協力隊から教育の世界へ。子どもの「わかった」を引き出す。

西方 憲広さん

国際協力機構(JICA) 国際協力機構(JICA) 人事部 60代

  • 国際協力専門員
  • 教育
  • キャリア年表

    大学学部生

    1979~1983年

    教育学部 小学校教員養成課程を修了。

    小学校教諭

    1983~1987年

    新潟県の公立小学校で学級担任として勤務。

    海外協力隊

    1987~1990年

    ホンジュラスに小学校教諭として派遣。

    小学校教諭

    1990~1996年

    新潟県の公立小学校で学級担任、チームティーチング主任、研究主任を担当。

    大学院

    1996~1998年

    国際協力研究科で教育社会学を専攻。

    専門調査員

    1998~2001年

    在ホンジュラス日本国大使館で政務、経済協力(主に草の根活動)担当。

    JICA長期専門家

    2001~2009年

    ホンジュラスで教育省副大臣アドバイザー、第1回中米広域算数協力総括を担当。

    JICA国際協力専門員

    2009~2016年

    本部でアフリカ・アジア・中南米教育案件担当。

    JICA長期専門家

    2016~2019年

    エルサルバドルで第2回中米広域数学教育協力総括を担当。

    JICA国際協力専門員

    2019年~現在

    本部でアフリカ・アジア・中南米教育案件担当。

    インタビュー

    国際協力に興味をもったきっかけは何ですか?

    教師として働いている時、TV番組で海外協力隊の教育隊員の存在を知り、「自分も途上国で教育協力に携わりたい」という思いを抱くようになりました。その後協力隊に応募したところ、運よく希望通りの教育隊員として参加することができました。帰国後、再び小学校の教師をする中で、日本は誰もが様々な機会に恵まれ、自分の夢を持てる社会であることを実感しました。恵まれた日本を再認識すると同時に、なぜ途上国の子どもたちは恵まれていないのか、と考えるようになったんです。このような経緯を通して「途上国の子どもたちのためになる教育協力を一生の仕事にしたい」という気持ちが一層強くなりました。

    これまでにどのようなキャリアを歩んでこられましたか?

    小学生の頃、壷井栄の『二十四の瞳』にあこがれて教師を目指しました。その後、海外協力隊に現職参加し、算数を中心に先生方に研修活動を実施しました。帰国後は、日本で再び教師として勤務。教師の仕事に生きがいを感じていましたが、国際協力への夢を捨てられず、退職して大学院へ進学しました。在学中は「途上国社会の中で学校教育はどのような役割を果たしているのか」を教育社会学の視点から考え、大使館でODA実務も経験しました。その後、JICAの長期専門家として働く機会を得て、教育省副大臣アドバイザーとしてカリキュラム政策やドナー協調(他援助機関との調整)、中米地域5か国を対象とした広域協力を担当。そこで教育協力の仕事の奥深さに魅了され、その後本格的に国際協力専門員を目指しました。

    現在の業務について、具体的にどのようなことを担当されていますか?

    JICAはアフリカ、アジア、中南米など、ほぼ全世界で教育協力を実施しています。現在、私は教育協力案件を策定したり、案件実施中により良い協力ができるように支援したりしています。また、途上国の人を日本に招いて学んでもらう研修の実施や、学会での発表、現地の教師向けの講演活動なども行っています。SDGsの目標4としても、学習の質を高めることが世界的課題と認識されていますが、私は主に算数・数学教育におけるカリキュラムや教科書の改訂、授業改善などを通して途上国の子どもたちの学びを支援しています。コロナ禍前は現地に出張することも多かったのですが、現在はオンライン会議やメールを通しての支援が中心です。プロジェクト終了後も該当国が子どもたちのための活動を継続するため「今、何をするべきか」を常に考えながら仕事をしています。

    現在の業務でのやりがいや仕事の魅力は何でしょうか?

    途上国の授業を見せていただく機会が多いのですが、「自分の子どもがこの教室でこの授業を受けていたら親である自分はどう感じるだろうか」、「途上国の親は我が子をどんな気持ちで学校に通わせているのかな」と思いながら見ることがあります。そうすると自然と授業を子どもの視点でも見ることができます。算数・数学の問題を考えることを通して「わかった」「できた」の毎日の小さな成功体験の積み重ねが、粘り強く取り組む力や整理して考える力を育み、大人になってからの生きる力につながると思っています。途上国の何百万、何千万、何億という子どもたちのために働いているんだと思うと、どんな仕事でもやりがいを感じます。今はコロナ禍のため残念ながらPCに向かって仕事をすることが多いですが、それでも画面の向こうに子どもたちがいる、と思って仕事をしているので充実しています。

    今後の目標やキャリアプランをお聞かせください。

    様々なリソースが足りない途上国においても、子どもたちに学ぶ喜びを届けるためにはどのような協力が必要かということが、JICAのプロジェクト経験やその他の援助機関の研究によって少しずつ分かってきました。より精緻化した、より確からしい戦略を多くのJICAプロジェクトで実践し、一人でも多くの子どもが「わかった」「できた」と学ぶ喜びを実感できるように、自分の力を常にブラッシュアップし続けないといけないと思っています。そのために、他の関係領域(社会心理学や社会学など)も参考にするようにしています。もちろん自分のキャリアの原点は子どもたちですので、機会があれば今後も途上国で協力活動に直接関わりたいとも思っています。

    国際協力の道を目指す方に向けてのメッセージをお願いします。

    私は、「国際協力ほど魅力的な活動はないのではないか?」と思っています。異なる文化的背景を持った国の人たちと同じ目標に向かって協力し合うことは、喜び以外の何物でもありません。また、自分が協力しているつもりだったけれど、実は自分の方が勉強になっていたということが多いのも国際協力の魅力です。恐らく、日本をベースとした自分が途上国の現実を通して相対化されることによって、異なって見えるからかもしれません。だからこそ国際協力は、自分自身をブラッシュアップできる場でもあると思います。ただ、途上国の人たちは「ボランティアだから」「仕事で来ている人だから」などの区別はなく、「日本人」として接してくれますので、日本人として一人一人が責任を持って行動をすることが前提になります。ぜひ、ご自身の人生設計の中の良いタイミングで、国際協力の現場を体験していただければと思います。

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