2.キャリア形成に関する質問 ①進学編

2-1.将来、国際協力の仕事をしたいと考えています。進路を検討するにあたり、大学のどのような学部・学科を選択すればよいでしょうか?

国際協力の仕事は、教育、農業、保健医療などの開発途上国が抱える様々な開発課題や、紛争、自然災害といった地球規模の課題に対しての取り組みを行っており、必要となる専門性は就きたい仕事内容によって異なります。
また、マネジメント系/スペシャリスト系のどちらの職種に就きたいのかによっても、求められる専門性の深さも違います。
そのため、仕事によって国際関係学といった専攻よりも、教育学部や農学部といった専門性のある分野を専攻した方が良い場合が多々あります。
このことを踏まえ、まずは世界が抱えるどのような課題に対してご自身の関心があるかという点を考えてみましょう。
国際協力における課題についてはこちら

また、PARTNERでは国際協力の現場で活躍している先輩のインタビュー記事を掲載しているので、それぞれのキャリアパスを参考に、どのような働き方が自分らしく働くことができそうかをイメージして、進路を選択することをお勧めします。


2-2.現在、進路を検討している大学生です。マネジメント系の国際協力の仕事に就きたい場合、大学卒業後、どのような進路が考えられますか?

マネジメント系の仕事に就くには、国際協力に携わる機関・団体(例えば外務省、JICA、各種公益法人など)の新卒採用や、一旦、公務員や企業などの職員として就職し経験を積んでからの経験者(社会人)採用への応募が考えられます。
いずれも採用枠に対して応募者が非常に多く、かなりの高倍率です。

新卒採用では、大学院生であれば国際協力や専攻分野の専門性を期待されることもありますが、学部生の場合は、他業種の企業などと同様、仕事への関心度や人物評価、語学をはじめとした一般的な素養などを中心に選考されることがほとんどです(採用条件は機関・団体によって異なるため、詳細は個々の募集要項などをご確認ください)。

一度、就職した後に経験者(社会人)採用に挑戦する場合は、即戦力となることが望まれるので、語学力の他、前職で得たビジネススキルやマネジメント力、募集機関・団体の求める業務経験(開発課題に関連する経験、経理・会計、システムなど)が期待されます。
将来的に国際協力分野の仕事に転職することを前提にするなら、マネジメント能力だけでなく、強みやアピールポイントとなるような専門性を少しでも身に付けられるような就職先を探す方がよいでしょう。

正規職員以外でも、期限付きの職員としてマネジメント系の仕事をする方法もあります。国際協力に携わる機関・団体は多くの場合、国内外で勤務する契約期間が1年~3年の期限付き職員を募集しています。
例えば、JICAは専門嘱託や企画調査員などの様々な期限付き人材の募集を行っており、正規職員採用に比べると募集数はやや多くなりますが、短期間で成果を出し即戦力となることが期待されるため、求められる実務経験や専門性は高くなる傾向にあります。
その他、開発コンサルティング企業あるいはNGO/NPOが総務・経理・事務・営業の契約スタッフの求人をPARTNERに掲載することもありますのでご確認ください。
また、在外公館で働く外務省の在外公館派遣員の募集は、(社)国際交流サービス協会のwebサイトをご覧ください。

それぞれの求人がどのような人材を求めているのかを確認すると、キャリア形成の参考になるでしょう。

いずれにしても、就職先を検討する際は、数ある国際協力関連の組織・団体の中で何故そこを選んだのか、そこでどのような仕事をしたいのか、について説得力のある説明ができるよう充分に情報を収集した上で、考えておくことが重要です。


2-3.現在、進路を検討している大学生です。スペシャリスト系の国際協力の仕事に就きたい場合、大学卒業後、どのような進路が考えられますか?

スペシャリスト系の仕事に就くには、個人としてJICAやNGO、国際機関などの専門家を目指すか、国際協力の現場にスペシャリストを派遣している組織を通じて携わるかになります。それぞれ以下に概要を説明します。

【個人としてスペシャリストを目指す】

組織に所属することなく個人として、JICAやNGO、国際機関などから国際協力の現場に派遣される専門家を目指す場合は、国際協力分野で活かせる専門性、それを活用して仕事を行ったという経験、つまり実務経験が必要です。そのため、新卒で専門家になることは非常に難しく、仕事を取れる(=契約を受注できる)ようになるまでには一定の時間とコストがかかります。また、仕事は契約期間が決まっているものが多く、契約と契約の合間には所得がない時期もあり得ます。
分野の専門性を高める際は、ご自身が大学などで学んだことや職務として経験したことを活かすことが効率的ですが、それが国際協力分野で活用できるかどうかを見極めることが重要です。参考までにJICA専門家の派遣が多い分野としては、農業・農村開発分野、職業訓練などを含む教育分野、保健医療・人口分野です。環境やガバナンス、民間セクター開発、水資源・防災などの分野も近年は伸びています。しかし、時代によって分野も変化していきます。5-1も参考に、充分な情報収集を行い、自分の目指す専門性と専門家像をイメージした上で、専門性を高めてください。

また、実務経験は、少なくとも3年以上、専門性に関連した仕事の経験を積んでください。できれば海外の業務経験を積むことが望ましく、就業のチャンスは広がるでしょう。関連する組織に所属して経験を積む他、3-3なども参考に、どのように実務経験を積むか、ご自身で情報を収集して考えてみてください。

【組織を通じてスペシャリストを目指す:開発コンサルタントの場合】


組織を通じてスペシャリスト系の国際協力の仕事に就くには、まず、開発コンサルティング企業に所属する方法があります。しかし、多くの開発コンサルティング企業は、新卒採用よりは経験者(社会人)採用を重視しており、大学を卒業してすぐに就職することは難しいでしょう。そのため、開発コンサルティング企業を目指す場合は、国際協力の分野で活かせる専門性とそれを活用して仕事を行ったという実務経験を身に付けてから挑戦することが望ましいと言えます。
開発コンサルティング企業で働くには4-4

【組織を通じてスペシャリストを目指す:開発コンサルタント以外の場合】


JICAでは、毎年多くの省庁、独立行政法人、自治体、大学など研究機関、医療機関などの関係者を専門家として派遣しています。ご自身の専門性が活かせる場合はこうした組織を通じて国際協力に携わる方法もあります。こうした人々は、普段は日本でそれぞれの組織における業務を行っており、その知識や経験が他の企業・団体などにはなく特命性が高いことから、所属先の選考を経てJICAに技術協力プロジェクト専門家として推薦されます(警察、消防、税関、航空管制、上下水道、医療分野など、多岐にわたる)。ただし、これらの組織に所属する人々にとっては、国際協力はあくまでも補足的な業務であることを念頭に置く必要があります。

技術協力プロジェクト専門家以外でも、一般企業が国際協力に関わる事例は多くあります。調査・研究を行うシンクタンクや大学など研究機関、ODA案件を受注する建設会社、電力会社、商社なども国際協力の一部を担っています。前述の例と同様、これらの組織も国際協力のために存在しているわけではありませんが、国際協力への多様な関わり方の一例として参考にしてください。
JICA専門家になるには(団体、会社を通じての場合)4-2-2


2-4.開発経済学や国際関係論など国際協力関連分野を学びましたが、どのような進路が考えられますか?

開発経済学や国際関係論の専門性を活かす国際協力の仕事としては、その「深さ」によって方向性が変わってきます。

博士課程レベルなどの高い専門性を持った場合には、シンクタンクや大学などの研究機関で調査・研究の実務経験を積んだ上で、国際通貨基金(IMF)、世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)などでエコノミストとして活躍する、もしくは開発コンサルタントとして経済・財務分析分野で活躍するなどの進路が考えられるでしょう。

学部生、修士課程レベルの専門性の場合は、外務省やJICAの新卒採用・経験者採用など、マネジメント系の仕事が進路として考えられるでしょう。こうした組織に所属すると現場からはやや遠くなることもありますが、幅広く様々な国際協力業務に携わることが可能です。
マネジメント系の仕事に就く方法2-2

学部生、修士課程レベルの専門性の場合で、マネジメント系ではなく開発途上国の現場で相手国の人に技術移転を行うスペシャリストとしての活躍を目指したい場合は、国際関係論や開発経済学などの知見だけでは不充分な場合がほとんどです(新卒レベルではまず困難)。このような場合は、途上国の現場で活かすことができるコアスキル(例えば公衆衛生や環境評価、中小企業振興、参加型農村開発、ジェンダーなど)を就職ないし進学を通じて、別途身につけ守備範囲を広げる、国際協力の現場に出て実務経験を積み重ねるなどの努力が必要です。また、PCM(Project Cycle Management)やプログラム・プロジェクトマネジメントなどを学んでおくことも有益でしょう。そのような研鑽を経て、スペシャリストとして開発コンサルティング企業への就職や、JICA公募案件や公示案件への門戸が開かれてくると言えます。

その他、一般企業でも近年はCSR(Corporate Social Responsibility)活動やBOP(BOP:Base (bottom) of the Economic Pyramid)ビジネスを強化する流れの中で、開発途上国の開発課題に貢献するような事業を展開しているところが増えてきています。国際協力が事業の主体ではないことを充分に理解した上で、ご自身の志向と合致する企業がある場合は、就職先として視野に入れてもよいでしょう。


2-5.専門学校で身に付けた技術がありますが、国際協力に活かせますか?

専門学校の中でも、保育・教員、情報通信、自動車整備、建築・インテリア、調理・栄養、電気・電子、保健医療、美容師などの専門分野の場合は、JICAのボランティアである青年海外協力隊で募集されることがありますので検討してみてください。
ボランティアとはいえ、途上国で実際に相手国の人に指導することが求められますので、日本で実務経験を積むと共に、必要な語学力も身につけてから挑戦するのが望ましいでしょう。
海外ボランティアとして活躍するには3-4

ボランティアを経験後、さらにスペシャリストとして国際協力の仕事を志す場合は、前述の専門性に関連した技術を直接は活かせない場合があるので注意が必要です。
スペシャリストが担う途上国への技術協力は、政策策定支援のような行政を対象としたものや、県・群・組織レベルの仕組みづくりや事業の改善を行うものまで広範に及び、現場の一指導者として個人から個人へ技術を伝えることが多いボランティアとは、協力対象も求められる専門性も異なることが多々あります。
そのため、スペシャリストとしての活躍を志す場合は、5-12-3を参考に情報収集を行い、専門性の幅を広げる、必要な実務経験を積むなどの努力が必要です。


2-6.国際協力の仕事をする上で修士号、博士号は必要ですか?また留学した方がいいのですか?

学位や留学経験があると就職に有利なのではと考え、十分な下調べ・準備を行わないまま進学・留学をすると、目的と手段が逆転し、目指す国際協力の仕事につながらない学位や留学経験になりかねません。
そのため、ご自身の目指す国際協力の仕事が何か、どのような働き方をしたいのかについて充分に情報を収集した上でイメージを持つこと、そこに向けて必要なものは何かという考えで、進学や留学を考えるとよいでしょう。

例えば、国際機関で平和構築分野のインターナショナルスタッフとして、現場のオフィスでマネジメントの業務をしたいという場合、修士号以上の学位取得は必須であり、留学経験のある人が多く採用されている実態はあります。
開発コンサルティング企業などで環境分野のスペシャリスト系の仕事を行いたい場合には、高い専門性の証明として修士号以上の学位を必要とされることも多くあります。
他方、漠然と国際協力の仕事に就きたいと思って開発経済学の修士号を取得した場合、活かせる就職先はマネジメント系の仕事が中心となり、本当は関心の高かった途上国の現場でのスペシャリスト系の仕事には活かしにくかったり、分野によっては大学院で学んだかどうかはあまり関係なく、実務経験が重視されたりすることも多々あります。
このように、様々なケースが想定されることから、キャリアを効果的・効率的に形成するためには、ご自身の目指す国際協力の仕事は何か、どのような働き方をしたいのかを明確にし、それに基づいて専門性やキャリアを構築していくことが重要となるのです。

参考までに、大学院や留学で学ぶ内容は、できるだけ、それまでに得た専門性や職務経験に関連したものであるとキャリア構築の面では効率的です。
また、学部からすぐに大学院に進学するのではなく、一旦、社会に出て仕事の経験を積みながら、専門性の幅と深さを広げるために段階的に修士号や博士号を取得するという方法も考えられますので参考にしてください。

なお、PARTNERでは国際協力分野でスキルアップを目指す方に向けて、大学・大学院を紹介しています。
日本・海外の大学院