40代まで縁遠かった国際協力。関西の生粋の商売人が中小企業で培ったノウハウを活かす。

西風 徹さん

国際協力機構(JICA) JICAカンボジア事務所 40代

  • 企画調査員(企画)
  • 多岐にわたる分野
  • キャリア年表

    ミュージシャン

    1996年(25歳)

    ミュージシャンの道を断念。

    薬局・ドラッグストアチェーン会社勤務

    2000~2006年

    本部にて、財務経理、直営店スーパーバイザー、店舗開発、営業・経営企画を担当。

    機械部品商社勤務

    2006~2013年

    営業、新規事業企画、海外マーケティング部マネージャー、農機補修部品販売子会社の企画・設立・代表を務める。
    ベトナム市場調査を単独で実施したことがきっかけとなり、海外で働く道を模索。

    JICA企画調査員

    2013~2015年

    JICAインド事務所にて経理業務。

    JICA企画調査員

    2015~2018年

    JICAアフガニスタン事務所にて調達業務。

    JICA企画調査員

    2018年~

    JICAカンボジア事務所にて、主に中小企業海外展開支援事業、シハヌークビル港SEZを担当。

    中小企業で身につけたスキルや経験があれば、ハードルは高くない。

    これまで、どのようなキャリアを積まれてきましたか?

    私はかつて、プロのミュージシャンを目指しバンド活動に専念していましたが、悔しくも、25歳のときに断念しました。そこから就職しようと思ったのですが、その当時の私は、アルバイト以外に何の経験もありませんでした。ガラス工場の製造ラインで働きながら、ビジネスのことを全般的に学べると考えて中小企業診断士の資格を取りました。

    その後、29歳のときに薬局・ドラッグストアチェーン会社に就職しました。1,000店舗以上からなるボランタリーチェーン(小規模商店の共同購買機構)という特殊な業態です。私は、財務・経理や経営企画、新規事業企画、さらには店舗開発、直営店のスーパーバイザーといった多様な業務を担当しました。仕事が変われば、前の仕事もついてくる、仕事が増える、という中小企業特有の働き方です。

    35歳のときに、新たなことにチャレンジする節目であると考え、前々から製造業の現場を見たかったこともあり、機械部品商社に転職しました。

    製造業に関心を持ったのは、日本の中小企業の動向分析が載った『中小企業白書』を見たことがきっかけです。白書では、製造業が中心的に分析されています。それを見た私は、日本の中小企業を考える上で、製造業の存在感が非常に大きいと考えました。

    転職した商社では、農業機械のコンポーネントを作っているような大手企業の協力企業に、伝動系機械部品を
    供給していました。営業として、生産や購買部長から情報を収集したり、研究開発部門を訪問し、顧客の新製品に組み込む部品を供給するための提案をしたりしていました。

    企画調査員(企画)となったきっかけは何ですか?

    機械部品商社では、新規事業を多数企画しました。そのうちの一つが、海外展開を視野に入れた海外市場調査でした。数カ国を候補に挙げて、マクロ情報、さらに3つの国の訪問を基礎に検討しました。新規事業立案は、主に私一人で行っていたので、最終的には、ベトナム一国に絞り込み、現地調査を始めました。ベトナムには合計
    5か月間出張し、機械部品の需要を聞き込みに行きました。JETROの展示会に出展したり、日系企業100社以上、現地企業30社程度を回りました。コネがなかったため、企業リストに載っている企業に片っ端から電話を
    かけ、ホーチミンやハノイの工業団地を歩いては、飛び込みで、「これ、なんぼ買いますか?」というように、その企業の製品に組み込まれる部品や製造ラインの補修部品の需要を聞き取りました。それらの現地情報を積み上げて、ベトナムの機械部品市場の今後の推移予測、会社の収入予測とコストを比較して、進出すべきかどうかを判断しました。結果的には、安定的利益の創出は難しい、リスクが高い、といった理由から進出は断念しました。

    しかし、私にとって、この経験が海外で働くターニングポイントになったのです。ベトナムの市場調査を機に、日本では経験できないことがたくさんあるということに気づきました。文化や価値観、歴史的な背景、商習慣、それから環境の違いがある人たちと商談をするということに、軽い興奮を覚えました。その時は英語も全く話せませんでしたが、身振り手振りを使ってやりとりをしたり、生産ラインを見せてもらったりした経験が、大変ではあったものの、面白かったのです。それを機に、「ずっと日本にいてもね…」と考えるようになりました。
    それに、そのまま別の中小企業に転職しても、地方には海外で働く機会はほとんどありませんでした。

    当時、何気なくインターネットの求人サイトに登録していたところ、丁度いいタイミングでJICAから「企画調査員(経理)」という職種のスカウトメールが届きました。その当時、私は国際協力に全く関心がなく、JICAのことも知らなかったのですが、経理の経験があり、フィールドとして面白いと考え、応募しました。しかし、その時は合格するとは全く思っていませんでした。学歴や今までのフィールドを考えたら、自分は畑違いだろうという考えもありました。また、地方の中小企業にいる人間にとって、JICAは敷居が高いイメージを持っていました。ところが、縁あって、インドで働くことになりました。

    インドでの企画調査員(経理)の仕事は、独特のイントネーションで、非常に流暢に英語を話すインド人との
    コミュニケーションにかなり苦労しましたが、徐々に慣れていきました。事務所の人にも恵まれ、雰囲気も良かったです。一方で、JICAの経理の仕事はシステム化されており、当時は、民間企業の経理と比べて、取り扱い
    処理量も少なかったので物足りなさを感じていました。そのため、同じ事務所の調達担当の方と協力して、経理事故防止のための業務にも取り組んでいました。

    インドでの任期が終わると、インド事務所で調達について勉強をしていたこともあり、2015年10月から、
    アフガニスタン事務所の調達の仕事に移りました。アフガニスタン事務所は人数が少なく、個々の所掌範囲も
    大きく、自由度があったため、サプライヤーの開拓や、ナショナル・スタッフの教育、総務や経理の一部にも
    手を広げ、規程の改訂を行ったりしていました。自分がしたいと思った仕事を自由にできる環境でした。また、
    アフガニスタン事務所のナショナル・スタッフが非常にいい人ばかりで、「彼らのために貢献したい」という
    意欲が湧きました。

    現在の業務について、具体的にどのようなことを担当されていますか?

    中小企業海外展開支援の仕事は、JICAにおける中小企業の窓口となる仕事であり、製造業や小売業、卸売業の
    経験を持ち、ベトナムでの市場調査の経験もある自分は、日系の中小企業に貢献できるのではないかと考えました。JICAの中にはそのようなキャリアを持つ人が少ないのではないかと考えたのもこのポストに応募した理由の1つです。

    現在、カンボジア事務所で担当している仕事は大きく3つに分かれます。

    1つ目は、JICAのスキームである海外展開支援事業の対応、促進です。まず、本事業への応募を検討している企業へ、カンボジアのビジネス環境の概要やインフラや水等の各セクター関連の情報提供をしています。各セクター担当者からの協力は欠かせません。また、本事業の採択企業からの活動報告や相談に対応し、アドバイスや情報提供、側面支援を行っています。JICAからの支援が終わった後、現地法人を立てて活動を継続されている企業に対しても、必要に応じて相談を受けています。

    2つ目は、シハヌークビル港にあるSEZ(経済特区)の誘致活動のサポートです。JICAが派遣しているアドバイザーチームと共にシハヌークビル港湾公社のSEZ部への調整を行ったり、進出を検討している企業に対する説明などをしています。

    3つ目は、カンボジアで事業を行う民間企業や、事業展開を視野に出張に来ている日系企業との面談です。
    そのような機会を通じて、民間企業のニーズや関心を知り、関係構築に取り組んでいます。また、カンボジア日本人商工会(JBAC)の委員会や部会に出席し、情報交換や交流をしています。加えて、日系企業が直面する問題等をカンボジアの関係省庁に共有し、改善を要請する官民合同会議について、JICAとして協力しています。

    現在の業務でのやりがいや仕事の魅力は何でしょうか?

    想像以上に多種多様な企業がカンボジアに来るので、知識の広がりも大きく、やりがいを感じています。
    カンボジアでの仕事は、日本企業を相手にすることが多くナショナル・スタッフと仕事をする機会は限られているのですが、アフガニスタンでは、ナショナル・スタッフと一緒に仕事をし、作り上げた時に大きな達成感を
    感じました。異文化の人と仕事をして、成功に至るプロセスに価値を感じます。

    一方、法整備の点等から、カンボジアのビジネス環境がどの業種にとっても良いとは言えず、隣国に比べて日系企業に対する魅力の低い部分があるのも事実です。事実をそのまま伝えることが必要ですから、希望をもって訪問される企業の想像と異なる点があることには心苦しさを感じることがあります。そうはいっても、自身も中小企業で海外展開を模索した経験から、できる限り現実的な話をするようにしています。

    また、海外で仕事をし、異文化や価値観、考え方が全く異なる人とコミュニケーションをとる、交渉するということを通して、コミュニケーションのとり方という点で多くの学びを得ています。例えば、日本的な言い方をしても通用しないため、相手の反応に対して、注意深くなったと思います。

    今後の目標やキャリアプランをお聞かせください。

    チャンスがあれば、JICAでの仕事を続けたいと思っています。いろいろな国に行けば、それぞれの国で学びがあります。人に恵まれていると感じることが多ため、JICAで仕事を続けることに魅力を感じています。自分の経験を生かすならば、中小企業海外展開支援という今のポストで、様々な国で働きたいと考えています。

    国際協力の道を目指す方、特に民間企業での経験を活かしたいと思われている方に向けてのメッセージをお願いします。

    地方の中小企業の人間にとって、JICAとの接点はほとんどありません。中小企業では自分次第で様々な仕事が経験できるので、中小企業で働いた経験を持つ人は、ジェネラルなスキルを有し、なおかつ専門性を持っていることが多いと思います。そういった人々にとって、JICAの企画調査員の仕事は活躍できる可能性が高いのではないでしょうか。

    だからこそ、民間企業で働いた経験を持つ人にも応募してほしいですし、私自身の経験として、基礎的なビジネススキルと論理的思考、計数能力、コミュニケーション能力があれば、対応できる部分が多いので、あまりハードルが高いと思わずに挑戦してもらいたいです。必ずしも国際協力の専門的なバックグラウンドは必要ありません。皆さんのような経験を持った人が求められていると思います。

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