「農業土木」「大学研究者」からの水のキャリア
~海外放浪中の出会いから始まった途上国への貢献~

  • 国際機関 職員
  • 水資源
  • 農/水産/土木学系

  • 鎗内 美奈さん

    田中 幸夫さん
    国際機関 / 世界銀行グループ / 40代

    大学学部生・大学院生(修士)

    1998〜2004年

    東京大学で農業土木分野を専攻し、持続可能な農業用水の維持管理についての研究に従事

    国際機関インターン

    2005〜2006年

    国連環境プログラム(UNEP)による水資源管理プロジェクトに従事@バンコク

    大学院生(博士)

    2006〜2007年

    東京大学農学部にて国際河川における水利用についての研究に従事(2011年に博士号取得)

    大学教員

    2007~2012年

    東京大学新領域創成科学研究科国際協力学専攻にて助教(2011年からは講師)として研究教育に従事

    JICA職員

    2012~2017年

    JICAにて水資源・防災分野のプロジェクトに従事(2015~17年はネパール事務所駐在)

    国際機関職員

    2017~現在

    世界銀行水グローバルプラクティスにて水資源・防災分野のプロジェクトに従事

    大学教員、実務者と立場を変えながら、あの日抱いた問題意識に迫る

    国際協力の「最初の一歩」とは?

    何となく環境問題に興味があって大学に進学しましたが、いくつか関連する授業を受ける中で、自分は環境よりも人間そのものに興味があるということに気付きました。
    「じゃあ何を専攻しよう」と悩んでいた矢先、とある人の勧めで大学の近所にある留学生会館を訪れました。そこで知り合ったバングラデシュの留学生たちと話しているうちにバングラデシュに興味が湧き、人生初の海外旅行としてバングラデシュを1か月放浪しました。
    バングラデシュのことがより好きになると同時に、一生懸命働いても貧困から抜け出せない現地の人々の姿にショックを受けました。
    自分も何かしら貢献したいと思うようになり、帰国の飛行機の中では「いつか必ずプロとなって戻ってくる」と決意していました。

    学生時代をどのように過ごしましたか?

    上述のバングラデシュ旅行のあと、大学の学部3・4年での専攻分野を決めるために、学内の様々な研究室(地域研究、都市計画、文化人類学、農村計画、etc)を訪問しました。
    様々な教員や院生の方々の話を聞いた結果、農業土木を専攻することに決めました。(ちなみに、これらの訪問は全てノーアポで、今思うとやや非常識だったと思いますが、そういった懐の深さが大学の良さであると思います)
    農学部で水資源を研究テーマに決めてからは、学内の文理様々な学部で水の研究をしている人と「水勉強会」を立ち上げ、セミナーや現場視察をしていました。
    振り返ってみると、わからないことがあった時、いつも行動力で補っていましたが、そうした過程で出会った人々や学んだことは今でも人生の宝物です。

    国際協力系のキャリア形成におけるギャップとは?

    純粋な情熱でこの道を志しましたが、現実的には国際協力キャリアには(一般の企業就職と違い)これといった正解がなく、5年、10年先の見通しが立たず、そもそもプロとして活躍する舞台に立てるかさえもわからない不安とストレスは常にありました(結婚して家庭を持ってからは特に)。
    しかし今思うと、そういった不安こそが自分の努力を駆り立てる原動力だったというのもまた真で、今はむしろ将来の見通しが立ってしまうと「これでいいのか?」不安にさえなってしまいます。笑
    ポジティブな想定外事項としては、立場を転々としていると、過去に寄り道的に取り組んでいたことが思わぬところで役立つことがよくありました。ゴールへの最短経路だけでなく、何事にも一生懸命取り組むことの大切さを感じます。

    いま、どんな仕事・働き方をしていますか?

    南アジア(主にインド)の洪水・渇水対策や灌漑農業プロジェクトの準備や実施に取り組んでいます。
    インドは経済成長が著しい一方で気候変動の影響も顕著で、毎年のように国のあちこちで深刻な洪水・渇水が発生し、発展の妨げとなっています。現地政府と相談しながら、災害に強い国土づくりのための計画策定やインフラ整備を実施しています。
    水は人の命や経済活動に欠かせない社会的資源であると同時に、自然の理(ことわり)に従って循環する物質でもあり、自然科学と社会科学が交錯するのが魅力です。
    チームメンバーは本部(ワシントンDC)、インド、シンガポール、ヨーロッパなど世界各地に散っており、お互い持ち味を生かしながら協力しています。同僚の国籍もアジア、欧米、アフリカと多様です。

    政府職員だけでなく水の利用者である住民の声を聞くことも大切です

    政府職員だけでなく水の利用者である住民の声を聞くことも大切です

    印象に残っている経験・エピソードはなんですか?

    世界銀行に入って間もない頃に担当したスーダンは、長らく国際社会から経済制裁を受けており、世界銀行のプロジェクトも僅かしかありませんでした。
    そんな中、私は世界銀行の水セクター担当者としてほぼ単身で乗り込み、世界銀行に対して懐疑的だった先方政府の人と少しずつ信頼関係を築き上げ、2年近くかけて水セクターの開発計画を共同でまとめ上げることができました。
    それから間もない2020年に制裁が解除され、上述の計画に基づき世界銀行が融資するあと一歩のところまでこぎつけたのですが、翌21年に起こったクーデターにより頓挫してしまいました。
    残念ながらハッピーエンドではありませんが、その過程で触れたスーダン人の優しさや気高さ、共にした苦楽は今も忘れられません。今日も続く悲劇的な内紛が一日も早く終結することを祈っています。

    大勢の人の前での講演は何度経験しても緊張します。。

    大勢の人の前での講演は何度経験しても緊張します。。

    国際協力における大切なこととは?これから一歩を踏み出す人たちへ

    難しい質問ですが、強いて挙げるとすれば「動く」ことと「立ち止まる」ことの反復・バランスでしょうか。国際協力は現場ありきの分野であるため、実際に現地に赴いて現状や課題を肌で感じ取ることぬきには語れません。
    一方で、その課題に取り組むための切り口(=専門性)を獲得するためには、現場で見聞きしたことをじっくり反芻して自己研鑽に励むというプロセスが欠かせません。
    自身を振り返ってみても、行動が先行して消化不良気味になったら少し立ち止まって自省・自己研鑽し、それがひと段落して現場が恋しくなったら現場に戻る、というサイクルを心がけてきたように思います。
    なかなかとっかかりを掴みにくい分野ではありますが、大切なのは貢献したいと思うその気持ちです。是非皆さんも一歩を踏み出してみてください!

    インド水チームの同僚と。多様な背景を持つ同僚との協働は刺激的です

    インド水チームの同僚と。多様な背景を持つ同僚との協働は刺激的です


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