FIELD STORY(9月号)
大規模な円借款を実施マニラ首都圏に鉄道整備を
JICAフィリピン事務所長 和田 義郎 所長
大規模な円借款を実施マニラ首都圏に鉄道整備を
フィリピンは、人口1億人を擁する東南アジアの新興国です。製造業と海外への出稼ぎ労働を基盤にこの10年間で一人あたり国民総所得(GNI)が約2.5倍の3,600ドルにまで伸び、経済成長の黄金期を迎えています。人口も2050年まで増加すると見られ、今後も高い英語力を有する若い労働力が産業を牽引することが期待されます。
一方、フィリピンは経済成長に伴ってさまざまな課題に直面しています。人口が過密化する首都マニラでは、東京23区とほぼ同じ面積に約1,300万人が暮らしており、生活インフラの不足が深刻です。長年、ミンダナオ島をはじめ、島しょ地域の開発は遅れており、地域格差が広がっています。
さらに、同国は日本と同じく台風や地震などの自然災害の多い国でもあり、2013年には台風ヨランダが中部地域に上陸し、甚大な被害をもたらしました。近年は地球温暖化の影響からか、これまで影響のなかった地域も台風による洪水被害に見舞われています。
こうした中で2016年に就任したドゥテルテ大統領は全国の有権者から絶大な支持を背景に現在、治安対策や税制改革、インフラ投資などを実行に移しています。フィリピンの最大ドナー国である日本も、①持続的経済成長のための基盤強化、②包摂的な成長のための人間の安全保障の確保、③ミンダナオにおける平和と開発を柱にフィリピンに協力しています。
①では、現在、大型の鉄道整備事業を進めています。過密化が進むマニラ首都圏ではすでに高架鉄道3路線が整備されていますが、増大する交通需要に対応できず交通渋滞が深刻化しています。そこで、首都圏を南北に走る2本の鉄道整備を支援しています。
その一つが、マニラ首都圏と郊外都市を結ぶ「南北通勤鉄道」です。首都圏中心部とそこから100キロ近く北に位置する「クラーク国際空港」をつなぐほか、首都圏から南のラグナ州カランバを目指して路線の延伸も進めます。 一方、同国初の地下鉄整備も進めており、第一期の事業として2025年までに首都圏内の約25kmの地下鉄を整備する予定です。いずれも本邦技術活用条件(STEP)が適用される円借款事業であり、日本企業の優れた技術を活用します。
首都圏で洪水対策を実施ミンダナオでは平和構築支援を
②の取り組みとしては、防災支援に注力しています。特にマニラ首都圏は沿岸低地に位置し、2009年の台風オンドイなどによってこれまで幾度となく洪水被害を受けてきました。加えて、昨今の気候変動や首都圏の拡大を受けて一層の洪水対策が必要です。
そこで、JICAは首都圏を貫くパッシグ・マリキナ川を改修する円借款事業を実施しています。現在はマリキナ川下流部の堤防建設などに取り組んでおり、今後この川の上流部分の堤防建設も行います。また、2011年の熱帯暴風雨センドンで甚大な被害を受けたミンダナオ島北部のカガヤン・デ・オロ市における洪水対策や、同島中心地のダバオ市の洪水対策マスタープランの策定などにも協力しています。
他方、③のミンダナオ和平への協力も忘れてはなりません。同島では1970年以降、独立を求めるイスラム系住民とフィリピン政府との間で武力紛争が続いていましたが、2014年に「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)と政府の間で和平合意がなされ、18年7月にはついに「バンサモロ基本法」が成立するなど新自治政府の設立に向けた動きが加速しています。一方、同島では治安当局とイスラム過激派組織との散発的な戦闘や構成員の摘発が続くなど、未だに不安定な状況です。
こうした中でJICAは13年からバンサモロ政府への円滑な移行に向けた技術協力を実施。新自治政府の樹立に先立ち、MILFや「ムスリム・ミンダナオ自治区」、地方自治体と連携し、行政能力の向上や開発計画の策定、地場産業の育成などを進めてきました。また、昨年フィリピン軍とイスラム過激派組織との間で武力紛争が発生したマラウィ市の復興に向けて無償資金協力も実施。ミンダナオ島の平和と安定を粘り強く後押ししています。
フィリピンは著しい経済成長を遂げる一方、このように多くの課題を抱えています。日本は長年のODAによって同国で圧倒的な信頼を勝ち取っており、今後も「マグサイサイ賞」を受賞した青年海外協力隊事業や留学生受け入れ事業なども含め、多彩な協力を展開していきたいと考えています。
国際開発ジャーナル社 ( https://www.idj.co.jp/ )
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