FIELD STORY(3月号)
高い経済成長を誇る多民族国家、中所得国を目指す
JICAエチオピア事務所 晋川 眞 所長
市場経済化に向け経済改革に着手
小規模・零細企業の振興を図る
アフリカの東部に位置するエチオピアは、およそ80の民族からなる多民族国家です。同国の全9州は主要民族ごとに形成されています。2018年より首相を務めるアビィ・アハメド・アリ氏は、19年12月に新党を結成しました。これは、8州の民族政党が政権運営に携わることを目指したものです。
アビィ首相は18年にエリトリアとの和平合意を実現したことも評価され、翌19年にはノーベル平和賞を受賞しました。他方、20年8月に統一選挙を控える中、同国オロミア州を中心に民族優先主義を主張するデモが頻発し、特に若者による犯罪が増加傾向にあるなど、治安面での不安も抱えています。
また、人口約1億1,000万人という大きな市場を抱える同国は、18年のGDP経済成長率が6.8%と、経済的には高いポテンシャルを有しています。背景の一つには人件費の安さがあり、中国やトルコ、インドからの外国投資が伸びています。一方、製造業が十分に育っていないことなどから、経済基盤はぜい弱です。構造的な貿易赤字を抱えており、25年までに下位中所得国入りを目指す上での大きな課題となっています。このため同国では、政府が19年10月に発表した経済改革の方針を示したアジェンダに基づき、市場経済化や投資環境の整備などが進められる予定です。その一つとして現在、国営企業の民営化に取り組んでいます。
同国では、国内の企業約50万社のうちおよそ98%を、従業員30人以下の小規模・零細企業が占めています。これらの企業は、不安定な電力供給や高利子による融資獲得の難しさに加えて、生産計画の見通しがないといった経営ノウハウの不足により、その経営基盤は不安定です。従来から同国の公的機関や職業技術教育・訓練
(TVET)機関が民間企業へのコンサルティングを実施するビジネス開発サービス(BDS)を提供していますが、その主な対象は大企業でした。そこでJICAは、18年より中小・零細企業(MSME)を対象にBDSを提供する体制の強化に取り組んでいます。同国政府が自主的に運営していけるような仕組みづくりも行うほか、座学や実務研修などを通じたカウンセラーやコンサルタントの育成、関係機関のネットワーク形成も引き続き支援していきます。
天候リスクに備えた農業保険を導入
水分野の人材育成にも貢献
エチオピアの農業分野は、労働人口の約70%、GDPの約40%、輸出総額の70%以上を占めており、貧困削減および経済成長の核になると言えます。平均耕作面積1ha未満の小規模農家が多く、大半は天水に依存した農業を営んでいます。このため、たびたび発生する干ばつなどの自然災害により、食糧危機が起こりやすくなっています。そこで、干ばつにも耐えうる農業を目指した技術協力プロジェクトを2012年より開始しました。そのパイロット事業の1つとして、オロミア州の降雨量が少ない県で導入したのが「インデックス保険」です。この保険は、例えば、降雨量が一定の値を下回ると自動的に保険金が支払われるなど、保険会社の損害調査を必要としないことで農家が受け入れやすい形にしています。19年からは対象地域を同州内の6県へと拡大し、この保険と農業技術の指導や肥料・種子の投入などを組み合わせた「レジリエンス強化パッケージ(REP)」の普及を目指しています。今後は市場アクセスの改善などを含めた農産物バリューチェーン全体を視野に入れた支援も行っていきます。
また、同国のインフラ整備も継続して行います。例えば水分野においては、同国は安全な水へのアクセス率が
57%と低い水準にあります。特に、工業化に伴い都市部の環境汚染が深刻化している中、上下水道施設の運営維持管理を担う人材育成や能力強化は喫緊の課題です。
JICAは水分野の技術研修・訓練を担う水技術機構(EWTI)の設立や講師の育成を支援しており、そこで育成された水道技術者の数は15年間で4,000人に上ります。一方、国内の上下水道公社や民間企業のニーズを踏まえた実務的な研修を企画・立案・実施するための研修マネジメント体制や EWTI 内部で研修講師を育成するための研修実施体制はまだ不十分と言えます。
17年からはそうした体制強化を図る技術協力プロジェクトを実施しています。EWTIの職員を対象とした研修に加え、19年にはナイジェリアとマラウイからも技術者を招へいし、掘削技術に関する第三国研修も行いました。
こうした現地での技術協力を継続しつつ、日本国内との連携も強化していきます。具体的には、研修事業を活用して今後3年間で100人程度のエチオピアの人々を日本国内の複数地域に派遣する予定です。このような取り組みを通じて、エチオピアと日本との交流促進をさらに図っていきます。
国際開発ジャーナル社 ( https://www.idj.co.jp/ )
“負の連鎖” 断つ開発協力~平和構築における日本の役割は
1.概論 2.ODAの挑戦 3.新たな貢献の形
□世界の景色から ソロモン諸島
□Message from abroad
環境活動家 ジョアンナ・アライ氏
□荒木光弥の「羅針盤」 途上国援助“第3の波”
□特別記事 オープンイノベーションを推進
日本工営グループ
□論説委員の視点 平和構築というODA
(株)アルメックVPI 代表取締役 長山 勝英氏
□DIDJ REPORT 「 中村後」を歩み出したペシャワール会
□BOOK 編著者に聞く
上智大学 国際協力人材育成センター 副所長/
グローバル教育センター 教授 東 大作
国際協力機構(JICA) 国際協力専門員(平和構築)
小向 絵理
国際協力機構(JICA)研究所 研究員
大貫 真友子
□私の提言 平和構築支援として積極展開を
国際協力機構(JICA) 元専門家/JICAコロンビア支所長
上條 直樹
□世界を読む 記者殺害事件で露呈した日本企業の欠点
(株)Double Feather Partners
アドバイザー(政治リスク分析)
石郷岡 宏記
□連載 国会議員の目 参議院議員 公明党 谷合 正明氏
□連載 IDE-JETRO×Country Review
求められる「紛争下の開発」モデル
日本貿易振興機構(ジェトロ) アジア経済研究所 研究推進部
上席主任調査研究員 佐藤 寛
□連載 日本の選択 最終回/質の高い・競争力のある開発協力へ
立命館大学 名誉教授 唐沢 敬
□Devex News
□連載 コンサルタントの展望 Vol.6
(株)レックス・インターナショナル 代表取締役 橋本 強司氏
□開発コンサルタントニュース
□民間企業の海外展開支援
音羽電機工業(株)アフリカ事業室 取締役 井上 真二氏
□大学の国際化最前線 城西国際大学大学院
国際アドミニストレーション研究科
□News & Topics
□編集後記