FIELD STORY(2月号)

ものづくりの特性を生かす
地元企業との連携を強化

JICA中部 長 英一郎所長

JICA中部 長 英一郎所長

開発途上国ビジネスセミナーを開催
民間企業の案件形成から実施までをサポート

国際協力機構(JICA)中部センター(JICA中部)は、1961年に愛知県名古屋市に前身の「名古屋国際研修会館」が設立されて以来50年以上の歴史を有し、愛知県、岐阜県、三重県、静岡県の4県を所管しています。令和という新しい時代が幕を開けた2019年には、同市中村区の再開発地区である、ささしま地区に移転して10年の節目を迎えました。移転当時、周辺の土地は広く荒涼としていましたが、名古屋駅に近いというアクセスの良さもあり、現在では大学、ショッピングモール、テレビ局、ホテルなどが立ち並び、名古屋における注目エリアへと大変貌を遂げています。中部地域は伝統的な強みである「ものづくり」の基盤とデジタル技術の融合を推進しているため、開発途上国の抱える課題解決へのポテンシャルが非常に高いと言えます。

そのため、近年、JICA中部は民間企業との連携や所管地域の企業の海外展開支援に力を入れています。
例えば、JICA中部と連携協定を締結している金融機関は名古屋銀行、中京銀行など9行ありますが、これらの金融機関と、優れた技術を持つ企業や海外展開を考えている企業に関する情報交換を行っています。

また日本貿易振興機構(JETRO)や中部経済連合会、名古屋商工会議所など地域経済団体との関係も深めています。こうした団体の協力を得ながら、JICA中部は開発途上国に関するビジネスセミナーを積極的に開催しています。19年に実施したセミナーは27件で、延べ約450社の企業が参加しました。同年12月には留学生と日本企業のネットワーキングを促進する「アフリカ出身留学生の魅力」と題するセミナーを開催し、70名を超える留学生と50社を超える企業が参加しました。

加えて、さまざまな業種や業態の事業者が参加する展示会「メッセナゴヤ」にJICA中部としてもブースを出展しています。こうした取り組みの結果、民間企業からJICAの支援スキームへの照会も増えてきています。

さらに、JICA中部では18年度より本部から移管された民間連携事業の採択後の実施監理業務を担っています。これにより、地元企業の方々にとってより身近な場所で案件の形成から実施段階までをサポートするワンストップサービスの展開が可能となっています。このサービスをスムーズに提供できるよう、今後も引き続き体制づくりに注力していきます。

なごや地球ひろばで新入社員研修を実施
訪問者数100万人突破を目指す

研修事業では、中部地域のものづくり技術に立脚した産業集積や輸出量・金額共に日本一の名古屋港、木曽三川などの豊かな自然環境といった特性を生かしています。自治体や企業、大学などの協力を得ながら「中小企業振興」「品質管理・生産性向上」「上水道無収水対策」などの研修を実施しています。研修員は専門性を高めつつ、学校訪問や企業交流会を行うことで地域の国際化にも貢献していると言えます。

JICA中部の特色の1つに、「なごや地球ひろば」を有していることが挙げられます。ここは中部地域における唯一の持続可能な開発目標(SDGs)に関する常設展示スペースになっています。これまで多くの学校訪問を受け入れる一方で、小学生向けの親子合宿やキャリアセミナー、併設するフェアトレードショップとの連動企画など多様なイベントも実施しました。また地元の社会福祉協議会など高齢者の方の訪問も増えています。最近では企業の訪問も増えており、19年春には十六銀行の新入社員研修がなごや地球ひろばで実施されました。国会議員や県会議員の訪問も受けるなど、SDGsへの関心の高まりを感じています。なごや地球ひろばへの訪問者はこの10年で累計88万人を超えています。20年度中の訪問者数100万人突破を目指し、一般や企業の方向けの展示を充実させるなどして、より多くの方々に利用してもらえるように広報の強化を進めていきます。

なごや地球ひろばで新入社員研修の様子

中部地域は日本国内でも特に外国人労働者が多く、年々その数は増えています。JICA中部としても外国人労働者問題への対応や多文化共生への社会づくりを進める上で何か貢献できることはないかと、地元の自治体や教育委員会などとの意見交換を現在進めています。例えば、JICA青年海外協力隊の帰国隊員やこれまでのプロジェクトで作成した現地語の教科書の活用なども考えられるでしょう。

東京オリンピック・パラリンピックを控える中、19年にはJICA青年海外協力隊員がコーチをしているマダガスカルの7人制女子ラグビーチームが、同国のホストタウンである岐阜県郡上市で開催された大会に出場しました。そこで、JICA中部はマダガスカルの事情やJICAの取り組みを紹介しました。こうした国際大会を活用し、「スポーツと開発」分野へ貢献していくことに加え、地域の幅広いパートナーから頼りとされる存在になることを目指していきます。

国際開発ジャーナル社 https://www.idj.co.jp/

国際開発ジャーナル2020年2月号
<今月の特集>
テクノロジーが拓く新地平~途上国の生き残り戦略
1.新たなイノベーション 2.開発援助の挑戦
□世界の景色から パラグアイ
□Message from abroad
リオデジャネイロ五輪 難民選手団 陸上女子800m走選手
ローズ・ナティケ・ロコニエン氏
□荒木光弥の「羅針盤」 「温故知新」のODA中国写真展
□論説委員の視点 デジタル化時代と開発途上国の産業発展
政策研究大学院大学(GRIPS) 客員教授 大野 泉氏
□Devex News
□こだわりの現場主義
アビームコンサルティング(株)
金融・社会インフラビジネスユニット
社会インフラサービスセクター マネージャー
竹内知成
□連載 IDE-JETRO×Country Review
「ジャワ中心主義」からの脱却へ
日本貿易振興機構(ジェトロ)
アジア経済研究所 学術情報センター主査
川村 晃一
□世界を読む 「アフリカ健康構想」に向けたNGOの役割
(特非)日本リザルツ ケニア駐在員 長坂 優子
□BOOK 日中未来遺産―中国「改革開放」の中の“草の根”
日中開発協力の「記憶」
□連載 Toward 2030 SDGsフロントランナー Vol.9
住友化学(株)
□連載 コンサルタントの展望 Vol.5
八千代エンジニヤリング(株) 代表取締役/社長執行役員 出水 重光氏 □開発コンサルタントニュース
□民間企業の海外展開支援
(株)コモテック 代表取締役社長 小森 正憲氏
□国際協力プロジェクト情報
□News & Topics
□編集後記