生は本当に
頭がやわらかいから、面白いアイデアをどんどん出してくれるんですよね。けれども実現するには力不足のところもある。
その部分を人脈やノウハウを持っているオトナがサポートして、一緒になって実現している感じです。

たとえば「ネパールで食べた『ダルバート』という料理がとても美味しかったから、給食で友だちにも食べてもらいたい!」という企画は、2017年に派遣を経験した中学生からあがったアイデア。実際にJICA駒ヶ根訓練所のネパール語講師が、給食センターの先生に作り方を教え、2018年に市内全校の給食に出されました。私たちは、小さな市民団体のひとつに過ぎませんが、教育委員会も含めた周りの
オトナたちが真剣に子どものアイデアに向き合ってくれたので、実現することができたのだと思います。

ワークショップの様子。数人ずつ班に分かれ、交流促進のために取り組みたいことを自由に話す。

他にも、「山に連れて行ってあげたい」「郷土食を食べさせてあげたい」「和服の着付けを体験させてあげたい」など、
さまざまなアイデアを毎回積み上げています。
一回一回のワークショップはその場で終わりではなく、次へ次へと続いていくイメージです。そして、ワークショップであがった
アイデアを実現する場が「民際交流会」というイベントにつながっています。

駒ヶ根市を訪れたネパールの人たちを「おもてなし」。
その中心にいるのが中学生。

「民際交流会」って、どんなイベント?

2015年に開催したのが第1回目。当時はまだ名前がついていなくて、翌年の2016年から「民際交流会」として、毎年継続して開催して
います。年々参加する人数が増えて、2018年には駒ヶ根市近辺の市民70名が参加してくれるまでに成長しました。

中心になって企画運営するのはネパール派遣に参加した学生たち。「ネパールで優しくしてもらった恩返しがしたい」という共通の
思いをベースに、どんなことをしたらネパールの人たちに喜んでもらえるかを、豊かな発想力で考えています。

2018年の民際交流会の様子。今までネパールと直接の関わりはなかったけれど、興味があって参加したという学生も。

たとえば、書道体験や書道パフォーマンスに、ファッションショー。ネパールの民族衣装や、日本の着物、浴衣を着て、スポットライトを浴びながら赤じゅうたんの上を歩く…といった企画を実際に行いました。市民同士の交流を通じて、さまざまな日本文化、ネパール文化に触れてもらうことができたと思います。

中学生が自らネパールの人たちへ、日本の伝統文化についてレクチャー。

自分たちの自由なアイデアをカタチにしていくことは、学校ではなかなか経験できないことだと思いますし、学生たちにとって貴重な機会になっているはずです。
「あなたの意見を実現させたい」と別の年齢層の人に言われること自体が、学校教育の現場ではそもそも少ないでしょう?
オトナと若い世代が一緒になって作り上げていくというのも、すごく良い方向に働いていると思います。

親御さんにとっても、実際にネパールのホストファミリーに会い、自分の息子や娘を受け入れてくれた人たちに感謝の気持ちを伝えることができて良かったという感想をいただいています。ネパールに行ったことで視野が広がったという学生が、そのきっかけをくれたネパールの人たちに恩返しするこの交流会を通じて、ますます友好の絆が強くなっているように感じますね。

活き活きとした表情で民際交流会について振り返る北原さん。
次回は「中学生ネパール派遣事業」について、よりくわしく教えてもらいます!

プロフィール

北原 照美(きたはら・てるみ)さん
(ネパール交流市民の会)

ネパール交流市民の会/プロジェクトマネージャー 1968年生まれ、駒ヶ根市出身。幼稚園教諭として働きながら、バックパッカーで世界を旅する。途上国で出会った子どもたちの「家族を想う」美しい心に刺激を受け、協力隊に
参加。モルディブ派遣を経験し、ユニセフに勤務。JICA駒ヶ根訓練所・JICAガーナ事務所のスタッフを経て、
2014年より現職。
年間100数日をネパールで過ごし、日本とネパールを行き来しながらプロジェクト活動に取り組む。

WEB https://komagane-pokhara.jimdo.com/