コラム 地球規模で生きる人

白木 夏子(しらき・なつこ)さん(株式会社HASUNA)

ジタバタしていれば、道は拓ける。悩んだときも、とりあえず動いてみよう!

ファッションが大好きで、集団行動はちょっと苦手。外で友だちと遊ぶより洋服やアクセサリーづくりを好んでいた少女は、数年後に日本を飛び出し、27歳でエシカルジュエリーブランド「HASUNA」を立ち上げました。
今回ご紹介するのは、国内エシカルジュエリーのパイオニア、白木夏子さん。日本人のほとんどが知らなかったエシカルジュエリーを国内に広め、世界約10カ国の宝石鉱山労働者や職人と共に、人権や環境に配慮したモノづくりに取り組んでいます。連載最終回は、人と関わることが苦手だった白木さんの転機になった出来事や、これからの目標、ルーキーズ世代に伝えたいことを聞きました!

さまざまな出会いと経験が、徐々に私をオープンにしてくれた。

どんな子ども時代を過ごしていたの?

すごく内向的で、運動会や遠足も「どうやって輪から抜け出そうか」と、そればかり考えていた子ども時代だったよ(笑)。今とは正反対だね。でも高校に入ってから、気持ちが変わっていったんだ。私が通っていた高校は、学園祭や文化祭にすごく力を入れていたから、みんなで協力してやらなければいけないことも多かったの。はじめは単独行動をしていたけれど、「みんなで力を合わせて何かをつくりあげるって大事だな」って、少しずつ思うようになったんだ。留学先での出会いも転機になったよ。ロンドン大学は欧米だけじゃなくイスラエルやドバイなど、宗教も文化も価値観も違う人たちと一緒に学ぶ環境だったから、とにかく話をしないと相手のことが何も分からなかったんだ。必要に迫られてコミュニケーションを取っていくうちに、「人の話を聞くのって、楽しいな」って思うようになって、どんどんオープンな性格に変わっていったよ。

今はたくさんの人と関わりながら仕事をしている白木さん。
今はたくさんの人と関わりながら仕事をしている白木さん。
白木さんの今の仕事のやりがいは、どんなところにあるの?

やりがいは色んな場面で感じるよ!何百万年、何千万年の時を経た原石が、人の手で掘り出され、美しいジュエリーに生まれ変わるのは感動的なこと。たとえば、パキスタンの標高約5,000メートルの場所に鉱山があるんだけど、そこは手つかずの自然が残っているとても美しい場所なの。その鉱山で採れた貴重なアクアマリンやトパーズを地元の人たちが磨いてくれて、その石が日本でデザイナーやプロダクトチームによってジュエリーに仕立てられて、お客様の手元に届くんだ。その一連の流れをつくりだせていることが、今の仕事の喜びかな。関わる人たち全員がハッピーでいてくれることがやりがいにつながるし、嬉しく感じるよ。

貧困の現実を目の当たりにしたことで、社会問題に意識が向いたという白木さん。
関わる人たちが豊かになることも白木さんのやりがいにつながっている。
白木さんの原動力は、どこにあるの?

落ち込むこともあるし、「もういやだ!」と思うこともしょっちゅうあるよ。ただ、何か問題が起こったとしても、「2週間たったら過去のことになっている」と考えて、目の前の課題を乗り越えているよ。空回りでも、とにかくジタバタ動いていると、それが風になって、何かのカタチになっていることも多いから。あとは、自分にご褒美を用意するのもコツかな。私は食べることも大好きだから、「これが終わったら、絶対にここのケーキを食べる!」と決めて、それを目指してがんばったり(笑)。ダメならそのときに考えればOK。やらずに後悔するより、やって失敗した方がいいよね。

世界での活躍を目指すルーキーズ世代に、勉強面でのアドバイスはある?

私は短大時代、とにかく英語力をつけたくて、TOEFLの点数を上げることに力を注いでいたよ。英語のエッセイを毎日1本書いて、ネイティブの先生にチェックしてもらったりもしていたんだ。それでもやっぱり、留学先での授業の英語は聞き取れなかったけど(笑)。前回話したように、わからない授業は要点をクラスメイトに聞いたり、図書館にこもって本をとにかく読み漁ったりしているうちに、だんだん分かるようになってきたんだ。それこそ、ジタバタしていれば、きっと道は拓けていくはずだよ!

これからは、日本の素材を使った、日本発のジュエリーも発信したい。

白木さんの、これからの目標は?

日本のジュエリーブランドとして、日本の素材を使って、日本の職人が手がけるジュエリーをもっとつくりたいと思っているよ。たとえば、愛媛県産の真珠や、九州で採取して地元の職人が研磨したサンゴを使ったジュエリーを今作っているんだけどね。生産を海外の業者さんに頼っていることや人口が減っていることで、日本のジュエリー産業は年々落ち込んできているの。日本にも高い技術と情熱を持っている職人がたくさんいるのに、彼らに正当な対価を支払えていないような現状もある。地域によっては、途上国の職人と同じように苦しい状況に置かれている人たちがいるんだ。そうした状況を改善することが、今の私の目標かな。それと同時に、日本らしい美しさを追及したジュエリーをデザインしていきたい。「日本で手に入る素材でつくる、日本発のジュエリーブランド」を世界に広めていきたいと思っているよ。

貧困の現実を目の当たりにしたことで、社会問題に意識が向いたという白木さん。
「日本で手に入る素材でつくる、日本発のジュエリーブランド」を広めるため、白木さんの挑戦は続く。
すごく素敵だね!白木さん自身が、仕事以外でやりたいことはある?

実は、最近引っ越しをしたんだ。家の裏に山があって、小鳥の声で目が覚めるような、自然に囲まれた場所。若い頃は目標を達成するために都心に住んで、身を削る思いで働いていたから、日々の幸せを実感しながら何かをすることができていなかったんだ。これからは「人は自然の中で生かされている生き物」ということに立ち返りたいと思っているよ。先々の大きな目標はあるけれど、木漏れ日の美しさとか、小鳥のさえずりとか…自然を身近に感じながら、落ち着いた暮らしをしていきたいな。

※本記事の取材は、2021年1月にオンラインにて実施しています。

白木さんが伝えたいメッセージ

「迷ったときは、自分の心の声に従おう!」

きっと中高生のみなさんは、これから多くの尊敬できる大人や先生たちに出会って、いろいろな話を聞いて、刺激を受けていくはず。でも、誰が何を言ったとしても、最終的には「自分の心の声」を優先するといいよ。「私の心は、本当にワクワクしているかな?」と、自分に問いかけながら。時には世間で言われている常識や、「こうするべきだ」という意見に左右されてしまうこともあると思う。でも、それって実は自分の価値観ではなかったり、第三者の感覚だったりもすると思うんだ。迷ったときは、自分が本当に心の底からワクワクできること、胸がときめくことを選択していこう。それが「自分の人生を生きる」ということだと思うから。もし問題にぶつかったら、このことを思い出してもらえたらいいな。

プロフィール

白木 夏子(しらき・なつこ)さん(株式会社HASUNA)

英ロンドン大学卒業後、国際機関、投資ファンドを経て2009年にHASUNAを設立。
ジュエリーブランドHASUNAでは、ペルー、パキスタン、ルワンダほか世界約10カ国の宝石鉱山労働者や職人とともにジュエリーを制作し、 エシカルなものづくりを実践。”未来へと受け継がれるジュエリーブランド”として、日本におけるエシカル消費文化の普及につとめる。女性の働き方や起業、ブランディング、サスティナビリティ、ウェルビーイング、SDGs等をテーマに国内外で講演活動も行っている。
2011年、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2011キャリアクリエイト部門受賞をはじめとして、 2013年には世界経済フォーラム(ダボス会議)にGlobal Shaperとして参加。2014年には内閣府「選択する未来」委員会委員を務め、Forbes誌「未来を創る日本の女性10人」に、2017年にはCNNが選んだ日本人女性「リーディング・ウーマン・ジャパン」に選ばれるなど、世界的にも注目を集める起業家である。