久保 優さん
国際協力NGO/NPO
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公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
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30代
NPO/NGO スタッフ
自然環境保全
キャリア年表
大学院生
2010~2012年
農学生命科学研究科で保全生態学を専攻。
国際協力機構(JICA)総合職
2012~2021年
農村開発部、マラウイ事務所、南アジア部で農業・農村開発、森林資源管理、水産資源管理などを担当。
WWFジャパン・コンサベーションオフィサー
2021年~現在
淡水グループに所属し、日本国内の淡水生態系保全、海外の綿花生産現場における水環境負荷低減に従事。
ODAでの多様な経験を、水辺の生態系と人間社会のために
国際協力に興味をもったきっかけは何ですか?
私は長野県出身で、小さな頃から田んぼや自然環境に囲まれて育ちました。もともと水辺の生態系や侵略的な外来生物が生態系に及ぼす影響に関心があり、将来は生物多様性の保全に貢献できる職業に就きたいと考えていました。大学院を修了するまでは海外に渡航した経験はなく、キャリアとしても当初は国内の課題に向き合いたいと考えていました。一方で、様々なメディアや文献を通して、特にアフリカにおける人口爆発や違法な狩猟、侵略的な外来生物の増加による淡水生態系の劣化といった事例を学ぶにつれ、開発途上国での生態系保全や生物多様性保全に貢献したいという思いが高まり、最初の国際協力キャリアとして国際協力機構(JICA)の総合職を選びました。
これまでにどのようなキャリアを歩んでこられましたか?
大学院まで生態系保全・保全生態学を学び、JICA入構後は、農村開発部(当時)にて、モロッコ、ウズベキスタン、エルサルバドル、パナマといった国々の水産資源管理、農業開発プロジェクトの形成や事業監理に取り組みました。その後、マラウイに駐在し、自然資源管理や農業開発等に携わり、帰国後は南アジア部でスリランカ、モルディブの事業総括、農村開発、水産資源管理や新型コロナウイルスに関連した財政支援等に従事しました。ご覧いただいてわかるように、担当する国や分野は多岐にわたり、節操がありません(笑)。 しかし、多国・多分野にわたる業務を通して様々な専門家や現地のパートナーと接し、知識・スキルを身につけられたことは、今につながる大きな財産です。まさに総合職の醍醐味と感謝しています。
現在の業務について、具体的にどのようなことを担当されていますか?
現在は、WWFジャパン自然保護室の「淡水グループ」に所属し、国内における淡水生態系保全プロジェクト、海外の繊維生産現場における水環境への負荷低減と生態系保全に取り組んでいます。国内では、九州の有明海に流入する河川流域を対象とし、水田水路に生息する氾濫原依存の生きものの保全や、近年頻発する豪雨災害と関連付けて、治水と生物多様性保全の両立を目指すプロジェクトに、研究者や自治体の皆さまと取り組んでいます。海外については、トルコやインド等の水ストレスの高い地域で栽培される「綿花」を対象として、栽培現場や染色工程等で生じる水の大量消費・汚染の低減とアパレル企業の調達変容のためのプロジェクトに、現地のWWFオフィスとともに取り組んでいます。
現在の業務でのやりがいや仕事の魅力は何でしょうか?
「非政府」の立場で課題に当たることにやりがいを感じています。NGOに就職して驚いたことは、世の中に「グリーンウォッシュ(環境への配慮が行き届いているかのような見せ方をしながら、実際にはそうでない企業等の活動)」が横行しているという事実でした。私たちは、現在進行形の自然環境の劣化に対して、人間活動と生態系保全の両立を目指し、科学者や市民社会と連携して様々な提案を行政や民間企業に対して行っています。その中でも、民間企業のパートナーに対しては、国内のみならず海外の事業拠点やサプライチェーンにまで目を光らせて、環境や人権に配慮した調達を働きかけます。このような取り組みは政府系機関では難しい側面でもあり、NGO職員として働く、大きな魅力と感じています。
今後の目標やキャリアプランをお聞かせください。
現在のポストでは、国内・海外の両方の現場を担当しています。それぞれ毛色が異なり、頭の切り替えに苦労する面もありますが、持続可能な社会の実現に向けていずれも重要な取り組みであり、引き続き従事することを通して淡水生態系の保全に貢献し、自身の専門性を高めていきたいと考えています。国内の現場では、他のNGOと連携して渡り鳥(ツル類)の越冬地分散化のための基礎的な調査、研究者との協働による流域治水と生物多様性保全の両立に向けた調査研究を進めています。このような取り組みをうまく取りまとめ、行政や民間企業、市民の皆様にわかりやすく伝えることが私自身の直近の課題です。
国際協力の道を目指す方に向けてのメッセージをお願いします。
私はJICA総合職として国際協力キャリアをスタートしましたが、その中で痛感したのは、特に日本が持つ技術や知見に関する知識・経験不足でした。もちろん、日本の知見・経験がそのまま開発途上国にフィットするわけではありませんが、常に日本国内の動向を学んだり、「自分のフィールド」を持っておくことは、海外の方々との「ナレッジシェアリング」のタネになりますし、海外で活動するうえでの自信につながるかもしれません。
政府系の立場、非政府の立場、それぞれに魅力があります。様々な立場の先輩方にお話を聞くことで、次のステップを経験してみてください。私もまだまだ道の途中です。