プロジェクトをコーディネートする躍動感 ~技術協力専門家(業務調整)の仕事~

堤 清香さん

国際協力機構(JICA) 独立行政法人 国際協力機構(JICA)業務調整専門家/技術協力専門家 30代

  • JICA 技術協力プロジェクト専門家(業務調整)
  • 自然環境保全
  • インタビュー

    現在の業務について、具体的にどのようなことを担当されていますか?

    南太平洋の小さな島国、サモアという国で、国立公園・自然保護区の管理能力向上を支援する技術協力プロジェクトの一員として働いています。赴任して5ヶ月半が経ちました。
    この中で、私はプロジェクトの活動が円滑に進捗するよう、年間計画に沿った活動モニタリングを行ったり、予算を管理したり、サモア国政府と業務上の連絡・調整を行ったりしています。
    また、私の場合、業務調整のほかに住民意識向上分野の技術協力専門家も兼ねていますので、国立公園周辺の住民をどのように取り込んで自然保全活動に取り組んでいけるかを、日々カウンターパートの皆さんと協議しながら技術指導にあたっています。
    長期専門家が2名という小さなプロジェクトですので、チーフアドバイザーと相談しながらプロジェクト全体の運営に携わっています。

    今までで印象に残った業務についてお聞かせください。

    本プロジェクトはチーフアドバイザーの着任に先立ち、私一人が派遣されたため、当初は、実質的に私が一人でチーフアドバイザー・業務調整専門家・技術協力専門家をすべて兼任する形でプロジェクトの立ち上げを務めました。
    さらに、チームの中核となるサモア人カウンターパートの配置も、サモア政府側の事情で遅れたため、プロジェクトを引っ張っていくべき人材が日本側からもサモア側からも欠けている状態でスタートしたのです。また、本プロジェクトは新規であったため、サモア側も日本側もお互いに手探り状態で始まったというのが実情です。
    そんな中、とにかく現在いるメンバーでプロジェクトチームを立ち上げようということで、三日間にわたるプロジェクト・キックオフ・ワークショップを開催しました。
    ワークショップでは、事前にJICAがサモア側と協議して設計したプロジェクトの計画を、現場の現状を踏まえてもういちどプロジェクトのメンバー自身で読み込み、自分たちの言葉に置き換えてプロジェクト目標を理解することから始めました。そして、そうやって共有した目標にいたるまでの道筋を、細かく協議して具体的な活動計画のレベルに落としていきました。
    その結果、そもそも、「国立公園とは何か」といった基本的な概念からして異なっていた日本人専門家、二つの局にまたがるサモア政府職員、国際機関やNGOといったさまざまな立場のメンバーが、ワークショップ最終日にはプロジェクトの一員として共通の土台に立ち、ひとつのチームにまとまることができました。これは本当に大きな成果だったと思います。
    このワークショップはサモアのテレビや新聞で報道され、プロジェクトの開始を内外に宣伝するのに役立ちました。しかし、なにより嬉しかったことは、一時はサモア国環境庁の環境保全局と森林局の間でプロジェクトの取り合いになるか、そうでなければやる気を失ってしまいそうな局面も垣間見えていたプロジェクトのメンバーが、最後にはひとつのチームとしてまとまって、うわべだけでない本物のやる気をみせてくれたことです。この瞬間は忘れません。
    このように、プロジェクトの立ち上げから、チーム構成、国立公園に関わる法律の改定、周辺住民への啓発アクションプランの策定、そして国立公園内の小規模インフラ整備まで、派遣される際に決められた専門家としての業務内容に関わらず、とにかくすべてを一手に引き受ける形で日々奮闘しています。
    つい先日、待望のチーフアドバイザーが着任し、これから徐々に役割を分担していこうというところですが、図らずも自分の経験や能力以上のことを任され、最初は大変でしたが、このようなチャレンジも逆に楽しんで活動できているので、毎日が充実しています。

    現在の業務でのやりがいや仕事の魅力は何でしょうか?

    サモアという国の一員として迎え入れられ、現地政府に密着した活動ができることが楽しいです。現地政府のやる気や吸収の早さによってプロジェクトの進捗が左右されるので、ときには自分が直接やったほうが何倍か早いのに…といった思いを飲み込んだりもしますが、こちらからのインプットがしっかりと受け止められ、きちんとしたアウトプットとして出てくるのが手に取るようにわかるので、本当にやりがいを実感できます。
    「あなたと一緒に仕事できるなんて、僕たちはなんて幸運なんだろう」
    カウンターパートのサモア人にしみじみ言われたことがありますが、そういった瞬間はなにものにも代えられません。
    技術協力プロジェクトは現地政府機関の制度や行政能力の向上に重点が置かれますので、こうしたカウンターパートの皆さんとはまさに同僚といった感じで毎日の業務を共にすることになります。その中でも業務調整専門家はプロジェクト全般に関わるので、一方ではサモアの考え方や一般常識を理解しつつ、他方では日本の理想や事情も考慮して、バランスのとれたプロジェクト管理をめざしています。

    報告書作成や会計処理などの事務が占める割合も少なくないのですが、私の場合、技術協力専門家を兼ねているので、現在自分が担当している細かい事務が、どの専門分野に関わっていて、どういった効果を生み出す基盤となるのかを自分の頭で理解しながら仕事を進めることができます。表舞台と裏舞台を同時に見ながらプロジェクト全般に関わることができるのは、技術協力専門家を兼任する業務調整専門家ならではの醍醐味です。

    また、サモアという宝石のように美しい国のあれこれも、毎日の業務に彩りを加えてくれます。伝統文化が色濃く残っていて、当たり前のように毎日の生活に息づいている。ひと昔前の日本のような、あたたかい家族のぬくもりが感じられる。そういったサモアのよい所を発展という名の元に失うことなく、うまく生かしながら、住民も現地政府も納得する「よい国立公園」を共に作っていけたらと思っています。

    国際協力に興味をもったきっかけ、これまでのキャリアの積み方、キャリア選択における軸や考え方をお聞かせください。

    中学生の頃、放課後の教室にひとりポツンと残って、窓から青く澄み渡った空を見上げ、漠然と思ったことがあります。
    「この空はアフリカにつながっているんだな。自分は日本で食べるものも学校も両親の愛もすべてあって幸せだけれど、アフリカに関するニュースでは飢餓とか戦争とか大変なことばかり。だけど、本当は、アフリカにはアフリカの幸せがあるに違いない。自分は大きくなったらアフリカに行って、本当のアフリカを見るんだ。そして、日本という恵まれた環境で育ったからこそ得られた知識や経験を生かして何かをしたい。だけど、実際は、それと同じくらい現地の人から学んだり、得たりするものもあるんだろう。だったら、偉そうなことを言わないで、現地の人々と同じ目の高さで生きてみたい、そういう人になるんだ」と。
    それが始まりです。その後海外協力隊に参加した私は、中学生の時の思いどおり、アフリカのケニアに派遣されました。

    ケニアでは、環境教育の仕事で、北はソマリア国境から南はタンザニア国境まで飛び廻り、地域住民や学校の子どもたち、教師たちに森や海の話をしてまわりました。派遣先はとても小さなオフィスだったので、地方事務所の所長を兼任し、環境教育の専門分野だけでなく、資金調達から会計経理、車の修理、オフィス管理まで、とにかく何でもやりました。
    協力隊の任期終了後もケニアへの愛着は変わらず、現地の半官半民の環境保全組織にとんぼ返りしました。その後日本の研究機関に籍を置き、インドネシア・ブラジル・ケニア・カメルーン・ニカラグアの国立公園などで調査をしていました。東アフリカ・西アフリカ・アジア・中米・南米をざっとみた感じですが、それぞれ違う事情がありつつも、基本的な問題は共通しているのが見えてきて興味深かったです。

    その後、ご縁があってサモアに派遣されることになりましたが、現地の人々に寄り添った活動を目指すという点ではなんら変わるところはありません。これからも、自然と人間の共存に関わる仕事に携わっていければと思っています。

    技術協力プジェクト専門家(業務調整)の道を目指す方に向けてのメッセージをお願いします。

    広い視野をもち、聞く耳をもつこと。見たこと聞いたことを冷静に分析して、周りの状況に合わせた解決法を考え出せること。それを業務上のルールに合う形で実行できること。
    そして、プロジェクト全体の到達目標をしっかり頭に描きながらも、目の前の実務を淡々と、しかし迅速にこなせること。こういったことができるフレキシブルな人であれば大丈夫だと思います。

    また、最近は業務調整専門家と技術協力専門家が兼務となっている案件も多いのですが、そうしたポストの場合は専門分野の指導をしながらプロジェクト全体の運営を管理していくことになります。専門は専門でこなしつつ、細かい実務もテキパキ進めていけるようなオールマイティーな人が求められているように思います。
    実際のところ、それは簡単なことではないのですが、開発援助の最前線で表舞台と裏舞台を同時にみながら総合的に関わっていきたいという方にはぜひお勧めしたいです。
    私自身、業務調整専門家のお仕事は今回が初めてで、日々学ぶことも多いのですが、やりがいを感じられる素敵な仕事だと思います。


    ※本記事は、2010年2月15日時点での情報となります。

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