新たなる挑戦、人との出会い、達成感 ~調査団員の仕事~

松本 彰さん

国際協力機構(JICA) 独立行政法人 国際協力機構(JICA)調査団員 50代

  • JICA 調査団員
  • 評価
  • インタビュー

    「評価」を専門として調査団員や技術協力専門家など、さまざまなシーンでご活躍されている松本彰さんに、調査団員のお仕事について伺いました。
    (調査団として派遣される調査団員には、関係省庁等やJICA職員の団員も含まれます。ここでは、関係省庁等やJICA職員の調査団員、一般の方が参画できる調査団員、を分かりやすく区別するため、後者を役務提供コンサルタントと呼んでいます。)

    今まで調査団員(以下、役務提供コンサルタント)として数々のお仕事をご経験されていますが、最近ではどのような案件に携わりましたか?

    一番最近では、「カンボジア・ラオス・マレーシア・ミャンマー・タイ及びベトナムにおける家畜疾病防除計画地域協力プロジェクト(フェーズ2)事前評価調査」という案件に、2007年の1月31日から3月1日までの約1ヶ月間、現地調査に携わりました。
    実は、私は、この案件には関わりが非常に深いのです。この案件は家畜疾病防除計画地域協力プロジェクトのフェーズ2事前評価調査ですので、当然フェーズ1があります。このフェーズ1の立ち上げ時に、私はちょうど、援助調整専門家としてベトナムの援助窓口となる計画投資省をカウンターパート機関とした仕事をしていて、実際にフェーズ1プロジェクトの事前評価や実施協議のために派遣された調査団とベトナム側との調整・交渉役も業務の一環として関わっていました。
    またこの時期は、JICAがCLMV(カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナム)と他のASEAN諸国のギャップをいかに埋めていくかという地域協力が展開されつつあって、私は、援助調整の傍ら、この地域協力推進の仕事も兼任していたのです。
    当時、地域協力という視点では、タイを中心にさまざまな技術協力プロジェクトが行われており、家畜疾病もその1つでした。タイを中心とした周辺諸国では、国境を越えた家畜の移動に伴って、家畜の病気が広がり、家畜衛生状況が悪化するという課題を抱えています。
    その問題解決のため、長年JICAがタイに対して協力してきたプロジェクトにより育ってきた人材を活用し、各国で協力し合いながらこの課題に取り組もうということで始まったのがこのプロジェクトの背景となります。

    そして、援助調整専門家の任期を終え帰国した後、同案件フェーズ1の中間評価調査、終了時評価調査も役務提供コンサルタントとして、仕事をさせていただきました。
    今まで、評価調査だけでも20~30案件の仕事をしてきましたが、このように1つのプロジェクトに対して、中間評価調査、終了時評価、フェーズ2の事前評価調査と連続して受注したのは私としても初めてでしたので、自分自身非常に思い入れがあります。
    この案件は、複数の国々にまたがる案件でしたので、団員数が多く7名でした。家畜衛生・畜産開発分野の国際協力専門員が団長を務められ、副団長としてJICA農村開発部のチーム長、そして関連機関・省庁から2名、全体の計画管理を担当されるJICA農村開発部の職員の方、そして評価分析の役務提供コンサルタント2名という構成でした。
    まず、調査団全員でタイに入って、相手国政府や関係機関などを表敬し、その後2つのグループに分かれて6つの対象国を3ヶ国ずつ調査しました。最終的にそれぞれのグループの調査結果をとりまとめ、各国の代表者参加の上で会合を開催し、協議議事録の署名を行いました。

    この案件の中で役務提供コンサルタントとして、どのような業務を担当されたのですか?

    私は、評価分析を担当しました。今までの協力実績や相手国からの要請内容、さらにJICAとしての対処方針*をもとに、実際に現地に入り、相手国のニーズ、不足している情報などを調査・分析し、結果をとりまとめながら、これから立ち上げようとしているプロジェクトの妥当性などJICAの評価5項目についてとりまとめ、JICAに提出するというのが私の仕事になります。
    また、他の団員と密接に連携しながら、最終的に相手国と協議議事録交わす段階まで、資料作成などのさまざまなフォローも行いました。コンサルタント2名が担当する業務は基本的に同じで、それぞれのグループに同行し、3ヶ国ずつ国を分担して調査にあたりました。本案件は、国境をまたいだ家畜の移動についての調査ですので、実際に関係者が誰も行ったことがない国境地域へ、テントや自炊のための食糧を持って車で何日もかけて道なき道を行き、実地調査を行うこともありました。

    また、調査業務の全体的なとりまとめ及び畜産分野における他ドナーの援助動向の調査は私が担当しました。具体的には、JICAがこれから実施しようとしている案件に対して、他のドナーがこれまで類似したプロジェクトを実施していないか、今後実施する可能性があるか、実施していた場合にはJICAのプロジェクトと整合性がとれるかどうかという点などについて、情報・意見交換を行いました。
    同時に、他ドナーと協力できる可能性がある場合は、今後プロジェクトが実施された場合を想定して、JICAと他ドナーとの円滑な関係を作るためのコーディネーション業務も行いました。1ヶ月という短い期間で、6ヶ国の調査分析を行うという本案件は、非常に難しく複雑な案件でしたが、今回調査した国々はいずれも以前仕事で関わっていたので、比較的問題なく業務が遂行できたと考えています。

    移動が多い印象ですが、調査団として派遣されている時の執務場所は何処になるのですか?

    今回のような事前評価調査ですと、通常プロジェクト事務所がありませんので、デスクワークを行う場所は、ホテルになります。昼間は、インタビューや会議でほとんど外になりますので、夜ホテルに戻ってから自分の部屋でデスクワークを行います。移動の時間に資料をまとめたりすることもありますね。なお本案件の場合、タイ側の好意もあり、フェーズ1で専門家が執務していたプロジェクト事務所も活用できました。とにかく短期決戦ですからね。私だけでなく、他の調査団メンバーも同じだと思います。最終的に協議議事録の署名まできて、やっとほっとできるのです。

    実際に現地に入って調査を開始する前に、事前準備などされるのですか?

    今回の調査の場合は、国内で5日間の事前準備期間がありました。 関連する情報を、JICAや在外事務所、私個人が持っているソースを用いてできる限り集め、質問表を作ります。そして、評価分析で欠かすことができない
    PDM(Project Design Matrix)、PO(Plan of Operation)のフレームをできる限り事前に準備しました。また短い期間で、結果を出すためには、チームワークも重要になりますので、団長や他の団員の考え方についても把握しておくよう努めています。
    本案件の場合は多少事情を知っていたので違いましたが、初めての案件に役務提供コンサルタントとして関わる場合は、まずJICAの案件担当者と連絡をとり、顔合わせ兼打合せを行います。調査団の対処方針の共有から役務提供コンサルタントに求める事項を確認する作業から入ります。

    「評価」という1つのコアになる専門性をお持ちですが、その専門性をそれぞれの国や案件の分野、例えば本案件では畜産といった分野に短期間で適用するためにどのような事前準備をされるのですか?

    私の専門はあくまで「評価」です。私は、ある分野の現況を調査・分析し、最終的にそのプロジェクトの評価を行うといった、違った切り口でアプローチする専門家だと思います。
    しかし実際には、その分野に関する知識が全くないと仕事になりませんから、事前の準備を行います。初めて携わる分野の仕事をする時は、まず関係資料をもらって日本語と英語の専門用語や略語の単語帳をつくります。
    イメージが沸き難い分野あるいは国・地域の仕事であれば、ビデオを見たり、担当者や関係者にインタビューするなどして、現地に派遣されてから戸惑うことなく短期決戦で最大の結果を出すため必要最低限の準備を行います。
    それ以外の部分は、その分野の専門家の方にサポートしていただいています。調査団員全員がそれぞれの専門性を生かして動き、足りない部分はフォローしあって調査を進めていく、このチームワークが重要だと思います。

    帰国後、国内ではどういった業務を行いますか?

    帰国後の整理期間として5日間ありました。連続して5日間実施する場合や、間隔を開けて実施する場合とありますが、私の場合は、帰りの飛行機の中から始めて、記憶が薄れる前に大まかな構想は練っておきます。
    主な業務は、現地で作成した資料などの整理、そして後にホームページに掲載する事前調査要約表のたたき台の作成、担当分野に関する報告内容の検討と全体の取りまとめへの協力、帰国報告会への出席です。

    これまでのキャリアの積み方、キャリア選択における軸や考え方をお聞かせください。

    大学では、国際経済を専攻して、卒業後は証券会社に就職しました。その中で、企業調査などに関わっていました。そして、会社を辞めて思い切って飛び込んだのが、海外協力隊です。パプアニューギニアに経済という職種で派遣され、プロジェクトの計画立案から実施、そして評価といった仕事をしていました。当時は、実施したプロジェクトに対しての評価の視点が非常に低く、殆ど行われていないのが現状でした。しかし、漠然とですが、計画と次につなげるための評価の重要性を感じていて、いつかそういう職につけたらいいなと感じたのを覚えています。
    その後、JICAの技術協力専門家などを務めた後、JICAの海外長期研修という制度を利用し、イギリスの大学院に留学をしました。その時の専攻テーマが「評価とマネジメント」でした。これ以降、「評価」を専門として、さまざまなJICAの案件に携わらせていただいています。

    役務提供コンサルタントの道を目指す方に向けてのメッセージをお願いします。

    正直言って、ハードルは高いと思います。その分野のプロフェショナルとして、短期間で色々なものが求められるので、あたふたできない。それなりの経験と落ち着いた洞察力が求められると思います。仕事は、難しく、しんどいことの方が多いのですが、だからこそやりがいがあると私は感じています。
    JICAで国際協力人材に求められる6つの資質と能力を発信されていますが、私も独自に、国際協力を行う上で必要なABCDEと言う持論を持っています。

    ・A( action )
    ・B( behavior )
    ・C( credibility )
    ・D( duty )
    ・E( experience )

    この内のbehavior、マインドあるいは振る舞いは重要だと考えています。役務提供コンサルタントとして専門性を持っている事は大事ですが、当然なこととして忘れられがちな、相手国を思って仕事をするというマインドが非常に大事だと思っています。

    今まで私は、調査団員や長期の技術協力専門家を経験してきたので、周りの人間によく「調査団員と長期の技術協力専門家の違い」を聞かれることがあります。二つの職種の大きな違いは、派遣期間の長短だと思いますが、仕事の内容もおのずと、長期的なものか短期的なものかによって変ってきます。
    しかし、専門家も公募・公示型になって所定の期間で成果を上げることがより求められるようになってきていますし、調査団員も長期的な視点をもって調査・分析を進めていかなければならなくなってきていると思っています。
    そういう意味では、専門家を経験された方にも、役務提供コンサルタントとして活躍の場があるのかなと思います。


    ※本記事は、2010年4月20日時点での情報となります。

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