アジアの現場で働きたい! ILO本部を経てフィリピンのフィールドへ 現場で痛感した自己投資の必要性 ~国際機関で働く~
中山 順子さん
国際機関 / 国際労働機関ILO 東南アジア・太平洋準地域事務所 / 40代
キャリア年表
インタビュー
アジアの現場で働きたい!
ーー世界における、労働に関する課題全般について取り組む
ILO(国際労働機関)
の、マニラにある東南アジア・太平洋準地域事務所で働く中山さんの国際協力のキャリアは大学時代の「海外に出たい」という思いから始まった。
大学時代は、ラクロスに夢中になっていました。当時(90年代の初頭)のラクロスは日本に入ってきたばかりのスポーツ。ラクロスの学生団体で『海外渉外』という役割を担い、専門的な技術を学ぶために、アメリカから
コーチを招聘したり、審判員の質を上げるため、カナダからベテラン審判員を招いて審判員研修を行ったり、
また、大学生を呼んで親善試合を行っていました。競技そのものだけでなく、スポーツを通しての他国選手との触れ合い、また多様な文化のなかで企画・運営をする面白さに目覚めたことをきっかけに、海外に出たいと考えるようになりました。
ーー大学では法学部。当時、関心があったのは、80年代後半から日本で問題になっていた外国人労働者問題だった。
80年代後半から、イラン人は短期査証(ビザ)が免除され、多くのイラン人労働者が来日し、日本にとどまり
始めます。不法滞在のイラン人労働者が東京の上野公園に集まっているなどと社会現象になっていました。違法テレホンカードの販売など不法滞在のイラン人が関わる犯罪が起きていましたので、大学時代は刑法の側面から外国人労働者問題を見ていました。
調べていくうちに、不法就労をしているイラン人労働者が、不法就労がゆえに苛酷な労働環境で働くことを
余儀なくされているという問題に関心が向き始め、大学院では、労働法の側面から学ぶようになりました。
ーー不法就労で働くことができるのは、安い賃金の労働者がほしいという使用者側のニーズも大きい。ところが、不法就労の外国人労働者が労働中にケガをするなど労働災害に遭った場合、労災保険の対象にはならない。
また、不法就労の発覚を恐れて、病院に行こうともしない。
使用者側も、罰則を恐れてなんの面倒も見ずに解雇をする…。こうした不法就労自体を肯定はしませんが、真面目に働いていても、不法就労という立場の故、労働者が泣き寝入りという状況があったのです。不法就労者の労働災害は日本の裁判のなかで、どのように、またどこまで議論されているのか、と日本における外国人労働者問題に取り組んでいました。
ーー「海外へ出たい」という志向が強く、「外国人労働者問題に興味がある」となれば、まさにILOにうってつけの人材のように思える。しかし、外務省のアソシエートエキスパート・プログラム ※1に応募・合格し、
ジュネーブのILO本部に配属となった中山さんは、戸惑ったという。
アソシエートエキスパートで採用された場合は途上国の現場で働くものだと思っていました。それも、例えば
アジアで貧困や教育問題に取り組むのだと。途上国での大変な生活も、スポーツをやっていたので体力には自信もありましたから、乗り切れる!いつ派遣されても大丈夫!と思っていたら、配属先はヨーロッパのジュネーブだというので、戸惑いましたね、「えっ、ジュネーブってどこ(笑)」って。
※1 現在は「ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)」
大学時代は、ラクロスに夢中になっていました。当時(90年代の初頭)のラクロスは日本に入ってきたばかりのスポーツ。ラクロスの学生団体で『海外渉外』という役割を担い、専門的な技術を学ぶために、アメリカから
コーチを招聘したり、審判員の質を上げるため、カナダからベテラン審判員を招いて審判員研修を行ったり、
また、大学生を呼んで親善試合を行っていました。競技そのものだけでなく、スポーツを通しての他国選手との触れ合い、また多様な文化のなかで企画・運営をする面白さに目覚めたことをきっかけに、海外に出たいと考えるようになりました。
ーー大学では法学部。当時、関心があったのは、80年代後半から日本で問題になっていた外国人労働者問題だった。
80年代後半から、イラン人は短期査証(ビザ)が免除され、多くのイラン人労働者が来日し、日本にとどまり
始めます。不法滞在のイラン人労働者が東京の上野公園に集まっているなどと社会現象になっていました。違法テレホンカードの販売など不法滞在のイラン人が関わる犯罪が起きていましたので、大学時代は刑法の側面から外国人労働者問題を見ていました。
調べていくうちに、不法就労をしているイラン人労働者が、不法就労がゆえに苛酷な労働環境で働くことを
余儀なくされているという問題に関心が向き始め、大学院では、労働法の側面から学ぶようになりました。
ーー不法就労で働くことができるのは、安い賃金の労働者がほしいという使用者側のニーズも大きい。ところが、不法就労の外国人労働者が労働中にケガをするなど労働災害に遭った場合、労災保険の対象にはならない。
また、不法就労の発覚を恐れて、病院に行こうともしない。
使用者側も、罰則を恐れてなんの面倒も見ずに解雇をする…。こうした不法就労自体を肯定はしませんが、真面目に働いていても、不法就労という立場の故、労働者が泣き寝入りという状況があったのです。不法就労者の労働災害は日本の裁判のなかで、どのように、またどこまで議論されているのか、と日本における外国人労働者問題に取り組んでいました。
ーー「海外へ出たい」という志向が強く、「外国人労働者問題に興味がある」となれば、まさにILOにうってつけの人材のように思える。しかし、外務省のアソシエートエキスパート・プログラム ※1に応募・合格し、
ジュネーブのILO本部に配属となった中山さんは、戸惑ったという。
アソシエートエキスパートで採用された場合は途上国の現場で働くものだと思っていました。それも、例えば
アジアで貧困や教育問題に取り組むのだと。途上国での大変な生活も、スポーツをやっていたので体力には自信もありましたから、乗り切れる!いつ派遣されても大丈夫!と思っていたら、配属先はヨーロッパのジュネーブだというので、戸惑いましたね、「えっ、ジュネーブってどこ(笑)」って。
※1 現在は「ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)」
本部でしか経験できない仕事、現場でしかできない仕事がある
ーー予想とは違う配属に戸惑いながらもILO本部で労使関係・労働行政局労働行政部のスタッフとして働き始める。後に現場で働く際、この本部勤務が役に立つ。本部の仕事、現場の仕事は繋がっているのだ。
ILOは最低限の国際労働基準を、条約また勧告という形で、毎年6月に行われるILO総会で採択します。ILOは現在までに190近くの条約、また200近くの勧告を採択しています。初めに所属した部署では、採択されたばかりの条約、具体的には民間職業紹介所に関する条約でしたが、この条約内容のリサーチを担当したり、加盟国の批准状況をモニターしたり、また批准に際してのアドバイスを行うことにも携わっていました。
また、古くなったILOの勧告を見直す作業もありました。理事会で時代に即していないと判断された勧告に
ついて各国に質問状を送り、その回答をもとに見解をまとめ、ILOの総会での話し合いの土台になる報告書を作成するという仕事にも関わりました。ILOの総会は華々しいイメージがありますが、スタッフが行うのは、このように地道な仕事の積み重ねです。
ILOには他の国際機関とは違う特徴があります。他の国際機関は政府を主に相手にしますが、ILOは三者構成を取っているので、使用者団体、労働者団体(労働組合)も相手にします。各国への質問状には、三者の回答が
寄せられて、それぞれの立場によった事情がよく見えるのです。当時は本部の配属に戸惑いましたが、現場の事務所で働く前に本部で働いてみると、本部の意向、動き方も分かるので、役に立ちましたね。
ーー本部勤務5年を経て、東南アジア・太平洋準地域事務所 テクニカルオフィサーとして、フィリピン・マニラ勤務になった。現場に来てみて、顔を見ながら仕事をすること、より良いパフォーマンスのための自己投資の
必要性を痛感するようになる。
ジュネーブ時代からフィリピン・ミンダナオ島の案件形成に関わっていましたが、コンセプトは分かれども、
顔や現場の様子を見ていないだけに、深く理解ができていないんですね。
マニラに来ると、顔が見えるようになった。どういう人が恩恵を受けているか、どういうニーズがあるのかがわかるようになる。
フィールドに出てみて、現場にいることの重要さを実感しましたね。また、タガログ語の勉強をして、ローカルスタッフとの会話ができるようになり、語学を学ぶことでフィリピンの文化をさらに深く理解できるようになりました。
ーー今は新しいプロジェクトが始まったばかりだ。
今年3月から、ILOはFAO(国連食糧農業機関)との共同プロジェクトを開始しました。フィリピン・ケソン州
ボンドック半島の貧困地域の漁民、農民、労働者を援助するプロジェクトで、日本政府から国連人間の安全保障基金を通して250万米ドルの財政支援を受けています。この地域は長年武力紛争の影響下におかれていたために経済開発が遅れている地域。州人口の8割が農業と漁業に従事していますが、1日の収入は多くて1米ドルほどです。今回のプロジェクトでは、農業・漁業生産改善活動、そして農業・漁業以外の生計手段支援活動を通じた
包括的な地域開発を行うことによって、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の推進を目指しています。他の国際機関と密に連携しながら対象国のために働くことができるのも、フィールド勤務の醍醐味です。
ーー今後も中山さんは労働者問題を中心に活動を続けていくという。
特に興味があるのは移民労働者問題です。ただ、フィールドでどんどん仕事をしていくのは楽しいですけれども、今は子供がいるので、仕事を続けていくにも家族の理解が必要になってきましたね。ILOの中で働いていても、私たち自身今後のステップに進むためにはRAPS(ILOの空席募集・採用システム)を利用して次の仕事を探していく必要があります。 家族という個人的な問題と、自分の長期的なキャリアをどう折り合いつけるべきかは難しいですよね。ただ、今の段階でいえるのは、いつ、どのような問題が出てきても、自分の望む方向に進む
ためには、ILOに限らず他の機関でも通用するように自分を磨いておくことは必要かと思います。実際、仕事をしながらの自分磨きは大変ですが。 周囲には、週末に休日返上で、勉強をするなど、自分への投資を惜しまない
スタッフが多いです。ILOや国連には、Special leave without pay という最大で2年間までの、無給ですが休職扱いをリクエストできる制度もあります。この制度を利用して、大学や大学院に戻って研鑽をしているスタッフもいますよ。 自己投資して学んでいくことは、ワークライフバランスの実現、さらには周囲の労働環境の向上につながりますし、ILOのディーセント・ワークの推進にもつながっていくのでしょうね。
※本記事は、2010年10月1日時点での情報となります。
ILOは最低限の国際労働基準を、条約また勧告という形で、毎年6月に行われるILO総会で採択します。ILOは現在までに190近くの条約、また200近くの勧告を採択しています。初めに所属した部署では、採択されたばかりの条約、具体的には民間職業紹介所に関する条約でしたが、この条約内容のリサーチを担当したり、加盟国の批准状況をモニターしたり、また批准に際してのアドバイスを行うことにも携わっていました。
また、古くなったILOの勧告を見直す作業もありました。理事会で時代に即していないと判断された勧告に
ついて各国に質問状を送り、その回答をもとに見解をまとめ、ILOの総会での話し合いの土台になる報告書を作成するという仕事にも関わりました。ILOの総会は華々しいイメージがありますが、スタッフが行うのは、このように地道な仕事の積み重ねです。
ILOには他の国際機関とは違う特徴があります。他の国際機関は政府を主に相手にしますが、ILOは三者構成を取っているので、使用者団体、労働者団体(労働組合)も相手にします。各国への質問状には、三者の回答が
寄せられて、それぞれの立場によった事情がよく見えるのです。当時は本部の配属に戸惑いましたが、現場の事務所で働く前に本部で働いてみると、本部の意向、動き方も分かるので、役に立ちましたね。
ーー本部勤務5年を経て、東南アジア・太平洋準地域事務所 テクニカルオフィサーとして、フィリピン・マニラ勤務になった。現場に来てみて、顔を見ながら仕事をすること、より良いパフォーマンスのための自己投資の
必要性を痛感するようになる。
ジュネーブ時代からフィリピン・ミンダナオ島の案件形成に関わっていましたが、コンセプトは分かれども、
顔や現場の様子を見ていないだけに、深く理解ができていないんですね。
マニラに来ると、顔が見えるようになった。どういう人が恩恵を受けているか、どういうニーズがあるのかがわかるようになる。
フィールドに出てみて、現場にいることの重要さを実感しましたね。また、タガログ語の勉強をして、ローカルスタッフとの会話ができるようになり、語学を学ぶことでフィリピンの文化をさらに深く理解できるようになりました。
ーー今は新しいプロジェクトが始まったばかりだ。
今年3月から、ILOはFAO(国連食糧農業機関)との共同プロジェクトを開始しました。フィリピン・ケソン州
ボンドック半島の貧困地域の漁民、農民、労働者を援助するプロジェクトで、日本政府から国連人間の安全保障基金を通して250万米ドルの財政支援を受けています。この地域は長年武力紛争の影響下におかれていたために経済開発が遅れている地域。州人口の8割が農業と漁業に従事していますが、1日の収入は多くて1米ドルほどです。今回のプロジェクトでは、農業・漁業生産改善活動、そして農業・漁業以外の生計手段支援活動を通じた
包括的な地域開発を行うことによって、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の推進を目指しています。他の国際機関と密に連携しながら対象国のために働くことができるのも、フィールド勤務の醍醐味です。
ーー今後も中山さんは労働者問題を中心に活動を続けていくという。
特に興味があるのは移民労働者問題です。ただ、フィールドでどんどん仕事をしていくのは楽しいですけれども、今は子供がいるので、仕事を続けていくにも家族の理解が必要になってきましたね。ILOの中で働いていても、私たち自身今後のステップに進むためにはRAPS(ILOの空席募集・採用システム)を利用して次の仕事を探していく必要があります。 家族という個人的な問題と、自分の長期的なキャリアをどう折り合いつけるべきかは難しいですよね。ただ、今の段階でいえるのは、いつ、どのような問題が出てきても、自分の望む方向に進む
ためには、ILOに限らず他の機関でも通用するように自分を磨いておくことは必要かと思います。実際、仕事をしながらの自分磨きは大変ですが。 周囲には、週末に休日返上で、勉強をするなど、自分への投資を惜しまない
スタッフが多いです。ILOや国連には、Special leave without pay という最大で2年間までの、無給ですが休職扱いをリクエストできる制度もあります。この制度を利用して、大学や大学院に戻って研鑽をしているスタッフもいますよ。 自己投資して学んでいくことは、ワークライフバランスの実現、さらには周囲の労働環境の向上につながりますし、ILOのディーセント・ワークの推進にもつながっていくのでしょうね。
※本記事は、2010年10月1日時点での情報となります。
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