新しい取り組みでフェアトレードにもっと注目を集めたい! 広報・販促の経験をフェアトレードの普及に活かす ~社会貢献活動におけるキャリア(途上国ビジネス編)~

胤森 なお子さん

民間企業 ピープル・ツリーフェアトレードカンパニー㈱常務取締役/広報ディレクター 50代

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    開発途上国の生産者支援を目的として、途上国で作られた衣料品、食料品、雑貨などを販売するピープル・ツリーで、広報ディレクターとしてフェアトレードの普及・推進活動に取り組んでいる胤森なお子さん。彼女には子どもの頃の忘れられない風景がある。

    忘れられなかった途上国の風景

    父の仕事の関係で8歳から11歳までの3年間、メキシコに住んだことがあります。日本人学校に通っていたので、現地の方と直接ふれあう機会はあまりありませんでしたが、街を歩けば貧しい人たちがあふれていて、観光地では子どもたちが物乞いをしている。8歳の私より幼い子どもたちが働いているのも日常的な光景でした。当時、子どもながらに自分は学校に行っているのに、この子たちはなぜ働かなくてはならないんだろう、と疑問を抱いていました。ただ、いずれ将来、自分が国際協力の現場で働くようになるとは、就職を控えた大学生になってもまったく考えていませんでした。

    ――大学では英語を専攻。語学力を活かせる職場にと、卒業後は国際通信会社に就職。顧客対応、広報、販促などの業務に携わっていたが、あるときターニングポイントが訪れる。きっかけは一枚の小さなパンフレット。1995年、ピープル・ツリーの母体であるNGOグローバル・ヴィレッジとの出会いだった。

    自分で収入を得られるようになって、フォスターペアレントとして資金援助を始めました。心のどこかに子どもの頃の体験が引っかかっていたのですね。でも、金銭的支援が中心でしたので、実感として国際協力に携わっているという意識はあまりありませんでした。

    漠然と意義あることだからと続けているうちに、ふと目にしたパンフレットに、グローバル・ヴィレッジの記事を見つけたんです。興味を持って取り寄せた資料には、さまざまな途上国の商品が並んでいて、その商品を買うことで支援になるということが書かれていました。フェアトレードという存在を初めて知ったのはこの時です。当時は「ショッピングが国際協力になる」という仕組みが新鮮でした。趣旨に賛同して、すぐにボランティアとして活動にかかわるようになりました。何度かボランティアをしているうちに、代表のサフィア・ミニー(Safia Minney)から広報・編集マネージャーとして加わってもらえないかと誘われました。

    その頃、通信業界が再編の時期で、私が勤めていた会社も別の会社と合併したりして、先行き不安定な状況だったんですね。加えて、同じ会社に15年勤務し、この先の自分の成長を考えると、新しいことに挑戦するチャンスだと、転職を決断しました。

    分野は変わっても広報がキャリアの中心軸

    ――胤森さんがボランティアとして活動に参加していた当時は、グローバル・ヴィレッジがフェアトレード事業を本格的に拡大しようとしていた頃。その後、東京に直営店をオープンさせ、広報活動や通販カタログの充実を計画していた。国際通信会社で15年、広報、販促支援、編集などの業務に携わっていた胤森さんのキャリアは、まさにピープル・ツリーが求める人材だったのだ。

    異業種からの転身でしたが、戸惑いはありませんでした。むしろ商品の魅力を消費者にいかに分かりやすく伝えるか、という広報業務に長く携わってきましたので、自分が培ってきたスキルを国際協力という新しい世界で活かせることに大きな魅力を感じました。

    フェアトレードを広めるためには、「今がフェアではない」ということをまず伝えなければなりません。取引は当然公正であるべきなのに、実際には途上国の弱みにつけこんで、不当に安い賃金で労働者を働かせるといったアンフェアな取引が世界のあちこちで起きている。ところが、そうした実態を伝える情報がほとんどない。

    まずは現実を知っていただくことです。そのためには、単に「こんな理不尽な現実があるんです!」と声高に主張しても伝わりません。みなさんの身近に感じていただけるよう、分かりやすい表現でアナウンスすることが大事です。私は広報として、特にこの点に関して心を砕き、努力を重ねています。

    例えば洋服であれば、「自分がいま身に着けているものが、どこからやってきたか知っていますか?どんな人が、どんな環境で作っているか、想像してみたことはありますか?もしかしたらこんなことが起きているかもしれませんよ」と、実際にある現実を伝えます。ふだんは自分の洋服がどんなふうに成り立っているかなど、なかなか想像できないかもしれませんが、情報を提供することで考えるきっかけになるでしょう。そして、商品が作られた背景を知った結果、いわゆるスウェットショップ(搾取工場)で作られた大量生産で安価な衣料品はできるだけ購入しない、公正な取引によって作られた商品だとわかるものを選ぼう、と考え方を転換していただくことが最終的な目的です。

    ――ピープル・ツリーの取り組みは、さまざまなメディアが頻繁に取り上げているが、そこには広報のエキスパートならではの胤森さんの戦略があった。

    弊社はまだ広告予算を持つ余裕がありませんので、たとえばトップモデルを起用して広告を出すような戦略はとれない。じゃあどうするか。これは代表のサフィアとも常々戦略を立てているところなのですが、新聞や雑誌に記事として取り上げてもらえるよう、常に新しいこと、話題性のあることを繰り出すことが大事。有名デザイナーとコラボレーションしてデザイン性とフェアトレードを兼ね備えたコレクションを発表したり、今年は英国女優のエマ・ワトソンがクリエイティブ・アドバイザーに参加した企画を展開するなど、新しい取り組み、新しい情報発信を続けています。

    ――ファッションの世界はトレンドの入れ替わりが激しく、ここ数年は低価格商品を短いサイクルで大量生産・販売するブランドが市場を席巻している。それらの影響もあってか、ほぼ毎年売上げを伸ばしてきたピープル・ツリーだが、昨年(2009年)の売上は前年度割れとなった。しかし胤森さんの見通しは悲観的ではない。

    確かにファストファッション系の影響を受けてはいますが、長いスパンで考えたときに、そうした大量生産、大量消費という既存のマーケットでは持続不可能だということは明白であり、遅かれ早かれ行き詰まることに気づいている人も多い。一方で、持続可能性とか環境保全といったことへの関心はどんどん高まっています。大事なことは、商品の成り立ちや、大量生産でものを作るために何を犠牲にしているかといった情報を、きちんと伝える努力を行うこと。地道に続けていけば、消費者の流れは必ず変わると考えています。大量生産の商品を使い捨てていく消費のあり方に疑問を抱いている人もたくさんいると思うんですね。そういう人たちに、きちんとメッセージを届けていくことが私たちの使命だと認識しています。

    フェアトレード向きの人とは

    ――「フェアトレードで世界を変える」という高い志を掲げ、貧困問題、持続可能な社会づくりに取り組むピープル・ツリー。常務取締役でもある胤森さんに、求める人物像をうかがった。

    まずは、何のためにフェアトレードを行っているか、その使命と理念を共有できることが第一条件です。さまざまな困難な場面にぶつかったときに、信念が弱ければ仕事として継続していくことは難しいでしょう。

    素質として備えていていただきたいことは、「主体性」と「実行力」、「フレキシブルに問題に対応する力」です。先ほど申し上げたように、私たちの仕事は、常に新しいことを創造し、発信していかなければなりません。こうすればうまくいくというモデルケースなどありませんから、自分で考え、自分で問題を整理して解決方法を提案する柔軟な力が必要なのです。

    加えて、どんなポジションであっても「コミュニケーション能力」は必須ですね。営業や販売であれば、取引先やお客様とのコミュニケーションは当然ですが、生産者パートナーとの密なやりとりや、社内に関しても、いろいろなチームの連携があってこそ初めて成り立つものですから、コミュニケーション能力はあらゆるポジションで必要な資質です。

    ――フェアトレード運動が盛んなイギリスやフランスなどと比べて、日本での関心はまだまだ低い。この国にフェアトレードを根づかせること。胤森さんの挑戦はこれからも続く。

    フェアトレードの究極の使命は、世界のすべてのアンフェアをなくすことにあります。現在(2010年時点)、弊社の発注によって仕事を得た生産者の数は、約2,300人です。世界中にはアンフェアゆえに貧困に苦しんでいる人が何億万人もいることを考えると、まだまだほんのわずかです。私たちはもっともっとフェアトレード事業を拡大発展させていかなければなりませんし、日本にフェアトレードビジネスがもっと増えてほしいと願っています。日本ではフェアトレードを知らない、フェアトレード商品を買ったことがない人が大多数です。今は、この裾野を広げることが急務。あらゆる表現手段を利用して、フェアトレードの認知・普及に、これまで以上に力を注いでいきたいです。

    ※本記事は、2010年7月時点での情報となります。


    ■ ピープルツリーのサイト: http://www.peopletree.co.jp/

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